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今月の話題高齢者被害防止キャンペーン月間特集
高齢者を
消費者被害から
守るために ~被害回復に向けて~

坂井・渡瀬法律事務所 弁護士
坂井 崇徳(さかい たかのり)

消費者の高齢化と被害の内容

 日本は現在65歳以上の高齢者人口が過去最高の3、300万人に達し、総人口に占める割合が26%と、どの国も経験したことがない超高齢社会となっています。厚生労働省の調査では、高齢者の5人に1人は軽度も含め、何らかの認知障害があるとされています。高齢者の不安(健康、お金、孤独)と判断能力の低下につけ込み、高齢者をターゲットとする悪質業者が増えています。今回は、消費生活センターに寄せられた高齢者相談の中から特徴的な相談事例をご紹介します。

高齢者の消費者被害の事例から

事例1 一人暮らしの母が、一枚千円で布団をクリーニングすると言って訪れた業者に「お宅の布団にダニがいる。打ち直しが必要。」と言われ、羽毛布団の打ち直しで80万円の契約をしたようです。その後も寝具や浄水器を買わされているようで、請求書を集めたら合計300万円のうち、100万円分の未払い金がありました。業者にクーリング・オフをするからお金を返して欲しいと電話したら、「8日間の期間が過ぎている。」「打ち直しは終わったので、いまさら解約できない。」と言われました。どうすればいいでしょうか。

解説 店舗外の契約(今回のような訪問販売)は、特定商取引法により、契約書面を受領した日から8日間は理由を問わずにクーリング・オフ※をして、商品の引き取りと代金返還を要求できます。打ち直しのような役務も同じです。寝具も日常生活で通常必要とする分量を著しく超える量を購入する契約は、過量販売として、契約締結時から1年以内は、申込みの撤回等の対象となります。
 「ダニがいる」ことが「嘘」(不実の告知)なら、申込み等の意思表示の取消しができます。(ただし契約から5年以内、「嘘」とわかってから半年以内に取消しの必要があります。)
 事例のように支払った場合でも、法律を踏まえた手順で交渉すれば、返金されることは多いので、早めに相手方に取消しを伝えて、返金交渉を始めましょう。
 なお、本件は契約書をもらっていないので、クーリング・オフの8日間の期間は始まらず、理由を問わず、申込みの撤回等が可能です。

事例2 区の職員と名乗る女性から電話があり、「マイナンバー制度の導入に伴い、個人情報を調査中なので、アンケートにご協力ください。」と言われました。そして家族や資産状況及びマイナンバーを聞かれたため、つい教えてしまいました。
 その後、「あなたのマイナンバーが漏えいしている。マイナンバーを他人に教えるのは犯罪だが、今なら特別に削除ができる。但し、手数料が必要。」という電話がありました。この業者に削除を依頼すべきでしょうか。

解説 削除を依頼してはいけません。
 役所が電話でマイナンバーに関する連絡や個人情報を聞き出すことは、ありません。最初の電話は区の職員ではなく、個人情報をだまし取るための詐欺だったと考えられます。
 2回目の業者の電話は、本来犯罪ではないことを犯罪になると告げ、脅しながらお金をだまし取ろうとする振り込め詐欺の一種です。
 マイナンバーなど新しい制度や、オリンピックなど大きなイベントに乗じて、詐欺が多発するので、気を付けましょう。電話で個人情報を聞かれても即答せず、いったん電話を切って、周りの人に相談するなど、慎重な対応を取りましょう。

事例3 先日、スマートフォンでインターネットを見ていて、うっかりアダルトサイトのリンクに接続してしまいました。すると「ご入会ありがとうございます。入会金10万円を下記口座に振り込んで下さい。」と表示がありました。前のページに戻ろうとすると、カシャッとシャッター音が鳴り、「違約金10万円をすぐに支払え。電話せよ。」と表示されました。怖くなって、指定口座に10万円を振り込み、電話で振り込んだこと、名前などを伝えました。この後、どうすればよいでしょうか。

