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製品事故について考える 〜消費者としての立場から〜

池袋総合法律事務所 弁護士 志水 芙美代

1. 製品事故とは

製品事故とは、製造物の欠陥によって事故が発生した場合をいいます。製品事故は、家庭や学校で日常的に使用している製品が原因で起こることも珍しくありません。そこで、製品事故を未然に防ぐため、あるいは、万が一起きてしまった場合の対応のために、消費者として身に付けておいた方がよい知識をご紹介いたします。

2. 製造物責任法について

製造物の欠陥により、生命、身体または財産に対する損害が生じた場合、被害者は、製造物責任法(略称、PL法:Product Liability act)に基づいて、製造業者や加工・輸入業者などに対して損害賠償を求めることができます。

この法律は、一般法である民法の不法行為の特則にあたり、製品事故被害者の救済を実効化するため、消費者団体などの立法運動を経て、平成6年6月に成立しました。民法の不法行為責任では、事業者側の故意・過失を被害者側が立証する必要がありますが、これは大変なことです。この点、製造物責任法では、被害者が製造物の「欠陥」を証明すればよいので、被害者の立証の負担が軽減されています。

3. 製造物の「欠陥」の3類型について

製造物責任法でいう「欠陥」とは、「製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていること」と定義されています(製造物責任法2条2項)。

そして、実務上は、3つの類型、①製造上の欠陥、②設計上の欠陥、③指示・警告上の欠陥に分けて検討されることがよくあります。

①の製造上の欠陥とは、製造過程において安全性を欠く状態が生じた場合で、例えば、飲料の製造過程でたまたま異物が混入してしまったというものが挙げられます(参考事例:異物が混入したジュースを飲んで喉頭部を負傷した事件・名古屋地方裁判所平成11年6月30日判決)。

②の設計上の欠陥とは、設計自体に問題があったため安全性を欠いた場合で、例えば、乳児が手に取る可能性のある容器でありながら誤飲リスクの高い形状・寸法であったというものが考えられます(参考事例:カプセル容器入り玩具のカプセル容器を2歳10か月児が誤飲して低酸素脳症になり後遺障害が残った事件・鹿児島地方裁判所平成20年5月20日判決)。

③の指示・警告上の欠陥とは、製品に一定の危険性が潜在していて取り除けない場合に、その危険についての指示・警告表示が十分でなかった場合で、例えば、使用方法によっては火傷の危険がある美容機器について、消費者が火傷を負わないよう注意するための取扱説明書等の記載が不足していたというものが挙げられます(参考事例:エステ機器の電気刺激によって火傷による水ぶくれを負った事件・岡山地方裁判所平成17年10月26日判決)。

3つの類型に分けることで、その製造物の「欠陥」の本質がどこにあるのかを整理することができます。

4. 本来の用法とは異なる使用と欠陥との関係

製品事故に遭わないためには、取扱説明書などの注意事項をよく読み、正しい使用方法を遵守することが大切であることは当然です。もっとも、消費者が、うっかり本来の使用方法とは異なる使用をしてしまった結果、製品事故が起きてしまった場合にも、その製品に「欠陥」があるとして製造業者等の賠償責任を求めることはできるのでしょうか。

この点については、事業者にとって、「通常予見される使用形態」の範ちゅうでの使用により事故が起きた場合は、そのような製品はやはり通常有すべき安全性を欠いており、「欠陥」が認められるべきといえます。世の中には、さまざまな製品が出回っており、年少者などが本来の用法とは異なる使い方をしたり、うっかり使用方法を誤ってしまったりする可能性も否定できません。例えば、前述のカプセル玩具容器の誤飲の事件も、本来は玩具(対象年齢7歳程度)の容器に過ぎないカプセルを、幼児(2歳児)が転がして遊び、口に入れたことにより発生した事故で、製品の本来の対象年齢や使用方法とは異なる場面ですが「通常予見される使用形態である」として、製品の「欠陥」が認められています。事業者としては、本来の用法よりも広く、「通常予見される使用形態」を前提に、事故が起きないよう安全な製品設計をしなければなりません。

他方で、消費者が異常な使用をした結果、事故が起きてしまった場合にまで、製造業者等に責任を問うのは難しいでしょう。

5. 製品事故が発生した場合の初期対応について

製品事故が発生した場合、けがなどをした方の救護を行うことはもちろんですが、受けた被害をきちんと賠償してもらって救済されるためには、その事故が製品の欠陥によって発生したことを示せるようにしておくことが大切です。そのためには、現場や事故品をできるだけ事故時の状態のまま保全して、まずは各地の消費生活センターや製品事故専門の弁護士に相談をするようにしましょう。相談することで、次の被害者が出る事故を防ぐ意味もあるため、早めに相談をすることが重要です。

6. リコールについて

リコールとは、広い意味では、不具合のある製品を事業者が回収し、無料で交換・修理などをすることです。リコール対象製品でありながら、そのことを知らないまま使用を続けて、製品事故に遭ってしまうケースもあります。その意味で、リコール情報をいち早く入手することは事故の未然防止のため、とても重要です。

リコールに関して、あらゆる製品に対して共通で適用されるような横断的な法律は制定されておらず、個別の分野ごとの法律で対応されています。例えば、食品については食品衛生法、自動車については道路運送車両法、医薬品や医療機器等については医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律、消費生活用製品一般(他の法律で個別に安全規制が定められている物を除く。)については、消費生活用製品安全法などです。このほか、法的にはリコール対象とまではならない程度の不具合の場合でも、事業者の自主的な判断によってリコールが行われることもあります。

