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スマホやSNSをきっかけとしたトラブル事例と対応策

弁護士 池本 誠司

1. はじめに

若者が消費者トラブルに巻き込まれた最近の事例の特徴を見ると、スマートフォンを利用した広告・勧誘やインターネット上の契約、SNSを利用した口コミ型勧誘による契約などが目立ちます。具体的な事例を通じて、それらがなぜ契約トラブルにつながりやすいのかと、トラブルに遭わないためのチェックポイントを伝えたいと思います。

2. サブスクリプションサービスを巡るトラブル

事例1サブスク無料お試しのつもりが有料契約に

「1カ月間無料で動画見放題」のアプリをダウンロードして会員登録した。数回利用してそのままにしていたら、月額3000円の有料会員になっていてクレジットカード決済で預金口座から引き落としが続いていることを、6カ月後に気付いた。(20歳代、男性)

事例2無料期間中に解約したつもりが有料契約が続いていた

4カ月前に「1カ月無料トライアル」の動画配信サービスに会員登録をして、無料期間が終わる前に解約した。最近預金通帳を見たら、2カ月目から利用料金の引き落としが始まっていた。運営事業者に連絡して調べてもらったところ、動画配信サービスは解約されていたが、「今なら音楽配信サービス付き」のオプション契約部分は別に解約手続きが必要だったため、音楽配信は自動継続となっていることが分かった。(20 歳代、男性)

事例3パスワードを忘れてしまい解約手続きができない

月額料金固定制でハンドバック・小物をレンタルで利用し放題の有料会員登録をした。最初のうちは時々利用したが、最近は利用しなくなったので解約しようと思った。しかし、ID・パスワードを忘れたためマイアカウントに入れず、解約手続きができない。(20歳代、女性)

サブスクリプションサービス(サブスク)とは、音楽や動画などの配信サービスやバック・洋服などのレンタルサービスを、毎月一定の利用料金で一定の種類の商品・サービスの中から、自由に選んで好きなだけ利用できる、という継続的な契約です。

消費者にとっては、毎月一定額で音楽や動画などを自由に選べるので、頻繁に利用する人には便利で割安となるメリットがあります。他方、あまり利用しない人には割高となり、実際に利用していなくても解約手続きをしない限り、自動継続で料金が発生するデメリットがあります。

事業者は、顧客を継続的に確保できる効果があるので、無料サービス期間を設定するなどしてまず契約者を集めたうえで、できるだけ有料会員としてつなぎとめることを目指します。消費者が利用できるコンテンツの豊富さに魅力を感じて有料会員として継続するのであればよいのですが、無料お試しという強調ばかりで自動的に有料契約になることを明確に表示していなかったり、解約手続きが複雑で分かりにくい設定であったりすると、不本意な形で負担が続き、トラブルとなります。

サブスクのトラブルを防ぐには、こうした契約の仕組みとトラブルの特徴を理解したうえで、慎重に契約することです。

第1に、そのコンテンツや商品を将来にわたって継続的かつ頻繁に利用するのかどうかを冷静に考えてみることです。無料トライアルという広告に惹かれて、ちょっと試してみようという気楽な気持ちで契約すると(事例1参照)、トラブルになりがちです。

第2に、サブスクは契約者を手放さないために解約手続きが複雑に設定されているケースが少なくないこと(事例2参照)を理解しておき、無料お試しの契約をする前に確実な解約方法を確認しておくことです。

第3に、解約手続きは自分でマイアカウントにアクセスして解約申出をしなければならない仕組みが多いので、契約時に付与されたID・パスワードをきちんと保管しておくことです。

第4に、個人で交渉しても事業者がきちんと対応してくれない場合は、早めに消費生活センターに相談して事業者への申入れの方法を助言してもらうことも重要です。

なお、最近トラブルが激増している化粧品・健康食品等の定期購入事案も、「初回お試し格安料金」の誇大広告で契約させ、実は数カ月間の高額の定期購入契約をセットとする手口と、定期購入契約であることは表示されているが、「解約自由」という表示が強調されていたのでお試しのつもりで契約したが、実際には複雑な条件があって容易に解約できないという手口があり、インターネット上の継続的契約のトラブルの共通性があります。

