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著作権法改正 〜教育現場における著作物利用を中心に〜

骨董通り法律事務所 弁護士 橋本 阿友子

第1 はじめに

近年のデジタル化・ネットワーク化によって、誰もが簡単にインターネット上に写真を公開し、動画を配信できるようになり、著作物を取り巻く環境はここ数年で著しく変化しました。この潮流を受け、平成30年に著作権法が改正され、一部を除き平成31年1月1日より施行されています。本稿では、教育現場における著作権の考え方や著作物の利用方法を紹介しつつ、教育現場にも深く関係する権利制限規定等の改正点を概説いたします。

以下、条文の記載は著作権法を示します。

第2 著作権とは

1.排他的利用権としての著作権

著作権とは、著作物(創作的に表現されたもの)に生じる財産的権利で、複製権(コピーする権利)、公衆送信権(インターネットへのアップロード、電子メール・FAXの送信、放送等を行う権利)、翻案権(翻訳、編曲、翻案等改変を行う権利)等の個々の権利の総称です。

例えば、AさんがイラストXを描いたとします。Xは、Aが創作的に表現したもので、著作物と考えられます。この場合、AはXの著作者で、Xの著作権はAに専属的に帰属します。原則としてAだけがXを利用することができ、Aの許諾なく、BがXを大量にコピーして販売したり、Xを撮影した写真をSNSにアップロードすることはできません。このように、著作権は、排他的利用権(他人の利用を禁止できる権利)といえます。

2.自由に利用できる場合

(1)保護期間

もっとも、いかなる場合にも第三者の著作物の無許諾利用が許されないわけではありません。著作物が保護を受ける期間(保護期間)は永久ではなく、保護期間を満了した著作物は、原則として誰でも自由に利用できます。保護期間は、平成30年改正で、著作者の死後(又は公表後)50年から70年に延長されました。例えば上の例でAが2020年に死亡した場合、Xは2090年末まで保護され、2091年1月1日から誰でも自由に利用できるようになります。ただし、保護期間は、幾度の改正の度に改正前の法律を参照したり、映画や写真など特殊な考慮が必要な著作物があったり、外国作品では戦時加算という制度の適用を考えなければならなかったりと、計算が簡単にはできないケースもあり、詳しくは弁護士等専門家にご相談なさることをお勧めいたします。

(2)権利制限規定

また、著作権法は著作権者の許諾なく著作物を利用できる場合を規定しています。これらの規定を「権利制限規定」(制限規定)と呼びます。無許諾で利用が許されるのは、著作物を利用しても著作権者に与える不利益が少ないと考えられる場合で、日本では権利制限規定で定められた一定の方法に限られます。たとえば、自分の論考の中で他人の学説を批判する目的で引用したり、報酬を受けずに無料コンサートで他人の楽曲を演奏するなどの場合には、他人の著作物の利用にあたり許諾が不要とされています。学校の音楽会や文化祭で生徒が他人の楽曲を演奏するのは、この制限規定により無許諾でも許されているものと考えられます。

著作権者は、自分の作品を他人に勝手に利用されたくないと思うでしょう。しかし、いかなる場合にも著作権者の許諾を必要とすると、著作物の利用が滞り、文化の発展が阻害されると考えられます。そこで、著作権法は、制限規定を設け、著作権者による独占と自由な利用のバランスをはかっているのです。

3.学校教育における制限規定

著作権法では、学校等の教育機関(営利目的機関を除きます。以下同様とします。)で教師又は生徒が、授業の過程において使用する目的の場合には、必要と認められる限度において、公表された著作物を複製することを認めています(35条1項)。例えば、大災害が起こった翌日に、教師が解説する目的で、授業において生徒にこの災害が掲載された新聞記事を配布したり、生徒が調べ学習の授業でインターネット上の写真や文章を印刷してクラスで配布する場合が、これにあたります。本来新聞記事、インターネット上の写真や文章を許諾なくコピーする行為は複製権を侵害するはずですが、制限規定によって侵害とならないのです(配布する行為は譲渡にあたりますが、この場合の譲渡は47条の7で許されています)。

