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若者に多い最近のトラブル事例から、契約に対する意識を高めよう

弁護士 池本誠司

1はじめに

2022年4月に成年年齢が18歳に引き下げられ、18歳・19歳を始めとする若者の契約トラブルの防止が重要な課題となっています。本稿は、消費生活センターに寄せられている消費者トラブルの中で若者に広がっている最近の被害事例を紹介し、トラブル防止のために契約に対する意識を高めるポイントやトラブル防止・救済のための最近の法制度の動向を紹介します。

2SNSで誘われて悪質な契約トラブルに

【事例】

無料のメッセージアプリで友だち登録してメッセージのやり取りをしたら、副業で儲かる話を一緒に聞いてみようと誘われ、「オンラインサロン」に参加した。サロンでは、仲間と一緒に効率的に儲けるためのサポートプラン(30万円)の勧誘が始まった。「そんなお金はない」と断ると、ネットで消費者金融から借りる方法を勧められ、紹介者からも「一緒に頑張ろうよ」と勧誘され、断りにくい雰囲気になってサポートプランを申し込み、指示されるままに借金をして振り込んでしまった。3日後に考え直して解約したいと申し出たら、「インターネットで申し込んだのだからクーリング・オフはできない」と言われた。

(1)SNSのトラブルの背景

SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)とは、LINE、Twitter、インスタグラムなどメッセージ・画像・動画を投稿するコミュニケーションアプリです。スマートフォンの急速な普及(総務省「令和3年版情報通信白書」によれば、スマートフォンの世帯保有率が、2010年の約10%から、2020年には83.4%に上昇)に伴って、SNSの利用率も急速に拡大しています(全体で48.6%、20代では71.5%)。

SNSは、一般会員は無料・匿名で登録して利用できるため気楽に投稿できる反面、匿名性を悪用して無責任な投稿や詐欺的なメッセージが入り混じっています。誹謗中傷の書き込みによって名誉毀損の問題が発生するのも、SNS特有の弊害の一つです。消費者トラブルはSNSで知り合った「友だち」からの誘いが中心ですが、実は素性はよく分からず、サイト業者の関係者である可能性も高いのです。

SNSをきっかけとした消費生活相談件数が、2017年の15,709件から、2021年は50,406件に急増しています(消費者庁「令和4年版消費者白書」より)。2021年度の消費生活相談件数のうち、訪問販売が77,877件、電話勧誘販売が45,324件(国民生活センター調べ)であることと比較すると、SNSをきっかけとするトラブルの深刻さが分かります。

(2)SNSのメッセージに対する法規制

SNSは文字や画像のやり取りであるため、特定商取引法上は電話勧誘販売には当たらず、ホームページの画面と同じ「広告」の一種であるとされています。しかし、SNSは、複数回のメッセージを繰り返して契約の申込みに至るのが通例のため、通常の通信販売の広告とも違うところがあります。現状は、電話勧誘販売の書面交付義務やクーリング・オフの適用はないとされ、通信販売として販売業者の連絡先等の広告表示義務も徹底されていません。SNSは、広告の特徴とともに、メッセージを会話のようにやり取りして契約に誘い込む点で電話勧誘の特徴を併せ持つと言えますが、現行法では的確な規制が不十分です。

SNSによる誘いをきっかけにWeb会議システムによるオンラインサロンや説明会等に参加して画面越しに勧誘される事例も増えています。特定商取引法の電話勧誘販売の「電話」は、インターネット経由のWeb会議による音声でもよいし録音した自動音声でもよいと解されています(消費者庁「特定商取引法の解説」より)。ただし、電話勧誘販売の定義は、事業者から電話を掛けて勧誘する場合か、勧誘目的を告げないで消費者に電話をかけさせた場合に限られますので、SNSでWeb会議に誘うときに勧誘する目的を告げられたか否かがポイントとなります。

なお、主なSNS事業者の利用規約では、無料のメッセージアカウントは営業活動に利用することを禁止しています。有料の公式アカウントの場合は営業活動の広告をすることはできますが、儲け話の情報商材やマルチ取引などの取り扱いは禁止しています。SNSで儲け話や有利な取引を誘うメッセージは、利用規約に違反している悪質業者だと考えた方が安全でしょう。

