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脱毛エステのトラブルを避けるために

弁護士 洞澤 美佳

1相談が激増! 脱毛エステのトラブル

東京都の2022(令和4)年度の消費生活相談の特徴の一つとして、若者(29歳以下)からの脱毛エステに関する相談件数が、令和3年度は662件であったのに、令和4年度は3,167件に激増したと発表されました。これは前年比で実に5倍近くの相談件数ということになります。

さらに、独立行政法人国民生活センター(以下「国民生活センター」といいます。)がとりまとめた「18歳・19歳の消費者トラブルの状況−成年年齢引下げから1年−」によると、2022(令和4)年度の18歳、19歳の相談は、脱毛エステに関する相談が1位となっています。特定の事業者の倒産や、返金遅延トラブルに関する相談等、大幅に件数が増加しているということです。

2美容医療とエステティックの違い

国民生活センターが平成29年に公表した「なくならない脱毛施術による危害」という資料によれば、脱毛に関する施術は、大きく分けて、医療機関とエステティックサロンで行われています。美容医療もエステティックも、より美しくなることを目的として、様々な施術を行っているという点では共通しているように思われます。

しかし、両者は、提供できる施術内容に大きな違いがあります。すなわち、医師法第17条では、医師でなければ、医業をしてはならない、とされています。従って、施術を行うエステティシャンは、医師免許を持っていない限り、医業を行うことはできません。医業の提供の可否が両者の施術内容に大きな違いをもたらすということです。

医業とは、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(「医行為」)を、反復継続する意思をもって行うことをいいます。医業と照らし合わせて考えた場合、エステティシャンは、どこまでの施術を行うことができるのでしょうか。

この点、厚生労働省が発出した「医師免許を有しない者による脱毛行為等の取扱いについて」(平成13年11月8日付医政医発第105号)によれば、「用いる機器が医療用であるか否かを問わず、レーザー光線又はその他の強力なエネルギーを有する光線を毛根部分に照射し、毛乳頭、皮脂腺開口部等を破壊する行為」は、医行為に当たるものとして、医師免許を有しない者が業として行えば医師法第17条に違反するとされています。

このことから、電気脱毛法やレーザー脱毛法などは医行為に当たるとされるので、エステティシャンはこれらの施術をすることはできません。しかし、前出の「なくならない脱毛施術による危害」によれば、高い脱毛効果を得るためには、医行為に当たるとされる毛乳頭、皮脂腺開口部等を破壊する行為、すなわち、毛を形作る細胞である「毛包幹細胞」を熱変性(破壊)する必要があるとされています。こうした行為はエステティックサロンではできないため、エステティックサロンでできるのは、あくまで光を照射すること等による一時的な除毛・減毛など、医行為に該当しない範囲の施術に限られるということになります。

この他、エステティック業については開業規制もありません。また、エステティシャンが施術するのに当たって、法律上特別の資格は求められておらず、国家資格制度というものはありません。

このように、美容医療とエステティックは全く異なるものです。エステティックで提供されるのは美容術であり、医療機関におけるような専門性や高度な設備の設置は期待できないという違いをよく認識して施術を受けるかどうかを判断する必要があります。

なお、エステティックの業界団体では独自の資格制度を定めて質の確保に努めているということですので、施術者がこうした資格を持っていることは、施術を受ける際に提供される質を確認するための一つの判断要素となるかもしれません。

3最近問題になっている事例

事例1

SNS広告で脱毛のお試し1,980円という広告を見て、エステティックサロンに出向いた。施術後、担当者から「回数が少ないとあまり効果がない」と言われ、全身脱毛30回コースを勧められた。高すぎて払えないと感じ、契約はできないと伝えたが、本日限りのお得なプランだと言われ引き留められた。結局、入会金等含め施術料金は50万円だったのでクレジットを利用することにした。

その後、3回施術を受けたが、月々の返済に困り、解約を申し出たところ、「今解約しても約10万円しか返金できない」と言われた。

驚いて契約書をよく見ると、施術30回のうち有料なのは最初の4回で、単価が12万円だった。残りの26回は無料保証と記載されており、3回分の施術料と違約金の合計約40万円は返金されないということだった。そのような説明は受けていないし、返金額には納得できない。

事例2

手付金20万円をクレジットカード決済した脱毛エステが経営破綻状態だと報道された。契約を取り消したい。

これらの事例について、次項で詳しく説明していきます。

4最近のトラブル事例から考える注意点

(1)不当な広告表示

脱毛エステに関する広告表示と関係する法律としては、不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)特定商取引に関する法律(特定商取引法)医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)健康増進法などが挙げられます。また、これらの法律とは異なり、契約に関する法律となりますが、広告が「勧誘」に当たると考えられる場合には消費者契約法の適用も問題になり得ます。

