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民法(一般法)と消費者契約法・特定商取引法(特別法)の関係
民法(一般法)と消費者契約法・特定商取引法(特別法)の関係
〜平成28年改正 消費者契約法・特定商取引法のポイント〜
平成27年度 小学生・中学生・高校生の消費生活相談概要
平成28年度 若者向け悪質商法被害防止キャンペーン実施のお知らせ
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民法(一般法)と消費者契約法・特定商取引法(特別法)の関係

〜平成28年改正 消費者契約法・特定商取引法のポイント〜

弁護士 島 幸明

第 1 はじめに

平成28年6月3日、消費者契約法と特定商取引法を一部改正する法律が公布されました(施行日は、消費者契約法は平成29年6月3日、特定商取引法は公布日から起算して1年6月を超えない範囲内で定められます。)。今回の消費者契約法・特定商取引法の改正は、後で述べるように消費者の権利を拡充する大事な内容を含んでいます。

他方で、以前から議論されている民法の改正案は、審議未了や提出見送りとなるなどして、未だ成立していません。

ところで、そもそも民法と消費者契約法・特定商取引法の関係は、どのようなものなのでしょうか。なぜ、民法という法律があるのに、消費者契約法等の法律が別に存在し、さらに何度も改正が繰り返されているのでしょうか。

今回は、これらの法律の関係について説明するとともに、平成28年の消費者契約法と特定商取引法の改正のポイントについて触れていきたいと思います。

第 2 一般法と特別法

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一般法・特別法とは?

法律には、地域・人・事項に関係なく広く適用される、基本的なルールを定めた「一般法」と、特定の地域・人・事項にのみ適用される「特別法」があります。

民法は、私人間(しじんかん)の法律関係を定める一般法であり、消費者契約法や特定商取引法は、そのうち事業者(企業など)と消費者との間の関係を定める、特別法という関係に立ちます。

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特別法が存在する意味は?

では、そもそもなぜ、特別法というものが存在するのでしょうか。

社会生活や市場メカニズムが進んでくると、社会にそれまで存在しなかった新しい現象が起こって来て、従来の法秩序の考え方では解決できない問題が生じてくることがしばしばあります。

これらの問題については、法解釈で対応できる場合は対応しますが、解釈の範囲を超える場合には、立法による解決をするほかありません。

しかし、ある分野における基本的な法律を頻繁に改正することは、法的安定性という意味で必ずしも好ましいことではありませんし、容易でもありません。そこで、これらの問題を解決するため、特定の分野について特別法を制定し、適切な解決を図ることが必要となるのです。

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一般法と特別法の区別
一般法・特別法のイメージ図

一般法・特別法のイメージ図

では次に、どのような法律が一般法となり、どのような法律が特別法になるのでしょうか。これは、一言で回答することはできません。実は、ある法律が一般法になるか、特別法になるかは、その法律や条文の関係で、相対的に決められるものだからです。

このうち民法は、あらゆる私人間の契約関係に適用される一般法です。したがって、消費者契約法や特定商取引法のほか、商法や借地借家法、他にも労働基準法や金融商品取引法など、多くの法律が、民法の特別法としての関係に立ちます。

しかし、「商法は特別法である」というのは、正確ではありません。商法は、例えば運送営業について定めていますが、これらの規定は商法の特別法である国際海上物品運送法との関係では、一般法になるのです。

このように、ある法律が、どの法律との関係で特別法になるかは、条文を見て分かる場合もありますが、条文を見るだけで分からない場合は、法律の趣旨等から考えることになります。

第 3 民法等が前提とする契約当事者像と消費者契約法・特定商取引法の制定過程

消費者契約法は平成12年に、特定商取引法は、当初「訪問販売法」という名前でしたが、消費者契約法より前の昭和51年に制定されました。

次に、これらの法律が制定された理由について、少し詳しく説明していきましょう。

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民法が前提とする契約当事者像
民法が前提とする契約当事者像

民法が前提とする契約当事者像

民法は、人間を対等な存在と捉え、各人が自由意思に基づいて自律的に法律関係を構築することによって、よりよい社会が成立するという思想に立っています。

そこで想定されている人間は、理性的・意思的で、合理的な判断能力を持つ、具体的な属性を捨象した均一、抽象的な法的人格です。

要するに、民法が前提とする契約は、対等な当事者による、対等な関係であるということができます。

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消費者契約法・特定商取引法等が前提とする契約当事者像
消費者契約法・特定商取引法が前提とする契約当事者像