解説 インターネットの普及を反映して、相談件数が増えています。スマートフォンの画面に「入会しました。」と表示が出ても、サイトの訪問者が誰かは、相手方にはわかりません。また、シャッター音に似た音がしたのは、サイト側が写真を撮ったように見せかけているだけです。
 相談者は入会するつもりがないため、民法及び電子契約法に基づいて錯誤無効が主張できるので、契約は無効となり、支払いの必要はありません。
 事例のように支払い済みでも、支払先口座の凍結、相手業者との交渉などの方法で、返金が可能な場合もあります。

高齢者の消費者被害を解決する法律

民法による解決

契約自体の無効や申込み等の意思表示に問題があるという法的判断ができる場合
判断能力が全くないような認知症の方との契約、契約の内容が公序良俗に反するといえるような非常識なものであれば、それだけで無効になり得ます。申込みが「勘違い」(錯誤)だったこと、また詐欺・強迫に遭ったことを証明できれば、無効取消しが可能です。
損害賠償請求や契約の解除が可能な場合
品物が送られてこない、品物に隠れた問題があったなどの場合は、損害賠償請求契約の解除ができます。既に代金を支払ってしまったものの、あまりに非常識で違法行為と言える場合には、不法行為として損害賠償請求をすることも可能です。

消費者のための特別法による解決

悪質業者は、あえて証拠を残さないで不当な契約をすることも多く、解決が難しいことが多いため、消費者を保護する個別の法律があります。

特定商取引法
訪問販売などの際のクーリング・オフ※を認めています。通信販売の広告では、返品ができないことを消費者にわかりやすく書いてない場合、商品の引渡しから8日間は返品ができることも定めています。また、事業者が契約締結の際、商品の品質などについて「嘘」をついたり、事実を言わなかったりする場合に認められる取消権罰則なども定めています。
割賦販売法
消費者がだまされるなどで、分割払いやクレジットカードで買い物をしたとき、だました相手ではないクレジット会社に対しても、支払いを拒める制度などを定めています。
消費者契約法
契約書に記載されている、消費者負担の違約金が高額過ぎたり、業者の責任は全部免除するなど、あまりに業者の一方的な利益となる不当な条項が書いてある場合、これらを無効にできます。特定商取引法と同様の「嘘」や事実不告知の際の取消権があるほか、商品の品質など、不確実なことを確実なように断言して売りつけられた場合や長時間帰らせてもらえず、無理に契約させられた場合などの取消権も定めています。

※クーリング・オフ:訪問販売など特定の取引の場合、一定期間内であれば無条件で申込みを撤回又は契約を解除できる制度。

クーリング・オフ制度を利用しましょう!

  • ①契約書面を受け取った日を含め8日以内(例外あり)に、書面で通知する。
  • ②はがきに書く。両面をコピーし、大切に保管する。
  • ③はがきを「特定記録郵便」か「簡易書留」で送る。
  • ④支払った代金は、全額返金される。商品の引き取り料金は業者負担。

事前の対策(成年後見制度)

 認知障害のある高齢者の方は消費者被害にあっても、どのようにだまされたか、被害を見つけた養護者に伝えられない場合があります。そのような場合に備え、家庭裁判所に審判の申立てをして、高齢者の方に成年後見人等をつける方法があります。成年後見人は、審判後の高齢者の方の契約申込み等について、理由を問わず取消しができるので、消費者被害にあった高齢者の財産を守ることができます。

消費生活センター、弁護士会に相談

 高齢者を消費者被害から守る法律・制度は、多数あります。
 重要なのは本人や介護者が自分だけで心配事を抱え込まないことです。
 まずはお近くの消費生活センターまたは、消費者ホットライン(TEL188)へ、ご相談ください。
 また、東京の三つの弁護士会※は、高齢者・障害者の法律問題について、電話での相談窓口(相談TEL03-3581-9110)を設けていますので、遠慮なく、ご連絡ください。

※東京弁護士会、第一東京弁護士会、第二東京弁護士会

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