【事例1】にあるように、事業者が「お試し1,980円」と安い金額で広告し顧客を誘引した結果、これなら支払えそうだ、試しにやってみるつもり、という軽い気持ちでサロンに赴いた顧客が、思いもよらない高額の契約を結ぶこととなったというケースはよく見られます。SNS広告やインターネット広告などは、脱毛エステの事例に限らず、若者の消費者被害のきっかけとなることが多いところです。表示が不当かどうかは、ウェブサイト上の表示全体から判断することでもあるので、【事例1】のような表示が一律に不当だということまではできません。しかし、広告全体の表示を見た場合に、「お試し1,980円」と強調した表示がなされている一方で、高額の契約については何ら表示がされておらず、広告だけを見ても【事例1】のような高額の契約をすることまでは到底想定できないという場合には、当該広告が景品表示法に違反する不当な表示(有利誤認表示)に該当する余地もあり得ます。

また、「永久脱毛」「永久保証」をうたう広告も問題といえるでしょう。先述したとおり、エステティックサロンでなし得る施術は、光を照射すること等による一時的な除毛・減毛など、医行為に該当しない範囲の施術に限られます。そうだとすれば、こうした広告は景品表示法で禁止されている優良誤認表示又は、特定商取引法で禁止されている虚偽又は誇大広告等に該当する違法な広告と指摘できます。

広告は顧客を誘引するために作成されるものですから、社会的に許容される程度の若干の誇張があり得ることはあらかじめ想定すべきです。他方、社会的に許容される誇張の程度を超えて商品・役務の内容や契約内容を誇張した表示(虚偽・誇大広告等)が一定数存在することも否定できません。

特にインターネット広告は、事業者にとって簡単に利用できる重要な宣伝手段であり、増加の一途をたどっていますが、その分玉石混交の広告が乱立しているように思われます。

他方、現代社会では、スマートフォンの利用を通じて誰もが、広告を含むインターネット情報に気軽に接することができるようになりました。スマートフォンのこうした利便性には多くのメリットもあるとは思いますが、広告に接したときには、その情報にいきなり飛びつくのではなく、情報を収集し、複数の事業者の比較をするなど、広告と距離感をもって接することを心掛けることが肝要です。少なくとも、脱毛エステに関してはここでご紹介した情報も参考にしつつ、広告の表示と情報とを照らし合わせて、事業者の誠意や公正性等を判断し、選択していただきたいと思います。

(2)契約締結に際しての説明の不備

契約締結に際しては、事業者が、往々にして施術の効果や契約の内容に関し、メリットを強調し、デメリットを十分に伝えないために生じるトラブルがよく見受けられます。結果として、広告でうたわれていたような効果が実感できないといったトラブルや、広告や契約時の説明等で「通い放題」「期間・回数無制限」と言われていたのに、実際にはいつ連絡をしても予約が埋まっていて、思うように施術が受けられないというトラブル、脱毛には毛周期や肌への負担、施術の機器等の性能を考慮した標準的な期間・回数の目安があるにもかかわらず、契約では標準的な期間・回数を逸脱した過剰な内容のコースを勧められたため、毛周期や肌への負担との関係から、期間内には到底消化しきれないトラブル、中途解約について適切な説明がされていないために、いざ解約しようとしたら中途解約ができないトラブルなどが生じています。

事業者と消費者との間には情報量に大きな格差があります。消費者はついプロである事業者のアドバイスを鵜呑みにしてしまいがちです。それもまたやむを得ないところではありますが、せめてその日のうちに判断をせず、一度持ち帰ってよく検討する、ということが大事です。もちろん「今日なら特別価格」などと言って消費者を引き留める事業者もいるでしょう。しかし、消費者とのトラブルを回避して、お互いが気持ちよく関係を継続できるような契約関係を結びたいと考えている心ある事業者であれば、そのような目先の利益による勧誘などせず、消費者の慎重な判断を尊重し、きちんと納得した上で自分のサービスを選んでもらうことを希望するのではないでしょうか。

(3)中途解約における精算トラブル

【事例1】のように、近時トラブルが多発しているこの種のケースでよく見られる、長期間あるいは多数回にわたる施術が受けられるコースでは、契約上、「有償で施術を受けられる期間・回数」と「無償で施術を受けられる期間・回数」とに分かれていることがほとんどです。

