ここから本文です

インターネット通信販売の法的知識

池袋総合法律事務所 弁護士 志水 芙美代

1はじめに

近年、急速にスマートフォンやタブレット型端末の世帯保有率が上昇し、特にスマートフォンは若年から高齢世代まで幅広い年齢層で普及が進んでいます。それに伴い、インターネット通信技術が身近なものとなり、インターネットを通じた商品、サービス、情報等に関する取引も日常的に行われるようになってきました。ただ、インターネット上での商取引は、とても便利な反面、思わぬトラブルに巻き込まれることもあります。

特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」といいます。)では、適正な商取引が行われるように様々な法規制を設けています。インターネット通信販売でのトラブルを避け、賢く安全に利用するための必要な法的知識を知り、どのように考え行動したらよいかを学習することが大切です。

2インターネット上での売買契約について

インターネット上では、様々な事業者が商品販売用のショッピングサイトを設けており、複数の事業者の出品状況を比較して購入したり、近隣店舗では手に入らないような商品を購入したりすることもできます。このようなインターネット上での商品購入等は、離れた所にいる者同士がインターネット通信技術を通して取り交わす売買契約の一種ですので、民法の売買契約の規定が適用されます。売買契約ですので、一旦成立すると、契約の拘束力が発生し、売主には商品を引き渡す義務と代金を受け取る権利が、買主には代金を支払う義務と商品を受け取る権利が発生します。

この場合に、契約が成立するのは、消費者がインターネット上で購入の申込みをし、事業者がそれを承諾したときです。ただし、申込みボタンを押せば、事業者からは直ちに自動返信で「承諾」通知が送られてくることも多いので、消費者側の心づもりとしては、“申込みボタンを押したときが、「契約成立」になる”と考えるくらいの慎重さで画面操作をする必要があります。インターネット画面では、次々に画面上のボタンをタップして次の画面に進んでいきがちですが、契約に向けた意思表示をすることの自覚をもって、慎重に操作しましょう。

3インターネット通信販売 〜特定商取引法による規制の概要〜

(1)通信販売とは

通信販売とは、事業者が、郵便、新聞、テレビ、インターネット上のホームページなどの方法で消費者から物の購入やサービス提供の申込みを受けて行う取引をいいます。典型例は、ショッピング雑誌の巻末ハガキを使って注文する場合、テレビショッピングを見て消費者の側から電話して注文する場合などです。消費者が事業者から電話での勧誘を受けて申込みをする場合は、電話勧誘販売となり、通信販売ではありません。事業者からの勧誘が前提となっているかどうかが主な違いとなります。

通信販売に関する規制は、特定商取引法で定められています。通信販売は、自宅にいながらショッピングができるというとても便利なものですが、他方で、商品を実際に目にせずに購入することになるため、購買判断が事業者の行う広告や表示に強く影響されます。広告や表示が不適切であれば、消費者が申込時に期待していた商品と実際の商品とが異なる等のトラブルが生じやすくなります。また、隔地者間(離れた所にいる者同士)での取引であるため、契約してから商品が手元に届くまでに時間がかかることが通常ですので、代金を払ったのに商品が届かない等のトラブルが生じることもあります。

このような、通信販売に生じがちなトラブルを前提に、特定商取引法では、広告に事業者を特定するための名前、連絡先などを表示すべきことや、返品に関するルールがある場合はそれを表示すべきことなど、様々な広告表示のルールを設け、また、注文する際の最終的な場面で契約条件の表示がなかったり誤っていたりしたことで、消費者が契約条件を誤解して申し込んだ場合の取消権を定めるなどしています。

インターネットを介した通信販売(=インターネット通信販売)も、上記の通信販売の一類型で、特定商取引法が適用されます。では、どのような法規制があるかを抜粋してみていきましょう。

(2)広告表示(特定商取引法 第11条)

特定商取引法では、「広告」の表示に対して規制があります。一般に広告というと、商品・サービスを宣伝するあらゆる媒体が該当しますが、特定商取引法の規制対象となる「広告」とは、販売業者等がその広告に基づいて通信手段によって契約の申込みを受ける意思が明らかで、かつ、消費者がその表示により契約の申込みをすることができるものを指します。通信販売することが明示されている場合のほか、口座番号や送料といった通信販売に必要な情報が表示されている場合などが該当し、典型例は、カタログ注文冊子、インターネットショッピングのウェブページなどです。他方で、実店舗で販売する商品を宣伝するだけのテレビCMなどは、この場合の「広告」には該当しません。