(3)被害防止の課題と若者に伝えたいこと

内閣府消費者委員会令和4年9月2日付建議・意見は、SNSを利用した消費者トラブルの問題について、消費者庁に対し、①SNSのメッセージで通信販売の広告規制が遵守されていないことが多いので違反行為の取り締まりを強化すること、②Web会議による勧誘は電話勧誘販売に当たる場合があることを関係先に周知することを要望し、SNS事業者に対し、③利用規約等の自主ルールを周知・徹底することを提言しています。

根本的には、匿名性を悪用したSNSによる勧誘トラブルを防ぐため、通信販売と電話勧誘販売の両方の特徴を併せ持つことを踏まえた新たな法規制の検討が求められます。

若者に伝えてほしいことは、①匿名による気軽なメッセージのやり取りを悪質業者が勧誘手段として悪用する被害が急増している実情を知ること、②メッセージのやり取りを続けるうちに断りにくい状況に引き込まれやすいことを理解し、儲け話や取引の勧誘には乗らないこと、③疑問があるメッセージに接したときは、消費生活センターに相談することなどです。

被害の未然防止と拡大防止に役立つ行動をとることを期待します。

3サブスクの解約方法が分からない

【事例】

動画配信アプリで「無料トライアル1カ月」の広告画面を見つけて申し込んだ。1回利用したきり使わないでいたところ、半年ほどしてクレジットカードから月額利用料2,000円の引落しが続いているのに気付いた。驚いて解約しようとしたが、サイトのどこを開けば解約できるのかよく分からない。消費生活センターに相談してサイト業者に連絡してもらい何とか解約できたが、契約期間中の料金は返金されないと言われた。

(1)サブスクリプションとは

サブスクリプション(サブスク)とは、一定期間ごとの料金を支払うことで、その期間内は自由に商品・サービスの利用ができるという仕組みで、解約しない限り自動的に継続される条件となっている契約です。動画配信や音楽配信のほかに、衣類・バック・自動車のレンタルや、専門家の相談利用や外食店の飲食の利用など、さまざまな商品・サービスのサブスクが登場しています。

(2)サブスクのトラブル類型

そのサービスを頻繁に利用する場合は割安の料金のように感じますが、利用しなくても料金が発生すること、所定の解約手続をしない限りいつまでも料金が発生することから、予想外の料金負担が続くおそれがあります。

支払方法でクレジットカード決済の登録を求めるケースが多いのですが、以前であればクレジット会社から毎月1回利用明細書が郵送されて目に触れる機会がありました。しかし、近年は、利用明細書の交付に代えて、カード会社のホームページ内の個人アカウントにID・パスワードを入力してアクセスし、利用明細を閲覧する方法が増えています。割賦販売法改正により、消費者の事前の承諾を得なくても電子データで情報提供する方法を選択できることになったためです。しかも、預金口座も通帳の発行からネット上でアクセスして閲覧する方法が広がっているため、入出金の状況を見る機会が減る傾向にあります。

スマートフォンで広告を見て申し込む場合、「無料トライアル」や「初回お試し〇〇円」など割安な表示が強調され、高額の料金負担が継続することの説明が小さな文字や離れた場所に表示してあるケースでは、自動的に継続することを見落としがちです。この問題は、健康食品や化粧品などのネット通販サイトで、「今だけお試し〇〇円」などと表示して申込みをさせ、実は数カ月の高額の定期購入が条件となっていたという手口と同じです。

サブスクの条件に気付いて解約しようとしても、サイト上の解約手続が分かりにくいため、自動継続になって1カ月余計に支払ったというトラブルもあります。例えば、サブスク業者のサイト画面には明確な表示がなく、クリックした別画面の詳しい利用規約の中に埋もれるような形で表示されているようなケースや、契約者の個人アカウントにアクセスして解約手続をする仕組みになっており、契約した時のID・パスワードを保存していなかったためアクセスできないというケースもあります。

(3)被害防止の課題と若者に伝えたいこと

サブスクのトラブルを防止するには、事業者のサイト画面設定の見直しが求められます。

第1に、お試し定期購入対策として特定商取引法が2021年に改正され(2022年6月1日施行)、事業者のサイトで契約の申込みをする場合は、申込確認画面において解約条件や手続に関する表示を明確に表示することが義務付けられました。

