わたしは消費者 教員向け消費者教育情報提供誌・Web版
 

情報コントロールのルール

〜著作権等の権利に関するルールを具体的事例で考えよう〜

弁護士・弁理士 野田幸裕

1.はじめに

現代社会はIT技術とインターネットの発展により高度なデジタル化社会・ネットワーク化社会が到来しております。我々はスマートフォンやパソコンなど多様な携帯端末機を通じてデジタル化された各種情報を情報の受け手として受け取るだけでなく、全世界に向けて情報の送り手として簡単・迅速・大量・安価に情報発信することができます。そしてデジタルデータは半永久的に存続し一旦発信されたデジタルデータの回収は事実上不可能です。著作物の受発信という視点からすると自作のWebサイトやブログ等に他人の著作物を複製加工して利用するなど知らず知らずのうちに他人の著作権を侵害する可能性が広がるとともに自らが発信した著作物が無断で他人に複製され公衆送信されるなど権利侵害を受ける可能性も広がっております。他人の肖像権やプライバシーにかかわる情報についても同様の問題があります。このようにデジタル化社会の環境下においては著作権や他人の権利に関する法律の知識を学ぶ必要性はとみに高まっているといえます。

この度、私は、東京都消費生活総合センター作成の平成28年度消費者教育DVD「その情報、誰のもの?〜情報社会と権利侵害〜」の法律監修をする機会に恵まれましたので、DVDで取り扱っている項目については収録されている解説書を御参照いただき、ここでは身近な事例をもとに著作権等について解説します。

2.事例と解説

次の7つの事例について考えてみましょう。【事例1】から【事例6】の行為をした場合、著作権法に違反する行為になるでしょうか。また【事例7】の行為にはどのような問題点があるでしょうか。

事例1

生徒Aはスマートフォンの壁紙にするため、自分の好きなアイドルBの写真をインターネット上で見つけてダウンロードした。

解説

複製としての写真データのダウンロード

【事例1】で生徒Aがダウンロードした写真はいずれかの人がアイドルBを撮影して制作された作品です。ファンがアイドルB本人や所属事務所の許可なく勝手に撮った写真であれ、アイドルB所属の芸能プロダクションと契約したプロのカメラマンが撮影した写真であれ、写真はシャッターチャンスをとらえ撮影のアングルや光の当たり具合などをはかり、被写体の特徴を生かした表情を表現するため同じ被写体でも撮影者の表現はさまざまです。つまり写真は写真家が被写体を写真撮影という有形的方法で創作的に表現する作品です。著作権法では、写真は著作物(著作権法(以下単に「法」という)2条1項1号)であり撮影者である写真家はその著作者(同項2号)になります。そして著作者は原則的には著作権者となります(法17条1項)。そしてインターネット上にあったアイドルBの写真データを生徒Aがスマートフォンにダウンロードするという行為はアイドルBの写真のデジタルデータをスマートフォンという端末機器に有形的に再製(法2条1項15号)することを意味するので写真家の複製権が及びます(法21条)。そのため生徒Aがこの写真を適法にダウンロードするにはその写真家の承諾が必要になるのが原則です。

私的使用のための複製(法30条1項)

しかし著作権法では著作権者の著作権の保護を図るとともに著作物の適切な利用との調整を図っております。その調整の一例として「私的使用のためにする複製」に該当するときは著作権者から承諾を得なくても複製することができるとされており、その要件は「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」において著作物を使用する目的での複製であることです(法30条)。

私的使用のためにする複製において著作権者の許諾が不要とされる趣旨は、個人や家庭など人的関係が密接な小規模かつ閉鎖的範囲では権利者に与える影響も軽微ですし、このような範囲内での複製を違法としても取締りの実効性もないためです。そのため法30条の「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」には、会社等の勤務先や町内会など家庭外の範囲での使用は含まれません。しかし【事例1】はまさに生徒A個人が自分のスマートフォンの壁紙に利用する個人的範囲内での複製であり典型的な私的使用のための複製に該当するので著作権の侵害は認められません。

事例2

生徒Aは、アイドルBのファンの人達に紹介するため、事例1でダウンロードした写真データを自分のブログにアップロードした。

解説

複製物の目的外使用等(法49条1項1号)

