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トピック
消費者団体訴訟制度
消費者団体訴訟制度について
特別支援学校高等部における知的障害のある生徒のための消費者教育教材
「出前寄席」を学校で活用した事例紹介
平成28年度 東京都立第四商業高等学校「日本の伝統文化学年行事」実施報告
149号PDFファイル(1.13MB)
 

消費者団体訴訟制度について

弁護士 島 幸明

第 1 はじめに

消費者団体訴訟制度とは、事業者の不当な行為によって消費者が被害を受けた場合に、直接の被害者ではない消費者団体が、一般の消費者に代わって、差止めや被害回復を裁判で請求するという制度です。

今回は、この「消費者団体訴訟制度」について、ご紹介したいと思います。

第 2 消費者団体訴訟制度成立の経緯等

1、経緯と目的

(1)いわゆる団体訴訟制度(クラス・アクション)については、以前から導入すべきという意見が出ていましたが、経済界からの反対論も強く、なかなか実現していませんでした。

(2)しかし、平成12年に消費者契約法が制定された頃から、消費者契約に関する団体訴訟の必要性が指摘されるようになりました。

多くの消費者が被害者になる消費者被害においては、1人1人の被害が少額で、個別に裁判することは難しいことが多いです。他方で、このような被害では事情が共通しているので、誰かが代表して裁判をすることができれば、被害の救済に役立ちます。そういう理由から、消費者契約の分野で、団体訴訟制度が検討されることになったのです。

衆参両院における附帯決議(平成12年4月)、司法制度改革推進計画(同14年3月閣議決定)等で検討の必要性が指摘されてきた。

(3)具体的には、平成19年6月施行の消費者契約法の改正で、まず差止請求の制度がスタートしました。

その後、平成21年9月に設置された消費者庁や、内閣府の消費者委員会で検討が続けられ、平成28年10月1日から、新たに被害回復の制度が始まりました。

2、根拠となる法律

差止請求については、消費者契約法の12条以下が、誰が差止請求をできるか、どのような手続で行うかなどを定めています。どのような事実があれば差止めができるか(差止請求の対象)については、①消費者契約法のほか、②景品表示法(30条1項)、③特定商取引法(58条の18から24まで)、④食品表示法(11条)で定められています。

被害回復については、平成28年10月1日に施行された「消費者裁判手続特例法」がその手続などを定めています。

第 3 消費者団体訴訟制度の概要

1 差止請求の制度

差止請求とは、事業者の不当な行為に対して、内閣総理大臣が認定した「適格消費者団体」が、不特定多数の消費者の利益を擁護するために、その行為の差止めを求めるという制度です。

(1)差止めの主体(適格消費者団体)

適格消費者団体とは、不特定多数の消費者の利益を守るために、内閣総理大臣によって認定された団体をいいます。差止請求権を適切に行使できる専門性を有していることや、NPO又は一般社団法人若しくは一般財団法人であることなど、様々な要件を満たすことが要求されており、現在16の団体が認定されています(平成29年6月27日現在)。

適格消費者団体は、消費者の皆さんのいわば代表として、事業者の行為に対し、差止請求を行うことになります。

(2)差止請求の流れ

差止請求の主な流れは、以下のとおりです。

差止請求の主な流れ

(3)差止請求の対象

差止請求の対象は、前記の4つの法律に違反する、不当な勧誘、不当な契約条項、不当な表示に分けられます。

1 不当な勧誘

(1)
不実告知
重要事項について,事実と違うことを言うこと

*契約の目的となるものについてだけでなく,生命・身体・財産その他重要な利益についての損害又は危険を回避する必要性に関する事項について不実告知があった場合

(

)