第2に、消費者契約法の2022年6月改正(2023年6月施行予定)では、事業者は消費者の求めに応じて、契約で定めた消費者の解除権の行使に関して必要な情報を提供することが規定されました(消契法3条1項4号)。消費者は解約方法が分からないときは、積極的に事業者に質問して説明を求める姿勢が求められます。

若者に伝えてほしいことは、サブスクを申し込む前に解約手続の方法を確認しておくことが不可欠であるということです。

また、サブスクに限らず、クレジット決済を利用する場合は、毎月の支払明細を必ず確認して、自分が利用した代金以外に請求されていないか必ずチェックすることです。最近は、サイト業者等のコンピュータに犯罪者組織が不正アクセスしてカード番号情報を入手して転売し、海外のサイト等でカードを不正使用する被害が大幅に増加していますが、その被害を防ぐ最後の砦は、毎月の利用明細を確認して自分が利用した覚えのない支払い請求をカード会社に直ちに申し出ることです。

4「後出しマルチ」のトラブルに注意

【事例】

友人から、「投資の自動売買システムで、アルバイトするよりずっと儲かる。偉い人の話が聞けるので一緒に聞いてみよう。」と誘われ、その後、偉い人から「自動売買システムで確実に儲かる。」と勧誘された。「そんなお金はありません。」と断ると、「学生ローンで借金して契約してもすぐに元が取れる。」と説得され、友人が同行して消費者金融で借金をして契約した。会員の説明会に参加すると、仲間を増やす勧誘方法ばかり指導された。これはマルチ取引ではないか。

(1)マルチ取引の危険性

マルチ取引とは、商品・サービスを購入して会員になり、他の者を勧誘して入会させると、売り上げに応じて紹介料を支払う、という勧誘方法を用いる取引です。自分の友人を2〜3人誘えば次々と会員が拡大し、大きな利益が獲得できるかのように勧誘します。しかし、実際には組織の拡大はいずれ行き詰まり、必要のない商品・サービスと高額の損失が残り、友人関係まで壊れる結果になるというトラブルが繰り返されています。

最近は、若者をターゲットにして、投資や副業で儲かるという話(情報商材)で勧誘し、仲間を増やすとさらに儲かると言ってマルチ取引に引き込む「モノなしマルチ」が横行しています。借金までして契約させる悪質なケースも多発しています。

マルチ取引は、特定商取引法により「連鎖販売取引」として規制が行われ、広告規制、勧誘行為規制、契約書面交付義務、クーリング・オフ(20日間)、中途解約返品制度などの厳しい規定がありますが、トラブルは一向に減りません。

(2)後出しマルチの巧妙さ

後出しマルチとは、入会を勧誘するときには商品・サービスの有利性を強調して紹介利益の話はあいまいにしておき、契約締結後に他の者を入会させれば紹介料が獲得できることを強調して勧誘活動に引き込む手口です。

入会時には「他の者を勧誘して利益が得られる」という勧誘方法を用いていないので連鎖販売取引の定義に当たらない、と主張する脱法的なマルチまがい商法です。最初に販売する商品・サービスの有利性の説明が違っていることのクレームを、紹介利益の話にすり替える巧妙な手口だと言えます。

(3)被害防止の課題と若者に伝えたいこと

連鎖販売取引の定義は、最初の契約時の勧誘方法と商品・サービスの購入代金の要求だけでなく、取引継続時に紹介利益を得るためのセミナー会費や商品追加購入などの負担を要求すれば、適用対象となります。

仮に最初の契約が連鎖販売取引の適用対象に当たらないとしても、営業所等以外の場所で勧誘して契約すると、「訪問販売」の適用により、書面交付義務、クーリング・オフ(8日間)、勧誘行為規制などが適用されます。

今後の課題として、脱法的な後出しマルチ取引が連鎖販売取引に当たるよう定義を広げたり、被害防止の規制強化が必要であるという議論もあります。

若者に伝えてほしいことは、マルチ取引はあたかも大きく儲かるかのように幻惑し、入会すると抜けにくくする巧妙な手法であることや、自分が加害者になって人間関係の破壊を招く危険性があるということを理解することです。そして、マルチ取引の手口がますます巧妙になっていますので、一人で判断せず信頼できる周囲の方や消費生活センターに相談してアドバイスを受けることが大切です。