リコール情報については、事業者や監督官庁の報道発表などで周知されるほか、監督官庁等が開設しているポータルサイトでも確認できるようになっていますので、下記の通り一部を紹介します。また、最近では、定期的にリコール情報をメール配信するサービスもあります。日々リコール情報を閲覧・チェックするためには、配信サービスに登録しておくのもよいでしょう。

リコール情報サイト
消費者庁
https://www.recall.caa.go.jp/

リコール情報メールサービス登録
https://www.recall.caa.go.jp/service/register.php
リコール情報サイト
製品評価技術基盤機構(NITE)
https://www.nite.go.jp/jiko/jikojohou/recall_new/index4.html
自動車のリコール情報
国土交通省「自動車のリコール・不具合情報」
http://www.mlit.go.jp/jidosha/carinf/rcl/index.html
医薬品、医療機器等のリコール情報
独立行政法人医薬品医療機器総合機構「医薬品等の回収に関する情報」
http://www.info.pmda.go.jp/kaisyuu/menu.html
消費生活用製品のリコール情報
経済産業省「リコール製品別情報」「日付順リコール製品情報」
https://www.meti.go.jp/product_safety/recall/index.html

7. 製品事故の未然防止のために

製品事故を防ぐには、製品選択の場面が非常に重要です。誤った使用をしないよう、日頃から注意を怠らないことはもちろんですが、根本的な事故防止のためには、商品選択の段階でリスクの高い製品を避けることの方が、より効果的です。そのためには、安全基準への適合性を示す各種マークについて知っておくことが有用ですし、自己防衛のための事前リサーチも重要です。

(1)各種マークについて

法律に基づくマークや業界団体等の自主的な基準に基づくマークまでさまざまあります。マークによる適合性認証がされている製品であれば絶対に安全で事故が起きないわけではありませんので、過信はせず、製品評価の一つの目安と捉えてください。

1JISマーク

工業標準化法に基づく日本工業規格(JIS)に適合していることを示すマークです。鉱工業品の重要な品質をJISとして定め、登録認証機関の審査で適合性が認められた場合に、その証明として該当する製品に表示が許されます。

(注)令和元年7月1日以降、「工業標準化法」は「産業標準化法」、「日本工業規格」は「日本産業規格」へと変わります。

JISマークの画像

2PSマーク(製品安全4法におけるマークの総称)

製品安全4法(消費生活用製品安全法、液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律、ガス事業法及び電気用品安全法)に基づき、製品事故による危害防止のため、法律で規制されている特定の製品について、安全性が確認されたことを示すマークです。規制対象の製品については、PSマークを表示しなければ販売することができません。PSマークは、製品安全4法ごとに、PSCマーク、PSLPGマーク、PSTGマーク、PSEマークの4種類に分かれます。例えば、消費生活用製品安全法に基づく特定製品に表示されるのがPSCマークです。PSCマークには更に2種類あり、製造又は輸入事業者自身による検査が義務付けられている「特別特定製品を除く特定製品」(例えば、乗車用ヘルメット、家庭用圧力なべなど)の表示が丸囲みのPSCマークです。それに加えて第三者機関の検査も義務付けられている「特別特定製品」(例えば、乳幼児用ベッド、ライターなど)の表示がひし形囲みのPSCマークです。

特別特定製品を除く特定製品の表示及び特別特定製品の表示の画像

3SGマーク(任意の認証制度)

Safe Goods(安全な製品)の略で一般財団法人製品安全協会が定めたマークで、同協会が策定した消費生活用製品の安全性品質・使用上の注意事項等に関する基準(SG基準)に適合する商品の認証マークです。

SGマークの画像

4BAAマーク(任意の認証制度)

一般社団法人自転車協会の定めるマークで、同協会の自主的な安全性基準である「自転車安全基準」に適合する自転車の認証マークです。JISをベースとしつつ、JISにはない要件や、より厳しい基準を定めています。

BAAマークの画像

(2)自己防衛のための事前リサーチについて

製品事故に遭わないためには、同一または同種の製品による過去の事故例の有無を事前にリサーチすることも重要です。

消費生活用製品安全法に基づき、「製品事故情報報告・公表制度」が設けられており、消費生活用製品の製造・輸入事業者は、重大な製品事故が発生したことを知ったときは10日以内に消費者庁に報告する義務があります。報告を受けた消費者庁は、当該事故情報を迅速に公表するなどの措置をとります。また、消費者庁は、消費者安全法に基づき、地方自治体や国民生活センターなどの関係機関からも事故情報を一元的に集約します。その上で、集められた事故情報は、「事故情報データバンクシステム」として公表され、誰でも検索することができます。

事故情報データバンクシステム
http://www.jikojoho.go.jp/ai_national/

商品選択で迷った場合は、過去に事故の公表がされていないか、事故情報データバンクに心配な事故事例が載っていないかをよく調べ、安全性に納得した商品を選ぶとよいでしょう。

8. 生徒へのアドバイス

製品事故に遭ってしまった場合、まずはお近くの消費生活センターへ相談をしましょう。自身の被害救済のための一歩であることはもちろんですし、相談窓口に製品事故情報が寄せられることにより、事故情報として登録・公表されたり、場合によってはリコールが実施されたりして、同種被害の発生防止にもつながります。消費者が製品事故情報を共有し合う仕組みによって、より安全な製品が求められる世の中を作っていくことの助けとなります。