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今月の話題

肖像権って何?
~SNSを楽しく安心して利用するために~

ひかり総合法律事務所
弁護士 髙木( たかぎ ) 篤夫( あつお )

SNSやブログなどインターネットで、自分がスマートフォンなどで撮影した写真や動画を投稿する人も多いでしょう。

そんな写真や動画に知らない人が写っていたら? 何げなくSNSなどに投稿した写真や動画が「肖像権」などの権利を侵害してトラブルを招いてしまうこともあり得ます。

肖像権という権利を題材に、投稿する写真や動画について注意することを確認しておきましょう。

肖像権とは?

誰でも、承諾なしに、その容貌・姿態を撮影されない自由があります。この自由を法的に保護するのが肖像権です。肖像権は法律で定められているものではなく、判例で認められた権利で、分かりやすくいうと、「人が撮影されたり、撮影された写真や動画などを公表・利用されたりしない権利」といえます。

広義の肖像権には、パブリシティ権も含まれるといわれます。パブリシティ権は、著名人の肖像や氏名等の識別情報が経済的価値を持つ場合に、財産的な面から保護するものです。一般的に、著名人が写り込んだ写真や動画を私的に投稿することが著名人の肖像の商業的利用と認められる場合は少ないと考えられます。

肖像権侵害になるかはどのように判断するのでしょうか

人には肖像権があるものと考えられていますが、他人が写り込んだ写真や動画の撮影行為やSNSなどでの投稿が全て肖像権侵害に当たるわけではありません。肖像権の保護は無制限ではなく、ほかの権利との関係で一定の制約を受けることがあります。

判例では、ある人の容貌等を承諾なく撮影することが肖像権侵害になるかどうかは、①撮影された人の社会的地位や②活動内容(政治的集会など)、③撮影場所、④撮影の目的、⑤撮影された様子、⑥撮影の必要性等を総合考慮して、その人の肖像についての利益が損なわれても社会生活を送る上では我慢しなければならない程度(受忍限度といいます。)であるかどうかで判断しています。

つまり、肖像権という権利と撮影行為を認める利益とを比較衡量して、権利が侵害されたのかを判断しましょうということです。そして、比較して考えるときには①~⑥を総合的に判断しましょうといっています。

肖像権侵害になるかを具体的に考えてみましょう

有名な観光地で、スマホで撮影した動画をSNSに投稿したところ、動画の中に無関係な一般人と著名人の肖像が映り込んでいた事例を考えてみます。

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映り込んだ肖像が、誰であるか特定できない場合

例えば、肖像が小さかったり解像度が低くて個人を特定できないときやぼかしやモザイクなどを入れている場合は、関係ない人が映っていたとしてもそもそも誰なのか分からないので、肖像権侵害にはならないと考えられます。

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映り込んだ肖像が、誰であるか特定できる場合

有名な観光地で訪れた記念に個人的に撮影することは目的として正当なものですし、そこで無関係な人がたまたま映り込んでしまうことは、社会生活上しばしば起こり得るものです。そのため、撮影したときに無関係な人が映り込んだことが、その人の社会生活上受忍限度を超えているとはいいがたいという場合が多いと考えられます。

SNS上にその動画を投稿することは、映った人の肖像を公表したことになりますが、こうした投稿自体も映り込んだ人の社会生活上受忍限度を超えたものといえないことが多いと思われます。ただし、個別具体的な事案ごとに受忍限度を超えるかが判断されるため、撮影の状況や場所などによっては肖像権侵害となる可能性はあります。

映り込んだ人が著名人の場合

有名な観光地という公共的空間での映り込みであることや、著名人という社会的地位からみれば広く存在や行動が注目される立場にあること、商業的利用でなく撮影者の私的な撮影であれば、著名人も肖像の利用を承諾するだろうことが一般的に推測できることなどを考えると、一般人の場合よりも、肖像権侵害とはいえないことが多いと思われます。

からの事例は、有名な観光地での記念撮影であり、撮影された人の活動内容は通常は知られても社会生活上問題がない事例です。一方で、政治的集会や一般的に参加していることを公表されたくないイベントなどでの撮影では、肖像権侵害になる可能性は高まるといえますから、どのような機会の撮影なのかにも注意しましょう。

プライバシー権

プライバシー権を、「私生活をみだりに公表されない権利」と理解する裁判例があります。このように理解すると、プライバシー権は、肖像を公表されない権利を含んでいるといえます。プライバシー権は、肖像権と同じく人格的な利益として法的保護が認められています。ただし、これも法律に規定されている権利ではありません。

プライバシーを侵害されたといえるためには、「①私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られる恐れのある事柄であること、②公開を望まないであろう事柄であること、③一般の人々にいまだ知られていない事柄であること、④公開によってその人が実際に不快・不安の念を覚えたこと」が必要であるとされています。肖像権侵害だけでなく、他人のプライバシーにも配慮することが求められます。

もしも自分や家族の写真や動画がSNSに投稿されていたら

自分や自分の家族の写真や動画がSNSに投稿されていたと分かったら、肖像権侵害やプライバシー侵害の可能性を指摘して、投稿した人に削除するよう要請しましょう。また、SNSの運営者に権利侵害があったとして削除請求をすることも考えられます。弁護士など専門家に相談して対応を考えてみるのもよいでしょう。

安心してSNSを利用するために

無関係な人が写り込んでいる写真や動画は、その人が特定できないようなぼかしやマスキングをしたり、トリミングして除外するなどの配慮をしましょう。また、SNSへの投稿に当たっては、一緒に写った人に事前に許可を得るようにすれば問題は生じません。なお、写り込みは人だけでなく、著作物についても配慮するべき場合もあります。

他人の権利に気を配ることが、安心してSNSを利用していくために必要なことです。