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新たなJAS制度とJASマーク

農林水産省食料産業局食品製造課基準認証室

1 はじめに

JAS(Japanese Agricultural Standards)制度は、平成29年6月の農林物資の規格化等に関する法律(JAS法)の改正により大きく変わりました。

事業者にとっては競争力強化のツールとして、一般消費者にとっては商品選択の指標として、より活用しやすいものとなりました。

制度見直しの概要や今後のJAS規格・認証の展開方向については、「わたしは消費者150号(2017年12月発行)」でご紹介したところですが、本稿では、平成30年10月に決定した新たなJASマークや、最新の規格についてご紹介いたします。

2 JAS制度見直しのポイント

まずはじめに、平成30年4月より全面施行された改正JAS法について簡単に紹介します。

従来のJAS制度は、食品・農林水産品の品質基準を内容とする規格(JAS)を農林水産大臣が制定し、事業者は、農林水産大臣により登録された第三者機関の認証を受けて、JASに適合する食品・農林水産品にマーク(JASマーク)を表示できる仕組みです。しかし、近年、食品・農林水産品に対するニーズの多様化により、また、食品・農林水産品の海外展開が課題となる中、食文化や商慣行が異なる海外市場において、その産品になじみのない取引相手に、日本産品の品質や特色、事業者の技術や取組等を訴求する際に、規格・認証の活用が重要かつ有効となっています。

こうした情勢を踏まえ、平成29年のJAS制度の見直しにおいては、多様な価値を見える化し得るよう、これまで品質基準に限定されてきたJASの対象を、①食品・農林水産品の生産・流通プロセス、②事業者による食品・農林水産品の取扱方法、③食品・農林水産品を取り扱う事業者の経営管理方法、④食品・農林水産品の試験方法にまで拡大し、多様な規格を制定することができるようになりました。(「わたしは消費者150号」参照)

また、併せて以下の見直しを行っています。

  • 多様なニーズに対応したJASの制定・活用につなげるため、JAS原案を民間から提案しやすい環境を整備
  • 現行の認証の枠組みを拡充するとともに、試験方法のJASが制定可能となったことに対応して、国際基準に適合する試験機関を農林水産大臣が登録する登録試験業者制度を創設
  • 一見して認証内容が分かるマークを表示できるなど、新たなJASに対応したJASマークの表示の枠組みを整備

3 新たなJASマークの決定

上述のとおり、新たなJAS制度の下、海外市場も含め高い訴求力を持つ特色のあるJASの制定・活用を促進するにあたり、これらの認証の訴求力を国内外で高めるため、昨年10月には、新しいデザインのマークを一般投票により決定しました。

新たなJASマークは、「信頼の日本品質」を一目でイメージしていただくため、日本を象徴する「富士山」と、日の丸を連想させる「太陽」を組み合わせ、シンプルなデザインとしました。新マークの色は下記の農林水産省ホームページでご覧ください。新JASマークは、「地鶏肉」や「熟成ハム」など、特色のある規格に対して表示することができます。また、規格の内容を端的に示す標語を新JASマークと併せて任意で表示することができます。

http://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/new_jaslogo.html

新たなJASマーク

新たなJASマークの画像

こうしたJASに対する訴求力向上に向けた取組の効果により、新たなJASの制定の動きが活発化しており、平成31年1月時点で特色ある生産方法の規格や我が国の農産物に多く含まれる機能性成分の試験方法の規格など新たに9規格が制定されています。

今回は、この新JASマークが使われる規格として、①人工種苗生産による水産養殖品のJAS、②障害者が生産行程に携わった食品のJAS(2019年1月現在規格案を検討中)、③今般の制度改正により新たに制定が可能となった試験方法の規格、をご紹介します。

JASマーク見直しの概要

JASマーク見直しの概要のイメージ図

※統合前の3種類のマークに該当する製品については、平成34年3月31日までの間に順次新たなマークに移行していきます。

(1)「人工種苗生産技術による水産養殖品」

世界の人口増加に伴う水産物の需要拡大には、養殖生産量の増産で対応している一方で、天然稚魚に頼る養殖では、稚魚乱獲が海洋資源の枯渇の原因との指摘がなされています。国際連合で掲げる、SDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)でも、海洋水産資源の保全の目標が設定されており、海外では、「持続可能な認証商品」のみを取り扱う小売業者も存在しています。そこで、事業者からの提案により、我が国が先行している、天然稚魚を採捕しない人工種苗技術による養殖産品の生産方法を規格化しました。本規格では、給餌量の維持や定期的な水質検査等の環境への影響低減のための管理、労働者への配慮を行うこと等が規定されています。こうした基準を満たすことにより、次の効果が期待されます。