例:点検業者が,「床下が湿っていて,換気扇を設置しないと家が危ない。」などと虚偽の事実を告げる行為

(2)
断定的判断の提供
(3)
不利益事実の不告知
(4)
不退去,退去妨害
(5)
過量販売

2 不当な契約条項

いかなる理由があっても一切損害賠償責任を負わない,中途解約の場合は支払代金は一切返金しない,いかなる理由があっても契約後の取消はできないなどとするもの

3 不当な表示

科学的根拠がないのに「痩せる!」と表示したり(優良誤認),ずっと同じ値段なのに「今だけ半額キャンペーン!」と表示したり(有利誤認)するもの

(4)差止請求の効果

例えば学習塾等の契約書に、「事情にかかわらず、一旦納入された学費は返却致しません」という条項があったとしましょう。消費者団体の差止請求により、差止を認める判決(又は和解)がなされれば、上記条項が記載された契約書を使用して契約をすることはできなくなり、新たな被害を防止することができます。

平成25年7月5日時点で、差止請求が行われた件数は111件(113事業者)あり、対象となった根拠法令は、下記のグラフのとおりとなっています。

差止請求の根拠法令

差止請求の根拠法令

消費者庁HP「適格消費者団体による差止請求成果事例の全体像」より引用

2 被害回復の制度

新たに出来た被害回復の制度とは、適格消費者団体の中から内閣総理大臣が新たに認定した「特定適格消費者団体」が、同じ原因で被害にあった多くの消費者に代わって、被害の集団的な回復、つまり被害金を取り戻すことを求めることができる制度です。

(1)被害回復の主体(特定適格消費者団体)

特定適格消費者団体とは、適格消費者団体になるための要件に加え、被害回復を適切に行える団体としての要件を満たしたものとして、内閣総理大臣によって認定された団体をいいます。現在は、「特定非営利活動法人消費者機構日本」(http://www.coj.gr.jp/)と「特定非営利活動法人消費者支援機構関西」(http://www.kc-s.or.jp/)の2団体が、特定適格消費者団体として認定を受けています(平成29年6月27日現在)。

(2)被害回復の流れ

被害回復の主な流れは、以下のとおりです。

大まかな手続としては、第1段階の「共通義務確認訴訟」の手続と、第2段階の「被害回復裁判手続」(簡易確定手続及び異議後の訴訟の手続の総称)があります。第1段階の手続では、個々の権利とは無関係に、各消費者に共通する概括的な法律関係について、事業者が消費者に金銭を支払う義務があることを確認します。第1段階で、消費者団体が敗訴した場合は、被害回復の手続はここで終了します。

第1段階で消費者団体が勝訴した場合、第2段階で個々の消費者の権利の有無が審理の対象となります。

被害回復の主な流れ

この手続の特徴は、原則として第1段階の当事者であった消費者団体が、個々の消費者から依頼を受けて、第2段階の手続を行うという点です。具体的には、第1段階の原告であった消費者団体によって簡易確定手続開始の申立が行われ、さらに通知・公告等の情報提供の措置が取られた後、個別の消費者による消費者団体に対する授権がなされ、消費者団体による債権届出が行われます。

つまり、被害にあった各々の消費者に対して、事業者がいくら支払うかを確定して、支払がなされることになります。

(3)被害回復の対象

被害回復の対象は、平成28年10月1日以降に締結された契約、同日以降に生じた不法行為による債権であり、同じ原因で数十人以上の被害が生じた、以下の「事業者が消費者に対して負う金銭の支払義務であって、消費者契約に関する請求」である必要があります。

  • ① 契約上の債務の履行請求
  • ② 不当利得に係る請求
  • ③ 契約上の債務不履行による損害賠償請求
  • ④ 瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求
  • ⑤ 不法行為に基づく損害賠償請求
拡大損害、逸失利益、人身損害、慰謝料については対象外となります。

(4)被害回復の効果

特定適格消費者団体が第1段階の手続によって裁判で勝てるかどうかの見通しをはっきりさせてくれますので、消費者が個々に裁判を起こす場合よりも費用・時間・労力が大幅に軽減されることになります。

第 4 さいごに 〜消費者の役割〜

消費者団体訴訟制度のうち、特に被害回復手続は新しい制度ですので、今後の運用がどうなるかが注目されます。皆さんの代表になる適格消費者団体ないし特定適格消費者団体は、1人1人の消費者によって支えられている団体です。皆さんも会員になれる可能性がありますし、情報提供などでもお力を結集して頂ければと思います。