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教員とともに考える消費者教育
東京都公民科・社会科教育研究会と東京都消費生活総合センターとの連携
平成28年度 すぐに役立つ「教員のための消費者教育講座」実施報告
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東京都公民科・社会科教育研究会と東京都消費生活総合センターとの連携

東京都消費生活総合センター活動推進課

東京都消費生活総合センターでは、消費者教育推進のため、消費者教育に関する各種教材作成や相談概要などセンターならではの情報提供を実施しているほか、さまざまな機会をとらえて教員の方々との連携強化を図っています。

今回は、東京都公民科・社会科教育研究会と連携をして、平成27年度に当センターが作成したDVD「リーガル☆レッスン♪〜民法と契約の基礎を学ぶ〜」(以下「DVD」という)を使用する公民科の授業方法を検討していただきました。

また、DVD作成の監修者でいらっしゃる弁護士洞澤美佳氏に御協力をあおぎ、教員の方々にこの教材を使用する授業を行ううえで必要な民法や契約の基礎知識について解説をお願いしました。

以下、センターにおけるDVDの制作意図について解説したのち、研究会の概要を御紹介します。

1.センターにおけるDVDの制作意図

DVDの内容
第1章
「わたし、ケーヤクしちゃったの?」
(契約の成立、契約と約束の違い)
第2章
「Tシャツに想いをこめて」
(契約の成立と契約の拘束力、法定解除)
第3章
「お兄ちゃんの引っ越し」
(契約書と約款)
第4章
「元気でいてね、おばあちゃん」
(民法と消費者契約法及び特定商取引法)

DVDの概要は、「東京くらしWEB」で紹介しています。
http://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.jp/manabitai/kyouzai/main/039.html

架空請求や不当請求の対処方法や、クーリング・オフ制度といった救済制度を学習しても、契約の成立や契約の意義について理解を深めることは容易ではありません。日常生活で何気なく行っている契約ですが、いざトラブルが起きたときに初めて契約の意義や契約の拘束力を意識するものです。

そこで、DVDでは契約を結ぶことの法的な意味と責任、また不完全な契約に対する契約当事者間における責任分配の在り方など、法律の考え方やバランス感覚を、主人公(高校生)とともに学校生活や日常生活での契約のエピソードに沿って体感し学ぶことを目的に作成しています。民法や契約の基本的な考え方を学習することで、不当な契約に対して何か違和感を持つことができれば、身を守るための第一歩になると考えています。

2.東京都公民科・社会科教育研究会8月研究例会の開催概要

日 時:
平成28年8月23日(火)
午後1時30分から5時まで
場 所:
東京都消費生活総合センター内
会議室(教室T・U)
内 容:
DVDを使用する授業案について考える
  • DVDを授業で使うために、押さえておきたい民法の知識
    講師:弁護士 洞澤美佳氏
  • DVDを使用した授業の報告
    東京都立大江戸高等学校 教諭 石川 周子 氏
  • 公民科における消費者教育について
    東京都立雪谷高等学校 教諭 小貫 篤 氏
  • 意見交換会

3.DVDを授業で使うために、押さえておきたい民法の知識
  弁護士 洞澤 美佳 氏

洞澤氏からは、DVDではお伝えしきれない法律の考え方や教員の方々が日頃から疑問に思われていること、たとえば、特定商取引法や消費者契約法と民法がどのような関係にあるのかなどをDVDと対照させながら解説をしていただきました。

まず、第1章では、架空請求の事例で問題提示している契約が成立しているか否かについてや、主人公の奈美がお店でリンゴを買うという売買契約を視聴してから、契約の意義や契約自由の原則について説明がありました。

次に、第2章の事例である、主人公奈美が依頼したデザインを間違って印刷してしまったTシャツ店との契約を視聴した後、契約成立に伴う法的拘束力の意味とその背景にある考え方を解説し、これを前提に法定解除に関して、解除ができる場合、できない場合に分けて解説していただきました。

第3章では、主人公奈美の兄が転勤により賃貸契約を解約する事例から、契約書と約款の役割と効力について解説していただきました。

そして第4章の電話勧誘販売の事例ではセールスマンとおばあちゃんのやりとりから、特別法(消費者契約法や特定商取引法など)の必要性について、次のように説明をしていただきました。事業者と消費者との間には商品知識や情報の質と量、判断力に格差があることを確認した上で、契約の一般法である民法は「均一で、確固とした意思と判断力を持った合理的な人間像(人間観)」を前提としているために、民法の考え方だけでは不具合が生じることから、消費者契約法、特定商取引法などの特別法が必要となるということです。

また、特定商取引法では違反行為であるのに、すぐに契約が解除できないのはなぜかという教員からの御質問について、特定商取引法は業法と民事ルールの両方を備えた法律であり、その業法とは、事業者を規制して、それに違反する事業者について行政が指導や処分ができることを規定している法律であること、また民事ルールとは、救済制度であり、代表的なクーリング・オフ制度は契約の拘束力から離脱する手段として強力な制度であること、またクーリング・オフ制度が使用できる取引類型は限定されていることも説明していただきました。