  • 持続可能な養殖及び海洋水産資源の保全に寄与することができる。
  • 持続可能な社会形成に寄与している養殖産品であることを流通・販売関係者や消費者に広く訴求することが可能になる。
  • 国内外の取引で求められる情報や信頼を規格・認証で担保することができる。

標準化(規格化)は、市場の拡大や参入・製造のコストダウン、説明力・証明力の向上などのメリットがある反面、技術がオープンになることで他社の参入が容易になるなどのデメリットもあります。このため、標準化を検討する際は、現在では、自社のどの領域をクローズにするか、どこをオープン領域として標準化するかといった戦略的な対応が重要となります。

この規格では、人工種苗を用いた養殖を行う場合の管理方法等が規定されているものの、具体的な完全養殖技術のノウハウについての規定はありませんので、事業者は、完全養殖を行うという高度な技術を秘匿したままで養殖品をアピールすることができます。

人工種苗生産技術による持続的なサイクル

人工種苗生産技術による持続的なサイクルのイメージ図

(2)「障害者が生産行程に携わった食品」

農業分野での障害者の就労を支援することは、「農福連携(ノウフク)」の一つの取組として、その推進が期待されています。また、SDGsには、全ての人に対して働きがいのある人間らしい仕事を推進することが目標のひとつとして設定されており、2020年東京オリンピック・パラリンピックの「持続可能性に配慮した農産物の調達基準」においても、「障がい者が主体的に携わって生産された農産物」の使用が推奨されています。しかしその一方、「農福連携(ノウフク)」の取組が農業者や消費者に広く認知されていない状況にあるのが現状です。

そこで、事業者からの提案により、本規格では、障害者が主要な生産行程に携わっていることや、消費者等からの問い合わせに応じ、その携わった生産行程を情報提供すること、また、「ノウフク」という用語やその説明を表示すること等の基準が規定されています。これにより、次の効果が期待されます。

  • 第三者認証制度により、障害者が携わった食品の信頼性が高まり、人や社会・環境に配慮した消費行動(エシカル消費)を望む購買層に対する訴求力が増大。
  • 本規格が「農福連携(ノウフク)」の普及を後押しし、農業の担い手不足や農地荒廃、障害者の就労先不足や工賃の低さなどの農業・福祉双方の諸課題解決ツールとなる。

人工種苗生産技術による水産養殖品のJASや、障害者が生産行程に携わった食品のJASは、それぞれの規格を満たした製品に新JASマークが表示されますので、皆さんも是非探してみてください。

(3)「ほうれんそう中のルテインの定量」

これまでに紹介してきた規格は、一定の基準を設定し、その基準に適合しているかどうかという「合否」の基準を定めるものです。これに対し、試験方法の規格は、評価方法そのもの、すなわち「採点方法」を定めるものといえます。

ルテインは、ほうれんそう等に多く含有されるカルテノイドの一種であり、加齢黄斑変性の予防など目の健康維持に役立つ機能性が報告されている、いわゆる機能性成分のひとつです。食品の機能性成分の研究や利用は我が国が国際的にリードする分野であり、生活習慣病が増加するASEAN地域においても関心が高まっています。例えば、冷凍ほうれんそうにあっては、ルテインの機能性を訴求ポイントとして海外への出荷を検討する取組も進展するなど、輸出に対する機運も高まっているところです。

そこで、ほうれんそう中のルテインの定量試験方法を規格化することで、共通のモノサシにより、産品に含まれる成分量の客観的な比較が可能・容易となり、我が国産品特有の品質の優位性を客観的に説得力をもってアピールすることができます。

試験方法のJASにあっては、商品の特色、事業者の技術や取組の内容を見える化するものではなく、特色や技術・取組に起因する結果(品質・性能)を客観的に表すことができるものですので、ノウハウなどの営業秘密や「秘伝」を秘匿したまま優位性のアピールが可能です。

4 おわりに

新たなJAS制度では、事業者や産地のみなさまからのご提案をいただいて社会で役立てられる規格を制定していくこととしています。こうしたJASのご提案は随時受け付けておりますので、ご提案、その他のお問い合わせにつきましては、以下の窓口までお寄せください。

【窓口】農林水産省食料産業局食品製造課基準認証室
TEL:03-6744-7182 MAIL:jas_soudan@maff.go.jp
URL:http://www.maff.go.jp/j/jas/index.html