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今月の話題

デジタル遺品で困らないために

デジタル遺品を考える会代表/記者
古田( ふるた ) 雄介( ゆうすけ )

スマートフォン(スマホ)やSNS(交流サイト)、ネット銀行に○○ペイなど、最近はデジタルの道具が暮らしにすっかりなじんできましたね。持ち主に不幸があると、それらは「デジタル遺品」となってしまいます。

さてこのデジタル遺品、どのように対応すれば良いのでしょうか?

デジタルの持ち物も遺品になる

最近は年代を問わず、デジタルを利用することが日常的になっています。持ち主に不幸があるとそれらは、デジタル遺品として残ってしまいます。

デジタル遺品に厳密な定義はありませんが、デジタル環境を通してしか実態がつかめない遺品を指すと考えるとよいでしょう。大きく分けると2つ、①亡くなった人が持っていたスマホやパソコンなどのデジタル端末の内部に残るもの(デジタル写真や受信したメール、作成したファイルなど)と、②インターネット上に残るもの(SNS(交流サイト)の投稿、動画や音楽の配信サービス等のサブスク(※)契約など)があります。加えて、ネット銀行やネット証券の口座情報を含めることもあり、多岐にわたります。

本質的には従来の遺品と何ら変わらないのですが、近年はデジタル遺品の整理に困る遺族が増えているのも事実です。

※サブスクサブスクリプションの略。定額を定期的に支払うことで、一定期間、商品やサービスを利用することができるサービス

デジタル遺品の整理に困る遺族が増えている

60代のある女性は、夫が亡くなったときに夫のスマホのパスワードが分からずに困り果ててしまいました。スマホの中には家族で撮った大切な写真がたくさんありました。思い出の写真を手元に置きたいのに、それらに触れられません。思い付く限りのパスワードを入力していると、スマホのセキュリティ設定により、スマホが工場出荷時の状態(初期の状態)に戻ってしまったといいます。

また、70代の男性は兄の遺品を片付けているときに、サブスク契約の解約に苦労したといいます。遺族として兄のクレジットカードの解約を申請したところ、「債務が残っているから解約できません」と言われました。その債務がサブスク契約のことを指していることは分かりましたが、具体的にどの契約かは教えてくれなかったそうです。サブスク契約は、契約者が亡くなっても自動更新される場合が多いので、誰かが解約しない限り支払いが続いてしまいます。兄のパソコンのメール履歴をくまなく調べて、サブスク契約の事業者を見つけ出すのに1ヵ月以上かかったそうです。

デジタルが生活と切り離せなくなっている現在、こうした問題は今後増えていくと思われます。

いざというときに自分が困らない、あるいは家族を困らせないために、デジタル遺品の特性を知って、対応方法を身につけておきましょう。

デジタル遺品は見えにくい

デジタル遺品の特性は大きく分けて3つあります。1つ目の特性は、持ち主以外からは見えにくいことです。

デジタルには形がないので、どれだけ大量の情報であっても、あるいはどれだけ重要な情報であっても外部からは分かりません。故人のノートパソコンの電源を入れてみたら数万冊分の書籍に匹敵するデータが見つかるということもあります。インターネット上に、ネット銀行やネット証券の口座が遺族に気付かれないまま放置されるというケースも珍しくありません。

それならば、重要な書類や大切にしたい形見を従来の遺品と同様に「見える化」してしまえば、デジタルだからと特別視する必要はなくなるわけです。預金口座が見つかれば金融機関に相談すればいいですし、サブスク契約が見つかれば事業者に問い合わせるだけ。思い出の写真は印刷して手元に置いておけます。

このデジタル遺品の「見える化」が対応策の基本中の基本になります。

( かなめ ) のスマホは簡単には開かない

では、「見える化」すべきデジタル遺品がどこにあるかですが、スマホや自宅のパソコン、会社の外付けハードディスク、インターネット上の各種サービスなど、探すべき場所は状況によりさまざまです。そして、それらのデジタル端末に鍵がかかっている(パスワードで保護されている)場合は、パスワードを見つけて解錠(ロック解除)する必要があります。

それらの機器のなかで、現在最も重要な存在になっているのはスマホです。通話やチャット、メールといったコミュニケーションの履歴が集約されます。また、 “○○ペイ〟と呼ばれるQRコード決済サービスはスマホで使うことを前提に提供されています。

もちろん余計な詮索は避けるべきですが、デジタル遺品を「見える化」するなら、持ち主のスマホをチェックするのが最も確実で効率的な方法といえるでしょう。

ただし、スマホのセキュリティは非常に強固です。強固な上に、パスワード入力を10回連続で誤ると中身を消去する設定が選べる機種もあり、やみくもな入力は危険です。

デジタル遺品の要であるスマホの解錠はとても難しい。これがデジタル遺品の2つ目の特性なのです。

なお、タブレット端末もスマホと同等の強固な仕組みを備えています。対してパソコンはロックを解除する方法が複数あります。パソコンのロックで困っている場合は、パソコントラブルのサポート会社やパソコンに詳しい家族に相談してみるのがいいかもしれません。

スマホのスペアキーを作ろう

遺族の立場でみると、パスワードが分からない故人のスマホは鍵が開かない故人の部屋と同じようなものです。しかもその部屋は鉄壁で四方を囲まれていると思ってください。

この状態を解決できる専門会社は世界でも数えるほどしかなく、依頼できても解錠までに1年以上かかることも珍しくありません。費用は成功報酬で数十万円かかります。

ですから、スマホの持ち主に何かあっても家族がスマホだけは開けるように備えておくことが何より大切です。実はここがデジタル遺品対策の最大のポイントとなります。

そこでお勧めしたいのが「スマホのスペアキー」を作ることです。

スマホのスペアキーの作り方

パスワード部分に修正テープを2~3回走らせます

必要なものは、表面がつるつるした名刺大の厚紙と油性ペン、修正テープです。ご自分の名刺の余りがあればそれで構いません。

まずは厚紙にお持ちのスマホの特徴と、設定しているパスワードを書き込みます。

次にパスワード部分にだけ修正テープを2~3回走らせてください。1回だけでは透けてしまうので、しっかりと重ねることが肝心です。紙が薄い場合は裏面にも同じ処置を施して裏からの透けも防ぎましょう。これでパスワード部分だけがスクラッチカードのようになりました。これでスペアキーができました。

これを預金通帳や保険証書といった、遺品整理時に必ずと言ってよいほど探される重要書類と一緒に保管すれば完了です。

他の重要書類と一緒に保管しましょう

有事には他の重要書類と一緒に発見され、コインなどで修正テープを削ってもらうことでスマホのパスワードが伝わる仕組みです。

道具が揃えばものの1分で作れますし、効果は自分でパスワードを変更するまでずっと持続します。また、何かあってもパスワードを変更して対処できます。とても効率がよいので強くお勧めします。

もちろん、スマホだけでなく、パソコンや大切なSNSの情報などを記載することも有効です。それぞれの環境に合わせて工夫してみてください。

デジタル遺品への対応は整備途上

デジタルが世の中に浸透してまだ30年程度しか経っていないので、デジタル遺品への対応方法は整備途上です。実はそれが、デジタル遺品の最大の問題なのです。もはや暮らしに欠かせない道具となっているのに、死後のことはこれから固めていく段階にある。そのアンバランスさが3つ目の特性といえます。

以上のようなデジタル遺品の3つの特性を踏まえて、デジタルの大切な持ち物について日頃から家族や近しい人と話し合っておくことが大切だと思います。