わたしは消費者 教員向け消費者教育情報提供誌・Web版

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トピック
消費者団体訴訟制度
消費者団体訴訟制度について
特別支援学校高等部における知的障害のある生徒のための消費者教育教材
「出前寄席」を学校で活用した事例紹介
平成28年度 東京都立第四商業高等学校「日本の伝統文化学年行事」実施報告
149号PDFファイル(1.13MB)
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特別支援学校高等部における
知的障害のある生徒のための消費者教育教材

東京家政学院大学 准教授 小野 由美子

1. 障害者と消費者教育

(1)障害者と消費者に関わる法律

高齢や障害のある消費者について、その被害や社会的な対応の重要性が認識されてきています。例えば、2012年施行の消費者教育の推進に関する法律の第13条では、高齢者や障害者等に対する消費者教育が適切に行われるために福祉関係者への研修の実施、情報の提供などが求められ、第3条(基本理念)や第18条(情報の収集及び提供等)でも「障害」について言及されています。2011年に改正された障害者基本法では第27条に消費者としての障害者の保護が規定されました。こうした法律における動きは、支援の必要な消費者への取り組みの根拠となり、消費者市民社会を構築するための大きな柱となっています。

(2)知的障害者向け消費者教育教材

東京都消費生活総合センターでは2009年度にDVD教材「断るチカラの磨き方-心の隙を狙う悪質商法-」(知的障害や発達障害のある方へ)とWeb版消費者教育読本(以下、Web版読本という)「ハカセといっしょに消費者の時間へGO!」(特別支援学校高等部の学生向け)、そして後述しますが2016年度にWeb版読本「ちえとまなぶのず〜っと役立つお金の話」を作成しました。この間に行政が作成した教材のうち、消費者庁の消費者教育ポータルサイトで「障害」や「障がい」というフリーワード検索で情報が入手できる素材をみると、映像教材では千葉市消費生活センターが障害者向けに「相談する勇気〜悪質商法に負けないぞ!〜」を2013年度に、消費者庁が見守りの担い手向けに映像教材「高めよう!『見守り力』〜高齢者・障害者の消費者被害を防ぐために〜」を2014年度に作成しています。パンフレットでは福岡県消費生活センターが2013年度に「どんなところにもトラブルのタネ<障がい者編>」を作成しています。

消費者教育ポータルサイトに掲載されてはいませんが、神奈川県でも社会生活を始める知的障害者向けの「こんなとき、どうすれば!?―消費者トラブルに、あわないために―」(2014年度)、知的障害等のある中学生向けの「『お金のつかい方』を学ぼう!」(2015年度)、働く知的障害者向けにトラブル事例と対処法について紹介した「これで安心、大丈夫!」(2016年度)というリーフレットを連続して作成しました。熊本県が2015年度に作成した本人向けのリーフレット「消費者トラブルをなくそう! 困った時は相談だ!」には、見守りのための支援者向けの手引書が付いており、社会人としての生活を間近に控えた特別支援学校高等部の生徒から社会人にまで役立つ内容となっています。このように知的障害のある消費者を対象にした消費者教材が徐々に充実してきました。

2. 障害者の消費者問題

(1)障害のある相談者の特徴

障害のある消費者の相談の特徴を平成29年版「消費者白書」から検討してみましょう。障害者等(トラブルの当事者が心身障害者又は判断能力の不十分な方々であると消費生活センター等が判断したもの)に関する相談件数は2016年度に19,751件あり、そのうち契約者が相談者と同じだったケースが7,431件でした。つまり、本人が消費生活相談の窓口に直接アクセスした割合は37.6%であり、家族や支援者などの見守りをしている人が本人に代わって相談を寄せるケースが多いことを意味します。ここから分かることは、当事者が消費者としての力をつけるだけではなく、見守っている人が問題に気づき、相談窓口につなぐことが必要であるということです。障害のある消費者にとっては、必要のない誘いを断る力をつけることと同じくらい、信頼のおける人に相談をしたりして、適切な窓口につながる力をもつことが今日の消費者市民社会には求められています。

(2)相談の特徴

障害者全般に関わる相談について、私自身が以前、国民生活センターに情報の開示請求をして実施した調査をご紹介します。2013年に全国消費生活情報ネットワークシステム(PIO-NET)に寄せられた相談情報のうち、「心身障害者関連」と「判断不十分者契約」の両方のキーワードが登録された1,683件を分析したところ、ご本人が相談した割合は30.5%であり、認知症の母親など「親を心配して子どもが相談」した割合19.2%と、「子を心配して親が相談」した割合19.1%は、ほぼ同じ結果となりました。このことから、障害のある当事者への啓発活動はもちろん、高齢者世代を見守る人と同じくらい若い世代を見守る担い手への情報提供も大切なことが明らかになりました。ちなみに、福祉サービス等関係者が相談を寄せた割合も11.1%あったことから、地域ぐるみの取り組みが必要であることがあらためてわかります。

販売購入形態をみると、店舗購入12.1%、訪問販売17.3%、通信販売20.7%、電話勧誘10.9%でした。店舗購入には「0円のスマートフォンを購入するために店を訪れたが、高額なスマートフォンと15円携帯電話2台とあわせて3台を契約。支払いができないのでクーリング・オフしたい」、訪問販売では「チラシでみた業者に台所の水道修理を依頼したが、台所以外の水回り工事を次々に勧められ、高額契約させられるので不満」、通信販売では「施設に入居している知的障害者が、無料とあった広告を見てアダルト動画サイトにアクセスし、高額な料金を請求されている」、電話勧誘では「1ヶ月前に、支援サービス利用者が電話勧誘で内容を理解しないまま医療保険の契約をしてしまったが、無条件解除できるか」といった相談がありました。この調査は相談情報についての「件名」と「内容等キーワード」だけに限定して分析していることもあり、詳細な販売購入形態まで読み取れない事例も33.6%にのぼりましたが、全体の30.7%が借金問題に関するもので、69.3%が携帯電話やスマートフォン、パソコンを契機にした相談でした。