通信販売広告には、次の事項を表示しなければならないこととなっています。

  1. ①販売価格(役務の対価)(送料についても表示が必要)
  2. ②代金(対価)の支払時期、方法
  3. ③商品の引渡時期(権利の移転時期、役務の提供時期)
  4. ④申込みの期間に関する定めがあるときは、その旨及びその内容
  5. ⑤契約の申込みの撤回又は解除に関する事項(売買契約に係る返品特約がある場合はその内容を含む。)
  6. ⑥事業者の氏名(名称)、住所、電話番号
  7. ⑦事業者が法人であって、電子情報処理組織を利用する方法により広告をする場合には、当該事業者の代表者又は通信販売に関する業務の責任者の氏名
  8. ⑧事業者が外国法人又は外国に住所を有する個人であって、国内に事務所等を有する場合には、その所在場所及び電話番号
  9. ⑨販売価格、送料等以外に購入者等が負担すべき金銭があるときには、その内容及びその額
  10. ⑩引き渡された商品が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合の販売業者の責任についての定めがあるときは、その内容
  11. ⑪いわゆるソフトウェアに関する取引である場合には、そのソフトウェアの動作環境
  12. ⑫契約を2回以上継続して締結する必要があるときは、その旨及び販売条件又は提供条件
  13. ⑬商品の販売数量の制限等、特別な販売条件(役務提供条件)があるときは、その内容
  14. ⑭請求によりカタログ等を別途送付する場合、それが有料であるときには、その金額
  15. ⑮電子メールによる商業広告を送る場合には、事業者の電子メールアドレス

ただし、全ての事項を表示するのは広告スペースの都合上難しいこともあるため、消費者からの請求により、これらの事項を記載した電子メールを遅滞なく送ることを広告に表示し、かつ、消費者から実際に請求があった場合に遅滞なく電子メールを送ることができるようにしている場合には、一部の広告表示事項については表示を省略できることになっています。

こうした広告表示を確認することによって、契約相手は誰なのか、契約内容や条件を正しく理解したか、自分にとって適した条件かなどを検討することができます。契約内容は全て広告表示に記載されているので、表示を確認することが重要です。

(3)返品特約(特定商取引法 第15条の3)

ア 返品特約

インターネット通信販売での返品については、事業者が特約(=返品特約)を定めて広告に表示していれば、その内容が有効になります。この返品特約というのは、特約で定めている内容に従い、思っていたのと色味が違ったとか、靴のサイズが合わなかったなど、消費者側の都合による返品が認められる場合のことです。そうではなく、事業者側に責任がある場合(商品が届かなかった場合、商品は届いたけれど不良品であった場合など)は、仮に「返品不可」という特約になっていたとしても、民法の定めに従って契約解除・返品ができ、消費者は、既に代金を支払済みであれば、返金を求めることができます。

事業者が返品特約を定める場合は、広告及び「最終確認画面」にその内容を表示しなければならず、広告への表示方法は、特定商取引法の施行規則で、「顧客にとって見やすい箇所において明瞭に判読できるように表示する方法その他顧客にとって容易に認識することができるよう表示すること」が求められています。

イ 返品特約が定められていない場合

事業者が特に返品特約を定めていなかった場合(定めていても広告に表示していなかった場合も含みます。)は、法律の定めにより、商品の引渡しを受けた日から(その日を含め)8日以内であれば、申込みの撤回や解除ができます。この場合、消費者は、自ら送料を負担して返品ができます。ただし、訪問販売の場合のクーリング・オフ制度のように、その販売形態なら全ての契約に原則適用されるルールではなく、あくまで事業者が返品特約を表示していなかった場合にだけ適用されるルールであることに注意が必要です。通信販売は、訪問販売のように不意打ち的に契約させられるわけではないため、クーリング・オフ制度は設けられていません。

通信販売での購入を検討する際には、返品特約があるか、ある場合はどのような内容かをよく確認する必要があります。

(4)表示に問題があった場合の契約取消し

ア 最終確認画面の表示について(特定商取引法 第12条の6)