3. フリーマーケットサービスを巡るトラブル

事例1フリマアプリで購入した商品が偽ブランド品だった

インターネット上のフリーマーケットサイトで、有名ブランドバックが割安な価格で出品されていたので購入した。届いた商品をよく見ると、ブランドロゴマークが少し変形しており偽ブラント品だと思う。出品者にメールで連絡したら、「本物だ」と言い張られた。フリマアプリ運営事業者に相談したが、「当事者で話し合ってください」という回答だった。(20歳代、女性)

事例2フリマアプリで商品を購入する際、商品受取前に出品者評価を求められた

フリマアプリで有名なスニーカーを購入して代金を運営事業者に支払ったところ、出品者から「先に出品者の評価をしたら商品を発送する」と求められた。そのスニーカーが欲しかったので評価を送信した。その後、商品が届かないので出品者に連絡したが返信がない。(20歳代、男性)

フリーマーケットサービスとは、インターネット上のサイトで個人間の売買を取り次ぐサービスです。フリマサービスの流れは、@出品者がフリマサイト上に商品を出品し、A購入者がその商品を購入して代金を運営事業者に支払い(一時預かり)、B購入者が代金を支払ったことを運営事業者から出品者に通知すると、C出品者が商品を購入者に発送し、D購入者が商品を受け取って「評価」を送信すると、E出品者が運営事業者から代金を受け取る、という手順です。

フリマアプリ上の検索機能によって、出品者も購入者も迅速に売買が実行できるメリットがありますが、個人間売買にはいろいろなデメリットがあります。

通信販売事業者から商品を購入する場合は、氏名・住所・電話番号等を正確に表示する義務や、誇大広告を禁止する法律上の規制がありますが、個人間売買の出品者にはこうした法律上の規制がありません。トラブルになったとき連絡できなくなるリスクや虚偽誇大広告のおそれが高いと言えます。

フリマサイトの出品者は個人とされていますが、悪質な販売事業者が個人名義で出品する例もあり、偽ブランド品などのトラブルも生じやすいと言えます。

フリマサイト運営事業者は、個人間売買の場を提供しているだけで、利用者間のトラブルには原則として関与しないと規約に定めていることがほとんどです。トラブルが発生しても解決に向けた連絡調整役になってくれないという苦情が多数あります(事例1参照)。

運営事業者が用意する代金決済サービス(エスクローサービス=代金の一時預かり)は、購入者が出品者を評価するメッセージを送ると、商品を受け取って異議がないものと扱われ代金が出品者に振り込まれるので、その後商品が送られてこなかったり偽物であっても救済は困難となります(事例2参照)。

フリマサービスのトラブルを防ぐには、利用するに当たってこうしたデメリットを理解したうえで、慎重に見極める必要があります。

第1に、出品者に対する法律の規制がないので、偽ブランド品や法律で禁止された商品や未成年者が買えない商品などが出品されている可能性があることを踏まえて、@購入前に商品の説明や写真を慎重に確認すること、Aエスクローサービスがあるフリマアプリを利用すること、B商品を受領したら評価を送る前に商品をすぐに確認することが不可欠です。

第2に、フリマサービスは個人間の売買ですから、トラブルの解決も原則として個人間で行うことを理解したうえで利用するかどうかを慎重に判断することです。ただし、トラブルに遭って個人間で解決困難なときは、その情報を運営事業者に伝えて、再発防止の対応を求めることは重要です。

第3に、フリマサービスの利用上の禁止行為を確認し、絶対に行わないことです。商品受取前に出品者の評価をすることや、フリマアプリで用意した決済方法を使用せずに代金を直接支払うことなどを持ちかけることは、詐欺的行為だと考えて拒否してください。

第4に、個人間売買自体の解決を消費生活センターであっせんしてもらうことはできませんが、運営事業者との連絡調整の問題などについては消費生活センターで相談することができます。

4. マルチ商法

事例1友人から一緒にやってみようと誘われてマルチ商法に参加

中学時代の友人から食事をしようと連絡がありファミレスであったら、「暗号資産(仮想通貨)の取引で確実に儲かる説明会があるので一緒に聞いてみよう」と誘われた。事業者から「暗号資産の投資をグループで勉強して確実に儲かるようにサポートする。仲間を誘って会員を増やすとボーナスも出る。」と説明され、友人から「一緒に頑張ってみよう」と熱心に勧められたので断り切れず、消費者金融で借金をして入会した。ほかの友人に声を掛けたところ、それはマルチ商法じゃないかと言われて拒否された。

