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JAS制度の見直しと今後の展開方向

農林水産省食料産業局食品製造課 食品規格室長 松本 修一

はじめに

「JAS」マークでお馴染みのJAS(Japanese Agricultural Standard)制度は、本年6月の農林物資の規格化等に関する法律(JAS法)の改正により大きく変わりました。

今回の改正により、JAS制度は、食品・農林水産品の品質だけではなく、製法などの特色、食品事業者の技術や取組など、食品・農林水産品にまつわる多様な価値を「見える化」し、事業者にとっては競争力強化のツールとして、一般消費者にとっては商品選択の指標として、より活用しやすいものとなりました。

本稿では、今回のJAS制度の見直しの趣旨と概要、さらに今後のJAS規格・認証の展開方向についてご説明いたします。

1.JAS制度見直しの趣旨

(1)従来のJAS制度は、食品・農林水産品の品質に関する規格(JAS規格)を設け、一定の品質を保証する公的枠組みとして、粗悪品を排除し市場に出回る商品の品質の改善を後押しするとともに、その商品の品質に関する供給者の説明・証明と需要者の選択を容易にするなど、取引の円滑化や一般消費者の合理的な選択に寄与してきました。この間、消費者保護の社会的要請の高まりに応え、一般消費者が品質を識別するために必要な表示を事業者に義務付ける品質表示基準制度もJAS法に位置付けられ、JAS制度とともに一般消費者の選択に貢献してきました(なお、食品の品質表示基準制度は、平成27年、食品表示法に一元化されました)。

(2)しかし、近年、市場に出回る商品の品質が総じて高まる中、食品・農林水産品に対するニーズは、品質はもとより、例えば、環境に配慮しているかといったものにも拡大するなど多様化し、従来のJAS規格で定める品質以外の価値が商品選択において重視されてきています。

他方、日本各地には、「伝統的な製法」など、原材料や成分などの品質では表現できない特色ある銘品が溢れていますが、その特色が見える化されていないために埋もれてしまっているケースが数多く存在しています。

こうした中、品質以外の価値の見える化を進めることは、食品・農林水産品に対する多様なニーズに対応し得るとともに、供給者にとっては自らの商品・技術や取組の説明・証明、アピールの手段に、需要者にとってはその価値を認識するチャンスにつながるものです。

(3)また、食のグローバル化が進む中、海外市場では、文化、価値観、商慣行が異なる者同士が取引を円滑に行えるよう、商品・技術や取組の確かさを担保する手段として規格・認証が重視されています。近年では、海外の取引先から、食品の安全管理が適正に実施されている担保として、GAP(注1)、HACCP(注2)等を内容とする規格(GLOBALG.A.P.(注3)、FSSC22000(注4)など)の認証取得を求められるケースが増大しています。また、海外の取引先に対し、JAS規格の内容を示しながら認証取得を説明し品質や管理技術の確かさについて信頼を得ているケースも多く見受けられます。このように、規格・認証により商品・技術や取組の内容を見える化すれば、サプライヤーは客観的で説得力のある説明や証明、アピールが容易に、バイヤーは確かなものとの判断が容易になり、海外との取引も円滑化することとなります。

さらに自国の事業者に取り組みやすく有利に働く規格・認証の国際的な影響力を高めるため、各国は、国内の規格・認証を国際的に通用するものとする取組のほか、CodexやISO、さらに食品安全分野において近年強い影響力を有するGFSI(Global Food Safety Initiative)(注5)などの国際的な枠組みを通じ国内規格を国際規格化する取組など、自国に有利な競争環境の整備に取り組んでいます。

我が国も、農林水産・食品分野の輸出力強化が課題となる中、海外との取引に当たっては規格・認証を戦略的に制定・活用していくことが重要です。特に、海外に馴染みのない商品・技術や取組であっても、規格・認証の制定・活用により説明や証明、信頼の獲得が容易になります。我が国の「強み」を規格として定めて取引に活用すれば、海外へのアピール力が向上し、輸出力強化に大きく寄与することとなります。

さらに、我が国の事業者に取り組みやすく有利に働く規格・認証の国際化も併せて進め、国際的な影響力を高めていくことも急務です。

こうした中、平成28年11月に決定された農業競争力強化プログラムでは「日本産品の品質や特色のアピールにつなげるため、国際標準化を見据えたJAS規格の充実・普及を図る」ことと位置付けられるに至りました。

(4)このような課題に対応し、食品・農林水産品に対するニーズの多様化に応えるとともに、事業者の競争力を高めるツールとして「強み」のアピールにつながる規格・認証を戦略的に制定・活用し得るよう、多様な規格を定められるようにするなど、JAS制度の見直しを行うこととしたものです。

2.新たなJAS制度の概要

(1)従来のJAS制度は、食品・農林水産品の品質基準を内容とする規格(JAS規格)を農林水産大臣が制定し、事業者は、農林水産大臣に登録された第三者機関の認証を受けてJAS規格に適合する食品・農林水産品にマーク(JASマーク)を表示できる枠組みです。

(2)他方、今回のJAS制度の見直しにおいては、多様な価値を見える化し得るよう、これまで品質基準に限定されてきたJAS規格の対象を、@食品・農林水産品の生産・流通プロセス、A事業者による食品・農林水産品の取扱方法、B食品・農林水産品を取り扱う事業者の経営管理方法、C食品・農林水産品の試験方法にまで拡大し、多様な規格を制定することができるようにしています。【図1】

さらに、JAS規格に適合している場合には、それぞれその内容が分かるJASマークの表示が可能となります。【図2】

【図1】定められるJAS規格とマーク

【図1】定められるJAS規格とマーク

【図2】分かりやすいJASマーク表示

【図2】分かりやすいJASマーク表示

(3)また、JAS規格の対象の拡大に併せて以下の見直しを行っています。

@
多様なニーズに対応したJAS規格の制定・活用につなげるため、JAS規格案を民間から提案しやすい手続を整備
A
現行の認証の枠組みを拡充するとともに、試験方法のJAS規格を制定できるようにしたことに対応して、国際基準に適合する試験機関を農林水産大臣が登録する登録試験業者制度を創設
B
一見して認証内容が分かるマークを表示できるなど、新たなJAS規格に対応したJASマークの表示の枠組みを整備
(注1)
農産物の安全を確保し、よりよい農業生産を目指すための取組。
(注2)
食中毒等の原因となるものを予測して管理・記録する取組。
(注3)
GLOBAL G.A.P.はドイツの民間団体が策定した、GAPの要素を取り入れた規格。
(注4)
FSSC22000はオランダの民間団体が策定した、HACCPの要素を取り入れた規格。
注3・注4については、いずれも後述のGFSIに承認された規格であり、国際的に広く活用されている。
(注5)
国際展開する食品企業からなる民間組織による枠組み。