学校教育における制限規定では公衆送信も認められていますが、この公衆送信の範囲が改正法で拡充されました。公衆送信については改正前後の利用方法を区別するため、詳しくは後述いたします。

第3 改正法の概要

1 改正の4つの柱

改正点は大きく4つに分けられます。

本改正の4つの柱

(1)柔軟な権利制限規定(30条の4・47条の4・47条の5関連)
表現の享受を目的としない利用(30条の4)
コンピュータでの効率的な著作物利用のための付随利用等(47条の4)
新たな知見・情報を生み出す情報処理の結果提供に付随する軽微利用等(47条の5)
(2)教育の情報化(35条)
異時授業公衆送信(1項)
異時授業公衆送信に対する補償金(2項)
従前無償とされた行為の無償維持(3項)
(3)障害者の情報アクセス機会の拡充(37条)
(4)アーカイブの利活用促進(31条・47条・67条関連)
国立国会図書館による外国の図書館への絶版等資料の配信(31条)
作品展示に伴う美術・写真の著作物の利用拡充(47条)
権利者不明作品の利用に必要な事前供託金の一部撤廃(67条)

(1)柔軟な制限規定

広めに利用が許される規定として整理された30条の4、47条の4、47条の5は、柔軟な制限規定として、AIの活用をはじめデジタル時代の技術開発を促す規定であり、今後の適用が期待されています。

(2)教育の情報化

平成30年改正は、ICTを活用した教育における著作物等の利用の円滑化を図るため、教育現場において従来から認められていた公衆送信の範囲を拡充しました。具体的な改正内容については、次章にて説明します。

(3)障害者の情報アクセス機会の充実

改正前から、視覚障害者等による著作物の特殊な利用である点字による複製、点字データによる著作物の保存及びネットワークを通じた送信や、一定の場合における書籍の音訳等が、権利者の許諾なく可能でした。

平成30年改正は、肢体不自由で書籍を保持したりページをめくれない人など、障害により書籍を読むことが困難な者にも適用を広げることで、受益者の範囲を拡充しました。

(4)アーカイブの利用促進

美術館等の展示作品の解説・紹介用資料をデジタル方式で作成し、タブレット端末等で閲覧可能にすることを無許諾で可能にする等、アーカイブの利用を促進する規定が追加されました。

以上が、平成30年改正の概要です。著作物の利用を促進する方向への改正であったことがお分かりになったかと思います。本稿では割愛しておりますが各条文には細かく要件が定められております。また、改正された条項は解釈が固まっていないため、実際の適用の場面で迷われた場合には、条文をご確認の上弁護士等専門家にご相談いただくことをお勧めいたします。

第4 教育現場における著作物の利用

1.改正のポイント

それでは、教育現場における著作物利用の改正点をやや詳しく解説したいと思います。

従前より無許諾で許されていた公衆送信は、教育機関における授業の過程で必要かつ適切な著作物等の遠隔合同授業(教師が授業を行っている主会場での授業の様子を、同時に、遠隔地の副会場に公衆送信すること)における送信(同時授業公衆送信)です。同時授業公衆送信とは、主会場にも副会場にも生徒がいて、同時に授業を受講している場面を想定しているとお考えいただくとわかりやすいかと思います。

平成30年改正は、同時授業公衆送信以外の公衆送信すべて(異時授業公衆送信等)を権利制限の対象に追加しました。これにより、例えば以下のことが可能になったと考えられます。

  • 対面授業において教材を学校外のサーバを経由して生徒のパソコンやタブレットに送信すること
  • 教師が授業の予習・復習用の課題を生徒のパソコンやタブレットに送信すること
  • 生徒がいない主会場で教師が行う授業で使用する著作物を遠隔地の副会場に配信すること(スタジオ型リアルタイム配信)
  • オンデマンド授業を行う際に講義資料や教材をサーバ上に保存すること

本条は授業の過程における利用のみを対象としており、この点は平成30年改正によっても変更はありません。そのため、異時授業公衆送信等が可能になったといっても、教員間でメールやサーバを経由して試験問題を交換したり、授業で利用した資料を記録の目的でサーバに保存する場合には、原則どおり、著作権者の許諾が必要となります。