インターネット通信販売での注文前の最終確認画面では、消費者が申込内容に関する必要な情報をきちんと一覧性をもって確認できるようにするため、次の6つの項目を表示しなければならないことになっています。

  1. ①分量
  2. ②販売価格・対価(送料を含む)
  3. ③支払の時期・方法
  4. ④引渡・提供時期
  5. ⑤申込期間(期限のある場合)
  6. ⑥申込みの撤回、解除に関すること

イ 最終確認画面に表示がなかったことによる取消権について(特定商取引法 第15条の4)

アの6項目を正しく表示せず、消費者が次のように勘違い等により申込みをしてしまった場合は、契約を取り消すことができます。

  • 事実と異なる表示をして、消費者がそれを事実と勘違いして申込みした場合
  • 必要な表示をしなかったので、表示されていない事項が存在しないと勘違いして申込みをした場合
  • 申込みボタンと分からないままにボタンを押してしまった場合
    など

ウ  顧客の意に反して契約の申込みをさせようとする行為の禁止(特定商取引法 第14条 1項2号)

特定商取引法では、インターネット通信販売での申込みの際に、消費者が申込内容を容易に確認し、かつ、 訂正できるように画面設定等をしていないことを「顧客の意に反して契約の申込みをさせようとする行為」として禁止しています。

(5)誇大広告の禁止(特定商取引法 第12条)

特定商取引法では、次のような広告を禁止しています。

  • 著しく事実に相違する表示
  • 実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示

例えば「絶対にやせる」などの表現は、誇大広告に該当する可能性があります。そのような広告をしている事業者と契約をしてよいのか、冷静に検討しましょう。

(6)前払式通信販売について(特定商取引法 第13条)

特定商取引法では、事業者が前払式の通信販売を行う場合で、代金を受け取った後の商品の引渡しに時間がかかるとき(取引の実態からみて一週間程度を過ぎる場合)は、次の事項を書面に記載して通知をしなければならないとされています。

  • 申込みの承諾の有無
  • 事業者の氏名(名称)、住所、電話番号
  • 受領した金銭の額
  • 当該金銭を受け取った年月日
  • 申込みを受けた商品とその数量
  • 承諾する場合には、商品の引渡時期

もし、事業者からいつまで経っても注文の承諾が来ない場合は、申込みを取り消して代金を返金してもらうことができます。そのためにも事業者情報を保存しておきましょう。

また、商品などが引き渡される前に代金を支払う場合、商品などを引き渡されず、返金もしてもらえないといったトラブル事例もあります。後払い等の他の支払手段が用意されていないかを確認し、安心できる支払方法を選択しましょう。仮に、支払方法が前払いに限定されている場合は注意しましょう。

4トラブルに遭わないために

トラブルに遭わないためには、表示をもとに様々な視点で検討していくことが重要となります。

例えば、トラブルに遭ったとき、契約相手が特定できないと解決に向けての交渉をすることができません。「事業者の氏名(名称)、住所、電話番号」などの事業者情報が必須となります。

また、消費者に誤解を生じさせないように、契約内容の表示方法や画面設定等が法を遵守しているか、誇大広告になっていないかなどを確認しましょう。そして、本当に納得のいく契約内容であるかを検討することが大切です。

そのためにも、行政からの注意喚起情報などでトラブル事例や製品事故、健康被害情報なども調べ、幅広い視点で検討していくことが必要です。

5おわりに 〜生徒へのアドバイス〜

インターネット通信販売において知っておくべき法的知識を紹介してきました。インターネット通信販売は、世界中の商品を手元のスマートフォン等で閲覧し、購入することができる楽しいものです。注文後は、商品が自宅まで配送されるので、その手軽さも魅力です。このように、楽しく便利なものですが、その本質は、売買契約の一種であり、成立後は当事者間に権利と義務を発生させるものです。インターネット通信販売でのトラブルを避け、楽しく有意義に利用できるようにするため、注文前に広告表示や最終確認画面の表示に隅々まで目を通すように心がけましょう。きちんとした事業者であれば、大切なことは全て表示されているはずです。また、気軽さゆえに身の丈に合わない高額なものや不要なものまで購入して後から後悔することがないよう、契約をしているという自覚をしっかり持って慎重に検討しましょう。