【事例1】で適法とされた写真データの複製であっても【事例2】のように複製したアイドルBの写真データを生徒Aのブログにアップロードすれば写真データを公衆に提示したことになり私的使用の範囲を逸脱する行為とみなされます。インターネットを利用して公衆に閲覧させるためブログにアップロードするというのはもはや小規模かつ閉鎖的な私的使用の範囲を超える利用にほかならないので(法49条1項1号)、アイドルBの写真データをアップロードした時点で写真家の複製権を侵害することになるわけです。

事例3

事例1においてその写真が「本日発売の写真集からアップ」と記載されていた場合、生徒Aがその写真データを自分のスマートフォンにダウンロードした。

解説

私的使用の複製の例外(法30条1項)

インターネット上にはさまざまな著作物のデジタルデータが存在しています。著作物をインターネット上にアップロードするにはそのデータを複製し公衆送信するため写真の著作権者である写真家から複製権や公衆送信権(法23条1項)について承諾を得る必要があります。従ってインターネット上にある著作物が著作権を侵害するものであることを知った上でダウンロードして録音・録画して複製する行為は、私的使用のための複製の範囲を逸脱するものとして複製権の侵害となります(法30条1項3号)。

すると【事例3】の場合、「本日発売の写真集」は有料で販売されている商品であるのに写真家が無償で誰でも自由にダウンロードさせるということは通常ありえないことです。そのためインターネット上にアップロードされていたアイドルBの写真は、その著作権者である写真家から承諾を得ないまま勝手に公衆送信されたものであるという判断がつきます。また「本日発売の写真集からアップ」という説明文が添えてあったことからも生徒Aがダウンロードした写真はいわゆる海賊版(不正商品)であることを生徒Aは認識していたと強く推認されることになります。従って【事例3】の生徒Aの行為は私的使用のための複製には該当せず複製権の侵害行為に当たると考えてよいでしょう。原則として、著作権等の侵害行為は10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金(法119条1項)、著作者人格権等の侵害行為は5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金(同条2項)の対象となります。また生徒Aの行為のような著作権を侵害する海賊版と知りながらこれをダウンロードするなどの録音又は録画行為は、それがたとえ私的使用のための目的であったとしても2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金(同条3項)の対象となる行為となります。このように著作権侵害行為は刑罰の対象にもなり得る行為なのでくれぐれも法令遵守をお心がけください。

事例4

生徒Aは、事例2のアップロードの前に、アイドルBの写真の一部を切り取り(トリミング)、自撮りした自分の写真と向かい合わせにして恋人的雰囲気の写真に加工(コラージュ)して、自分のブログにアップロードした。

解説

著作者人格権(法20条ほか)

このような生徒Aの行為は翻案権(法27条)という著作権の侵害行為であるとともに写真家の同一性保持権という著作者人格権の侵害行為に該当します(法20条)。複製権は元となる著作物に依拠して、それと実質的に同一の範囲、つまり元となる著作物を覚知できる程度の類似性があるものを有形的に再製することをいいます。この複製の範囲を超えて、元となる著作物に依拠してその表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ具体的表現に修正、増減、変更等を加え新たに思想又は感情を創作的に表現することにより元となる著作物の表現の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為は翻案とされ著作権者の翻案権が働きます。

【事例4】で生徒AがアイドルBの写真をトリミングした上で生徒Aの写真とコラージュしても写真家の元となるアイドルBの写真の特徴の同一性は維持されていますが修正加工し恋人のように向かい合わせの写真にするという創作性を加味しているため翻案権が働きます。この場合、生徒Aが私的使用の範囲で翻案したコラージュ写真を携帯の壁紙等に使っていただけなら翻案権は私的使用のための翻案として許されるのですが(法43条1号)、これをブログにアップロードして公衆に提示すれば翻案権を侵害することになります(法49条2項1号)。

次に著作者には人格権に基づく権利として公表権(法18条)、氏名表示権(法19条)、同一性保持権(法20条)などの著作者人格権が認められています。複製権などの著作権は経済的権利であり他人に譲渡したり相続の対象になる権利ですが、著作者人格権は著作者の人格に由来する権利なので譲渡や相続の対象にはならない一身専属的権利です(法59条)。また著作者人格権には私的使用のための複製など著作権を制限する規定は適用されません(法50条)。【事例4】の写真のトリミングは、やむを得ない事情もないのに(法20条2項4号)写真家の承諾を得ずに元の写真の一部を切除しており生徒Aの行為は写真家の同一性保持権を侵害する行為と言えます。