4.DVDを使用した授業例の報告

授 業 者:
東京都立大江戸高等学校
教諭 石川 周子 氏
実施科目:
現代社会
単  元:
ア現代社会の仕組みと特質 消費者
受 講 者:
高等学校3年生
使用教材:
DVD第1章、第3章
授業者作成のワークシート
  • 学校の特色

東京都立大江戸高等学校は、単位制、総合学科、三部制といった特色をもつチャレンジスクールです。チャレンジスクールとは、これまでに自分の能力を十分に発揮できなかった生徒たちのチャレンジを支援する学校です。大江戸高校でも約8割を超える生徒が不登校を経験し、コミュニケーションや学習に対して困難を抱えています。そのため学校では、生徒の特性に配慮しながら、誰でもいつでもわかるような授業展開の工夫を行っているとのことです。

  • 授業実践例
展開 生徒の学習活動 DVDと
ワークシート
@ 主人公奈美の携帯電話に、99,000円の請求 画面が表示されたところで、DVDを止める。 DVD
第1章を視聴
設問「支払う必要があるか」「支払う必要はないか」をグループで話し合い発表する。 授業者が用意した
ワークシート
DVDの続きを視聴
学習内容に関するキーポイントのテロップ表示が出たところで適宜DVDを止め、授業者が補足解説をしていく。
DVD
第1章を視聴
99,000円の請求について奈美が解答を出す直前でDVDを止め、支払う必要の有無と、その根拠となる理由についてグループで話し合い、発表する。
各自で考えた、支払う必要のない理由を記入する。
授業者が用意した
ワークシート
A 「急に引っ越しをすることになった主人公の兄洋輔が、2か月分の家賃を支払う必要があるのか否か」の場面でDVDを止める。 以下、第1章と同様に進行 DVD
第3章を視聴
B DVDに収録しているワークシートから抜粋して、3つの設問を用意する。設問の内容は、契約を取り消すことができる事例か否かの内容である。 DVDに収録している
ワークシート
からの抜粋
各問題とも、設問のトラブル事例内容で「おかしいな」と思う箇所に下線を引かせる。
契約取消しの可否について、その理由も踏まえて解答を出す。
その後、グループ内で話し合い、理由とともに解答を決める。
授業者による解説
授業者が用意した
ワークシート

今回の石川先生の実践授業では、展開① ②でDVDを視聴し、展開③ではDVDに収録されている消費者トラブルの問題を活用されていました。どの展開でも一貫して重要視されていたことは、「支払う必要の有無」や「契約の取消しの可否」についてだけでなく、その根拠となる理由までを考え、理解を深めさせることでした。実際にトラブルに巻き込まれてしまったとき、根拠となる理由まで理解していれば、解決の糸口を見つけやすくなるというのが狙いです。

授業者が用意したワークシートの一部

展開③では、DVDに収録されているワークシート(生徒用、指導者用解説)の問題のうち3問を取り上げて、生徒には契約を取り消すことができる事例か否かを、理由とともに考えさせます。ここでは、民法のほか、消費者契約法や特定商取引法といった特別法を用いて対応する事例を提示しています。

最初に、生徒には設問のトラブル事例内容で「おかしいな」と思う箇所に下線を引かせ、どこに問題が潜んでいるのか、結論を導くための確認事項を考えさせます。

指導者用解説では、事例について、法律と照合しながら、なぜ特別法が必要となるのか、対応策に至る考え方の経緯を説明していますので、これを参考にしながら、生徒の疑問に答えていきます。

授業中の生徒の様子

  • 生徒の様子

生徒たちは、DVDの視聴や授業者の説明を聞きながら、自主的にキーワード等を書き留め、ワークシートを作成していたり、また、設問への解答を出す前に、「なぜ」という理由を考え、グループディスカッションで自分の考えを述べたり、他の生徒の考えを聞くことで、問題点に気付き再確認したりすることができていたとのことです。

授業のまとめとして「賢い消費者とは」の問いかけに、生徒は「契約内容をよく理解してから契約する人」、「契約についての法律や決まり事を知っていて、自分の身を守れる人」などと書いていたとの報告がありました。

以下、生徒の授業の感想を紹介します。

  • トラブルに巻き込まれないのが一番だが、もしもそうなった場合には活用したい
  • 賢い消費者に少しでも近づけたと思う。
  • 友達にも教えられそう。

最後に、石川先生からは他者と協働して社会に参画し、公共的な空間を作る主体となる力を育む教科である公民科としては、生徒一人一人が社会の一員として積極的な消費生活をするために消費者教育を行っていくことが大切であると考えているとのことでした。