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今月の話題

アザラシの赤ちゃんと流氷から考える消費行動

東京都消費者月間特集
動物写真家 小原 玲(おはら れい)

アザラシの赤ちゃんと流氷

 毎年2月末から3月初めにかけて、カナダの流氷の上でタテゴトアザラシの赤ちゃんが生まれます。
 流氷は海にできる氷で、冬に凍って春には溶けてしまうものです。かつての流氷はどこまでも続く広大な景色で、360度の白い水平線を見ることができました。地球上で見ることができる一番広い景色でもあります。
 そんな流氷の上でアザラシの赤ちゃんが生まれます。アザラシは水中生活に適した目をしているため、水に目が触れていない氷の上では、はっきり見えず、母子は匂いで互いを識別します。
 生まれてすぐにお母さんと赤ちゃんは鼻先をつけ合うため、まるでキスをしているかのような光景です。
 母子は生後12日から14日位までしか、一緒に暮らしません。子育ての期間、母親は絶食していて、赤ちゃんが一日に2キロも太っているのに比べ、日に3キロから5キロ体重を減らしていきます。
 お母さんがいなくなって氷の上でポツンとしている赤ちゃんを守ってくれるのが流氷です。流氷は赤ちゃんたちの、大きな大きな氷のゆりかごでもあるのです。
 春になると流氷はだんだんと溶けて小さくなります。小さな氷に残っていると休む場所がなくなるので、赤ちゃんは大きな氷へと泳いで渡っていきます。それを繰り返すことで泳ぎを覚えていきます。
 そしてその過程で自力で魚を捕ることを覚えていきます。魚を捕れるようになるとエネルギーの補給ができるので、だんだんと遠くへと泳ぐことができ、赤ちゃんたちは氷がなくなっても大丈夫になります。
 そして、赤ちゃんたちは流氷を追いかけながら、お母さんたちが先に向かった北の海へと向かっていきます。

地球温暖化と流氷

 私がこのアザラシの赤ちゃんと流氷の撮影を始めて28年が経ちます。毎年のように通って行くにつれ、かつては白い大地のようだった流氷が、年々姿を変えていくのを見ることになってしまいました。
 平成10年のエルニーニョ現象の頃から、ボロボロの流氷の上でアザラシの赤ちゃんが生まれる年が見られ始めました。
 ボロボロの流氷は赤ちゃんが泳ぎの練習を始める生後10日から14日位までに溶けてなくなってしまいます。
 最初はその年の限定的なものかと思っていましたが、平成11年や14年も氷は少なく、どうもおかしいぞと思うようになりました。
 平成14年には、アザラシの赤ちゃんの75%が大量死している可能性が高いと、カナダの生態学者から警告されています。70万頭ぐらい生まれるうちの75%ですから、50万頭以上の規模になってしまいます。
 しかし、その当時、科学者や新聞記者に流氷の異変のことを話しても「まだ地球温暖化と断定するのは早いのでは」と言われてしまい、実情を伝えることはできませんでした。
 ようやく話を聞いてもらえるようになったのは平成18年にアル・ゴア元アメリカ合衆国副大統領主演の「不都合な真実」という映画が上演された後からです。ほんのわずかですが、テレビ番組や雑誌でカナダの流氷の異変を伝えることができました。でも、まだまだ足りません。
 流氷の減少は年々進み、平成22年・23年、28年・29年は流氷があまりにも少なすぎて、アザラシの赤ちゃんウォッチング自体が不可能になり、私も撮影ができない状態になっています。

好きなものは大切にする

 この状態を見れば、流氷が10年後、20年後にどのような状況になっているか、危惧せずには、いられません。
 教育現場や世間、そして国際会議では地球温暖化のことが頻繁に話題になっているのに、その対策は後手後手で、追いついているどころか、むしろ急速に悪化しているように思われます。ですから私は「地球環境を守りましょう」「自然を大切にしましょう」という標語が好きではありませんし、言いません。それを言っても世界が変わっていないことを現実に見てきて、よく知っているからです。
 小さな子供に「おもちゃを大切にしなさい」と言っても大切にできません。でも、どんな小さな子供でも一番好きなものは、しっかり大切にすることができます。それと同じで「自然を大切にしましょう」「守りましょう」ではなく、「自然が好き!」ということが大事なのでは、と思っています。

世界を動かすのは消費活動

 私は、地球環境を守るために世界を動かすのは、啓蒙や教育だけでは足りず、一人一人の行動が消費活動と結びついた時だと思っています。
 資本主義社会の世の中で、企業が利益をより効率的に生むためだけに活動していると、現状では環境悪化につながっていきます。ですから、そこが変わらない限り、啓蒙活動や教育だけでは不足だと思っています。逆に消費行動を伴った環境運動は強いと思っています。
 私たち一人一人が「自然が好き!」という気持ちを持って消費行動を取ることが、やがて世界を動かしていくのです。
 環境に良いことが、ひいては企業にとっても利益につながる―そういった社会ができることを、願ってやみません。

東京都消費者月間事業のご案内

小原 玲さんが登場される月間事業のご案内です。

くらしフェスタ東京2017
要申込/
参加費無料

エコプログラム

2018年 26日( 13:30~15:30

会場/東京都消費生活総合センター 教室Ⅰ・Ⅱ

講演会「好き!」な自然を残したい
~流氷からのメッセージ~
講師/小原 玲さん(動物写真家)

 アザラシの赤ちゃんの写真を撮りながら、つぶさに見てきた流氷の減少や、開発により蛍をはぐくむ里山が狭まっている様子を、美しい映像とともに動物写真家小原玲さんが語ります。地球環境を守るため、消費者として選ぶ責任、使う責任について考えます。

申込先
問い合わせ
東京都消費者月間実行委員会事務局 
電話 03-3267-5788 ファックス 03-3267-5787
ホームページ http://kurashifesta-tokyo.org Eメール info@kurashifesta-tokyo.org