もっとも、教育現場における複製・公衆送信のいずれについても、著作物の種類・用途・部数、当該複製・公衆送信又は伝達の態様から著作権者の利益を不当に害しない場合に限って認められています。MOOC※注(大規模一般人向け公開講座)での著作物利用は認められないと考えられるでしょう。

図:現行著作権法における学校等の授業の過程における著作物の利用の取扱い
文化庁「著作権法の一部を改正する法律」概要説明資料12頁より抜粋

2.新たな制度−補償金の支払い

もう一つ、重要な改正点を説明いたします。平成30年改正は、異時授業公衆送信等を追加したと同時に、権利者の正当な利益の保護とのバランスを図る観点から、この新たに追加された異時授業公衆送信等につき、著作権者等に補償金を受ける権利を付与しました。

平成30年改正では、既存の権利制限規定で無償とされている行為類型は無償が維持され、新たに権利制限として設けられた行為類型には補償金の支払いが必要となりました。このため、改正法施行後は利用方法によって有償・無償の別が生じることとなり、利用方法につき改正前から許されていたのか、改正後に許されるようになったのかを区別する必要が生じたといえます。

補償金は法律上当然に発生し、教育機関設置者が、文化庁長官の指定を受けた一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS)に支払うことになります。補償金請求権は個々の権利者に与えられたもので、補償金の額も個々の権利者毎の交渉で決せられるのが本来の形です。しかし、教育機関で利用される著作物等は多種多様であり、また大量に利用されることから、教育機関が個々の利用につき逐一権利者を探し出し、使用料の交渉を行うのは現実的ではありません。そこで、補償金の請求及び受領の簡便化、効率化等を図るために、指定管理団体としてのSARTRASを通じてのみ補償金請求権を行使できるという仕組みが作られました(改正法104条の11参照)。

つまり、教育機関としては、著作物を利用する際は、この団体だけに補償金を支払えば、新たに追加された範囲内の公衆送信について、権利者の許諾なしに利用できることになります。具体的な支払い方法は本稿執筆現在では未定ですが、個々の教育機関ではなく、教育委員会、学校法人、国、地方公共団体等の教育機関の設置者ごとに傘下の教育機関の分がまとめてSARTRASに支払われることが検討されているようです。

この指定管理団体は補償金請求権を独占的に管理するため、文化庁の認可制になっています。補償金の額は本稿執筆現在では未定です。

なお、平成30年改正のうちこの35条の改正については、改正著作権法の公布の日である平成30年5月25日から3年以内で政令において定める日から施行されることになっています。施行日までは、対面授業の同時授業公衆送信以外の公衆送信については、権利者の事前の承諾が必要となる点にご注意ください。

Ⅰ 改正前から無許諾で可能だった利用方法
教育機関の授業の過程における複製
同時授業公衆送信
Ⅱ 改正後に新たに無許諾で可能となった利用方法
教育機関の授業の過程での公衆送信
対面授業の予習・復習用の資料送信
オンデマンド授業(異時授業)での利用
スタジオリアルタイム配信授業での利用
Ⅲ 改正後でも利用に許諾が必要と考えられる利用方法
教員間・教育機関間での教材の共有
MOOC等大規模一般人向け公開講座での利用

第5 終わりに

教育現場において著作物は頻繁に利用されていると思います。著作権法は、原則として他人の著作物の利用には当該他人の許諾を必要と定めており、無許諾で利用できる場合を制限規定で限定していますが、特に学校など教育機関では、無条件に著作物を利用できると誤解されている例もあるようです。誤った知識による利用は、著作権者との思わぬトラブルを招くリスクがありますので、著作物の利用にあたっては、著作権法の正しい知識を身につけていただきたいと思います。

教育現場における著作物については、平成30年改正によって無許諾で利用可能な範囲が拡大しましたが、従来と異なり、無償・有償の別が生じ、扱いは煩雑になるともいえます。本稿執筆現在ではまだ35条の改正箇所は施行されておりませんが、本稿が施行日に先立ち事前に正しく理解していただくきっかけになれば幸いです。

※注 Massive Open Online Coursesの略