エステティックの中途解約については、特定商取引法上、特別の精算ルールが定められています。これによれば、施術済みのサービスに相当する対価は支払い、未施術部分について返金されるというルールになっています(その場合にも法律で上限が決められている違約金等は控除されます。)しかし、ここで精算の対象となるのはあくまで有償の期間・回数であり、無償部分は原則として対象とされません。そのため【事例1】のように、回数からみると有償部分が少なく(事例では4回)無償部分が多くを占める(事例では26回)契約になっている場合にトラブルとなるのです。

もちろん、こうしたトラブルの背景には、事業者が契約に際して消費者に実際の契約内容を十分に認識させていなかったため、消費者の認識や期待との間にズレが生じてしまうことに一番の問題があります。他方で、【事例1】にもあるとおり、消費者がきちんと契約書を確認するのは、契約締結時ではなく、こうしたトラブルが発生した時というパターンがよくあります。しかし、契約書には重要な内容が書かれているので、契約締結前に契約書の内容をきちんと確認するべきです。仮に、その場で契約をやめたいといえる雰囲気ではなく、契約書もゆっくりとみられる時間がない状況で契約をしてしまったのであれば、せめて帰宅後速やかに契約書の内容をよく確認すべきです。そうすることで、クーリング・オフによって救済される可能性が広がります。困ったときは、最寄りの消費生活センターに相談をしましょう。

(4)事業者の倒産

エステティックサロンも大小様々な事業者があります。近年では、大々的に広告宣伝を展開しているような大手の事業者であっても倒産するケースが増えています。こうした中で、【事例2】にあるようにクレジットカード決済をした場合、支払いはどうなるのでしょうか。これについては、業者の倒産によって約定した施術が受けられなくなりますから、事業者の債務不履行を理由にクレジットカード会社に支払いを拒むことができます(ただし、翌月一括払いのような2か月以内の後払いによる一括払いのクレジットには適用されませんのでご注意ください。)しかし、そのような場合であっても既に施術を受けた部分については精算をしなければなりません。従って、施術部分の代金が未払いとなっている場合には、この部分の精算が必要になってきます。

また、施術代金の前払いのリスクについてもあらかじめ踏まえておくことが重要です。すなわち、脱毛エステは、一定期間(例えば1年間等)にわたり施術を受ける契約を締結することが多いかと思います。こうした将来にわたる施術代金の支払方法にはいろいろあるかと思いますが、一つの方法として、契約締結時、あるいはクレジットを利用して翌月一括払いを行う等施術を受ける前に(あるいは未施術部分を相当残した形で)全額を前払いするという場合があります。このような場合、消費者が施術を受けきる前に事業者が倒産をしてしまう可能性もあり得るところです。しかし、事業者が倒産すれば、基本的にはお金は全く返金されないか、返金されたとしてもごくわずかであり、損失を被ることは避けられません。仮に割安になるとしても、施術の提供を受ける前に施術代金を全額前払いするプランを選択するかどうかは、常にこうしたリスクと引き換えなのだということを肝に銘じた上で、慎重に検討した方が良いでしょう。

(5)施術の安全性

前出の「なくならない脱毛施術による危害」によれば、脱毛エステにおける危害事例としては、「光脱毛」に関する相談が最も多く、次いで「レーザー脱毛」、「電気脱毛」が多くみられたとあります。具体的な相談としては「脱毛エステの施術後に発疹ができたため皮膚科を受診。毛のう炎と診断された」「脱毛エステでデリケートゾーンを施術した際、シェーバーで陰部を傷つけられた」「肛門周りの光脱毛でやけどを負い、完治まで1年以上かかることもあると言われた」などが紹介されているところです。ほかにも、医療機関における危害事例も紹介されています。契約をする際には、施術の効果には個人差があることやリスク・副作用について十分な説明を求め、慎重に検討しましょう。

5生徒に伝えてほしいこと

美しくなりたい、理想の自分でありたいという思いに囚われすぎると、人は、自分にとって得たい情報や有益に感じる情報にだけ目がいってしまい、つい視野が狭くなりがちです。さらに即効性を求め、生じ得るリスクを軽く見積もってしまい、情報収集や複数業者の比較など冷静に分析して合理的な選択をするということが難しくなるように思います。

それ自体はやむを得ないとしても、誰もが持ち合わせる人間としての弱さを自覚しつつ、魅力的な広告を目にしたり、情報に接したりしたときに、せめて一呼吸おくという習慣を身につけたいものです。

また、脱毛を希望する本人にとっては切実な問題なのかもしれませんが、美容術や美容医療は、いわゆる病気の治療等と異なり、いわば不要不急のサービスと言わざるを得ません。それにもかかわらず、身体に対して、人為的に一定程度影響ある行為を行うことからすれば、本来であれば受けなくていい危害を被るリスクは避けられません。自分だけは大丈夫という根拠のない自信は戒め、一歩立ち止まることも重要です。