事例2SNSで誘うマルチ商法

SNS で知り合った人から、「アフィリエイト広告で副収入を得る方法を指導してくれる会に参加してみないか。アフィリエイターをたくさん募集しているので、ほかに人を紹介すれば報酬がもらえる。」と誘われ、20万円支払って入会した。ごく簡単な指導だけで、サポートもほとんどない。友人を誘うと迷惑を掛けるのではないか。

マルチ商法とは、商品やサービスを購入して会員となり、ほかの人を誘って入会させると、売り上げに応じて報酬が得られるという販売システムです。購入者が勧誘員となって次々と会員を拡大しながら販売する仕組みであり、法律上は連鎖販売取引と呼ばれています。

従来は、化粧品や日用品などの物品の販売が中心でしたが、最近は、投資取引の会員や副業ビジネスの会員など儲け話に関する契約をマルチ商法の手法で勧誘する「モノなしマルチ」も増えています(事例1・2参照)。契約対象の取引で儲かるという話と勧誘活動によって儲かるという二重の儲け話で、取引の仕組みもよく分からずに契約してトラブルになるケースも少なくありません。高額の代金を支払って入会すると、その損失を挽回するためにほかの人を勧誘することになり、今度は自分が加害者になりかねません。

マルチ商法は、会員を増やせば大きく儲かるという話に惑わされて不要な商品やサービスを高額な代金で契約してしまうトラブルが多発しているため、法律によって、広告表示の仕方や勧誘の仕方や契約時に交付する契約書面の記載内容などを厳しく規制しています。また、20日間のクーリング・オフ、その後の中途解約返品制度など、消費者保護の規定もあります。しかし、全国の消費生活センターに寄せられるマルチ商法の苦情相談は、毎年1万件を超えています。

マルチ商法のトラブルを防ぐには、取引の特徴やリスクや法律による規制内容を理解したうえで、契約するかどうかをよほど慎重に判断すべきです。

第1に、マルチ商法の取引方法は、多数の会員を入会させて組織の上位になれば大きく儲かる可能性がありそうに見えますが、大半の会員は儲からない仕組みです。自分が勧誘した会員の損失によって儲けの財源を確保することであり、人間関係を壊すおそれが高いことを十分に自覚して慎重に判断すべきです。

第2に、マルチ商法によって商品・サービスを販売する目的であることを、事前に告げないで説明をしたり説明会に誘う行為は、それ自体違法な勧誘方法です。一部の成功例を取り上げて少し頑張れば誰でも容易に儲かるかのような勧誘方法や、儲けの仕組みを正確に書かないで儲け話を記載した広告表示も違法とされています。違法な勧誘方法や広告表示を用いるマルチ商法は絶対に契約しないことです。何よりも、儲かるからと言われて借金をしてまで契約することは、絶対にダメです。

5. 生徒に伝えたいこと

  1. スマホを利用したインターネット取引は、いつでも素早く検索してさまざまな契約ができる便利さがあります。しかし、紙の広告に比べ、スマホ画面の広告はスクロールやクリックによって広告や説明が無限に広がっており、どこに重要な契約条件や注意書きが書いてあるのか分かりにくいものです。有利なセールスポイントばかり強調した広告だけを見て、「今すぐ注文」というボタンに進むと、トラブルになるおそれが大です。
  2. SNSによる口コミやフリマアプリの出品は、個人間の気軽な情報交換や取引の場ですが、匿名で参加できるため連絡先が不確実だったり、法律の規制がないため誇大広告表示がされていたりするおそれがあります。これを悪用して悪質事業者が個人を装って参加していることを、常に意識しておくべきです。
  3. 訪問販売や連鎖販売取引の契約にはクーリング・オフ制度がありますが、インターネット取引(通信販売)にはクーリング・オフが適用されません。解約自由と書いてあってもさまざまな条件が付いていることを想定して、広告の隅々まで確認する注意深さが必要です。
  4. 若者は、悪意のある誘いに接した社会経験が乏しく、友人からの誘いをきっぱりと断ることが苦手です。インターネット取引は、悪質事業者が入り混じった世界であることを前提に行動すべきです。
  5. 消費生活センターは個々の相談者のトラブルを解決することを助力するだけでなく、相談者の個人情報を除いたうえで、不適正な事業者の情報を全国で集約して取締り部門の行政庁に情報提供しています。消費生活センターに相談することは、自分が助かるためだけでなく、同じような被害を繰り返さないためにも積極的に相談してみる価値があります。