事例5

生徒Aは、夏休みのレポート作成の課題について、インターネット上で見つけた複数の文章を適宜、組み合わせて自分が作成した文章であるようにして提出した。

解説

引用(法32条)

他人の文章という著作物を適法に引用して利用するにはルールがあります(法32条)。法32条の条文の文言と引用に関する最高裁判所の判決(昭和55年3月28日判決)を総合すると適正引用の要件は次の5つを満たす必要があります。

1
公表された著作物を対象として、
2
自らの著作物の中に引用する文書を「 」書きで区別するなど明瞭に採録し、
3
採録した著作物の出所を明示するなど適正な慣行に従い、
4
採録の量を主な要素として従たる範囲内で、
5
採録する必然性など正当な目的の範囲内でなされること。

すると【事例5】では引用された元の文章が「」書きなどされておらず生徒Aの文章との区別が不明で(上記A)、引用した元の文書の著者名・著書名など出典が示されておらず(上記B)、ほとんどが引用された文章のみであり生徒Aが作成した文書が主・引用した文書が従という主従関係性がないなど(上記C)適正引用の要件は満たされておらず生徒Aの行為は元の文書の複製権を侵害しています。

事例6

学力アップのため授業時間の一部を利用して生徒同士で問題を出しあうことにしたが、教員個人が購入した問題集から問題を生徒数分コピーして生徒全員に配った。

解説

学校等における複製等(法35条)

学校教育の実体と必要性に鑑み、著作権法は学校など非営利の教育機関において、教育を担任する先生や授業を受ける生徒が授業で使用する目的ならば公表された著作物の複製が許されています。その複製は、著作物の種類・用途・複製の部数・態様から著作権者の利益を不当に害しない範囲に限定されています(法35条)。

【事例6】では、市販の問題集から生徒数分がコピーされていますが、このような複製が許されればその分だけ問題集の出版権を持つ出版社はその販売数が減少するおそれがあり出版社の出版権を侵害することになります(法79条1項・86条1項)。従って、本例での複製は認められません。

事例7

生徒Aは、自分と友人Cが映っている写真を「私の親友で同じクラスの〇〇中学3年の〇〇さん(左側の可愛い女子)です。」という紹介文と一緒にSNSを利用して発信した。

解説

プライバシーの権利等の保護

【事例7】のような情報がSNSで発信されると友人Cはその名前・肖像・学年(年齢)・学校など公表していない個人情報が勝手に公衆に公開され情報の回収が不可能になります。このような情報が公開されると他人に付きまとわれたり自己の顔が勝手にインターネット上に拡散され使用されるリスクを負うことになります。裁判例(東京地方裁判所昭和39年9月28日判決)によれば、私生活上の事実に関するものであり、一般人の感受性を基準として友人Cの立場に立った場合、公開されることを希望しないであろうと認められ、かつ一般の人々に未だ知られていない事柄はプライバシーの対象となる情報といえます。本例の情報もプライバシーの対象となる情報に該当します。自らの肖像をみだりに撮影されない自由権としての肖像権もその1つです。

プライバシーの権利は憲法の個別条項としては明記されていませんが人格価値に関する権利であり少なくとも私生活をみだりに公開されない権利という内実を有する新しい人権として幸福追求権(憲法13条)により保障されるものです。そのため他人が勝手にその権利を侵害するときは不法行為(民法709条)となりえます。また具体的事実を摘示して他人を誹謗中傷する事実を発信して他人の名誉権を侵害することも不法行為となりえます。

将来の自分の権利の保護

また【事例7】では生徒Aも自分のプライバシーを公開していますが自分の情報だから問題はないと考えるのは危険です。未成年者の場合、成長段階の過程にあるため不適切な判断により軽率な行動をとる可能性があり、その結果、長期的に見れば将来の自分にとって不利益な結果を招来するリスクを負うことがあります。法律や情報化社会のルールは、他人のみならず自らの権利を守るツールであるということを理解する必要があります。