消費者契約法・特定商取引法が前提とする契約当事者像

しかし、前述したように、社会メカニズムの進展に伴い、法人を含む人々の間の社会的・経済的格差が顕著になりました。

特に近時の事業者側の状況としては、商品の大量化や企業の大規模化に加え、商品・サービス・販売方法の複雑化などが進んでいます。それに伴い消費者としては、そもそも交渉の余地が乏しい、情報の取得・選択が困難、危険・劣悪・不要な商品を購入する危険性が高くなるなどの状況に置かれています。

消費者契約法や特定商取引法では、このような事業者・消費者という、情報の量や質、経済力、交渉力等に格差がある具体的人格を想定して、両当事者の関係をできる限り公正なものとし、実質的公平を図ろうとしているのです。

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法律の制定過程

(1)特定商取引法(旧訪問販売法)

昭和40年代頃から、@ 訪問販売、A 通信販売、B 連鎖販売(いわゆるマルチ商法)などによる深刻な消費者被害が生じていました。特定商取引法の前身である旧訪問販売法は、これらの取引類型についてルールを定めて被害を防止するために制定されました。

その後、取引類型にC 電話勧誘販売、D 特定継続的役務提供(エステティック、語学教室、学習塾等)、E 業務提供誘引販売取引(販売した商品を利用した業務で利益が得られるなどと勧誘する取引)、F 訪問購入(いわゆる押し買い)を増やし、その間に法律の名前を特定商取引法に変え、行政ルールやクーリングオフなどの民事ルールについて定めてきました。

(2)消費者契約法

しかし、平成に入って以降も消費者トラブルは減少の傾向を見せず、悪質な事業者による、個別の法律の隙間を狙った脱法的な悪質商法の被害が生じていました。

そこで、事業者と消費者との契約関係のルールについて広く定めることで個別法を補完し、広範な分野のトラブルについて公正・円滑な解決を図るため、消費者契約法が制定されたのです。

第 4 民法(一般法)と消費者契約法・特定商取引法(特別法)等の適用関係

一般法と特別法では、「特別法が一般法に優先する」という原則があります。したがって、2つの法律の規定が矛盾する内容となっているような場合は、特別法の規定が優先する、ということになります。

以下、例えばある契約で、「甲は乙に対し、本契約によって生じた一切の賠償責任を負わない」という条項があった場合を想定して、具体例を見て行きましょう。

@ 民法の規定

民法416条は、ある者が債務不履行によって損害を与えた場合には、これによって通常生じる損害を賠償しなければならないと定めています。

ただし民法420条は、当事者は債務不履行について損害賠償額の予定をすることができ、裁判所もその額を変えることはできないとしています。

要するに民法上は、一切損害賠償責任を負わないとする合意も、原則として有効ということになります。

A 消費者契約法

他方で、消費者契約法8条1項は、事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の、@ 全部を免除する条項や、A 重大な過失により生じた損害の一部を免除する条項などを、無効とすると定めています。

消費者契約法は民法の特別法ですから、この契約が事業者と消費者との間の契約である限り、消費者契約法の規定が優先し、先に挙げたような契約の条項は無効となります。

B 宅地建物取引業法

さらに、甲がいわゆる宅建業者で、この契約が宅地に関する契約だった場合はどうでしょうか。

消費者契約法は、11条2項で、「消費者契約の条項の効力について民法及び商法以外の他の法律に別段の定めがあるときは、その定めるところによる」としています。

この点、宅地建物取引業法38条は、宅建業者と顧客との間の宅地又は建物の売買契約において、当事者の債務不履行を理由とする契約の解除に伴う損害賠償額を定めるときは、代金の20%を超えることはできず、これを超える部分は無効とするとしていますので、この規定は消費者契約法に優先して適用されることになります(その意味で、宅地建物取引業法の当該規定は、消費者契約法の特別法に当たるといえます)。

以上のとおり、一般法である民法と特別法である消費者契約法等の適用関係については、特別法による細かいルールが優先するということになるのです。

第 5 平成28年の消費者契約法・特定商取引法の改正ポイント

前で述べたとおり、民法の特別法である消費者契約法・特定商取引法は、社会事情の変化に併せて何度も改正を繰り返しています。最後に平成28年になされた消費者契約法・特定商取引法の改正のポイントについて、説明したいと思います。

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消費者契約法の改正ポイント

平成28年の消費者契約法の改正ポイントは、@ 契約の取消しに関する規定の整備(取消し対象の拡大、新たな取消権の規定)と、A 不当条項に関する規制の整備(無効とする類型の追加)です。

特筆すべきは、消費者契約法4条4項に、いわゆる過量契約の取消しに関する一般条項を置くことにより、契約の目的となるものの分量等が当該消費者にとって通常の分量等を著しく超える場合等において、事業者がこれを知っていた時には当該契約を取り消すことができるという規定を置いたことです。類似の規定は特定商取引法にもありましたが、消費者契約法は取引類型に限らず適用になるため、例えば店舗販売でも、一人暮らしのお年寄りに10組の布団を購入させるような行為は、これにより取り消すことができるようになります。

今回の消費者契約法改正のポイントを、消費者庁のホームページ「消費者契約法の一部を改正する法律(平成28年法律第61号)概要」を参考にまとめてみました。今回の改正が、どういう課題を解決するための改正か、ポイントをつかんでいただければと思います。

【消費者契約法の改正ポイント】

参考:消費者庁ホームページ

1.契約の取消しに関する規定の整備

課題   改正内容
高齢者の判断能力の低下等に付け込み
大量に商品を購入させる被害事案
過量な内容の契約の取消し(新たな取消事由の追加)
契約の目的物に関しない事項についての不実告知による被害事案(例:床下にシロアリがいて、家が崩壊しますなどと虚偽の事実を述べて勧誘する事案) 重要事項の範囲の拡大
取消権の行使期間を経過した被害事案 行使期間の伸長(6ヶ月→1年に伸長)

2.不当条項に対する規定の整備

現行規定 消費者契約法10条 @ 民法、商法等の任意規定の適用による場合と比べ、消費者の権利を制限する条項であって、A 信義則に反して消費者の利益を害する条項は無効とする。
課題   改正内容
消費者の解除権を一切、認めない条項の存在(携帯電話端末の売買契約:「ご契約後のキャンセル・返品、返金、交換は一切できません」との条項) 事業者の債務不履行等の場合でも、消費者の解除権を放棄させる条項は無効(新たな取消事由の追加)
法10条の@の「任意規定」については、明文の規定に限られず一般的な法理等も含むとする最判H23.7.1の存在(例:ウォーターサーバーの契約において「無料お試し期間中に所定の手続が行われなかった場合は、本サービスを継続利用する意思があるとみなし、有料サービスに移行します」などの条項)

法10条に例示を追加

*消費者の不作為を以て意思表示をしたものとみなす条項
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特定商取引法改正のポイント

平成28年の特定商取引法の改正は多岐に亘りますが、大きく分けると、@ 規制対象の拡大・整備等と、A 悪質事業者への対応強化に整理することができます。

細かく改正内容を見ていくと、法律家にとっては重要な「指定権利制の見直し」があげられます。従前、特定商取引法では、商品・役務・権利を区別し、このうち権利の販売については、訪問販売、通信販売および電話勧誘販売において「指定権利制」の下、@ 保養施設やスポーツ施設の利用権、A 映画・音楽・絵画等を鑑賞する権利、B 語学の教授を受ける権利を対象としていました。しかし、株式や社債等を販売する被害が後を絶たないことなどから、これらの権利の販売も同法の規制対象に加え、これまでの「指定権利」の名称を新たに「特定権利」に変更しました。

他の改正内容としては、消費者契約法と同じ取消権の行使期間の伸長、電話勧誘販売における過量販売規制の導入(消費者契約法よりも細かい要件を定めています)などがありますが、要するに、消費者保護・悪質事業者への規制強化の方向で改正がなされているということができます。

第 6 まとめ

以上、民法と消費者契約法・特定商取引法の関係から、平成28年の法改正のポイントまでを整理してきました。教員や生徒の皆様においては、細かい法改正の内容までご理解頂く必要はないかと思いますが、法律というものがなぜ複数存在し、そのうち、特定の法律だけがなぜ繰り返し改正されているのかのイメージを持って頂けたら幸いです。

私人間の法律関係に関する基本的なルールを定める民法の改正はあらゆる分野に影響を及ぼすため、簡単になされるものではありませんが、特別法の改正を適宜行うことで、社会の変化に対応してきているのです。

【特定商取引法の改正ポイント】

1.規制対象の拡大・整備等

(1)
指定権利制度の見直し
(特定権利制度の導入:社債その他の金銭債権、株式・合同会社の社員権等の販売を特定商取引法の規制対象とした)
(2)
通信販売におけるファクシミリ広告への規制の導入(電子メール広告における規制の拡充)
(3)
電話勧誘販売における過量販売規制の導入
(4)
取消権の行使期間の伸長(6ヶ月→1年)

2.悪質事業者への対応強化

(1)
業務停止命令制度の強化(最長1年→2年)
(2)
業務禁止命令制度の創設
(業務停止命令を受けた法人の取締役等に対して、新たに法人を設立して業務を継続することを禁止)
(3)
行政調査に関する権限の強化(「質問」に関する権限の追加等)
(4)
指示制度の整備(処分業者に対して、必要な措置を指示できることを明示)
(5)
送達制度の整備(所在不明業者に対して公示送達による処分)
公示送達は、送達すべき書類をいつでも交付すべき旨を、主務大臣の事務所(消費者庁)の掲示場に掲示する方法で行います。