わたしは消費者 教員向け消費者教育情報提供誌・Web版
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高齢者見守りネットワークの構築 〜地域連携による被害防止〜

弁護士、第23次東京都消費生活対策審議会委員(会長代理) 池本 誠司

1.高齢者の消費者被害増大と被害防止対策

東京都生活文化局では、高齢者の消費者被害が近年増加の一途を辿っていることから、第23次東京都消費生活対策審議会において、「消費者被害から高齢者を見守る取組に係る都の役割と区市町村等との連携強化について(答申)」(平成27年12月)を取りまとめました。

消費生活部門と福祉部門との連携の強化により地域の高齢者見守りネットワークを構築し、消費者被害の防止に結び付けるという取り組みを推進するものです。

(1)
高齢者の相談件数の増大

東京都及び区市町村の消費生活センター等に寄せられた高齢者(契約当事者が60歳以上)の消費生活相談件数は、平成21年度以降、7年連続で3万件を超え、過去最多は平成26年度の39,286件でした。全相談件数に占める割合も、平成22年度が27.8%であったものが、平成26年度は30.4%となっています。

高齢者は昼間自宅に居て訪問販売や電話勧誘販売のターゲットになりやすいことのほか、判断能力が低下し、または勧誘を拒絶する気力が低下するため、不本意な契約でも勧誘を断り切れず契約に応じてしまいやすい傾向があります。さらに、東京では一人暮らしの高齢者が多いため、悪質業者に狙われやすいし、被害に遭った場合に相談できる人がいないという事情があります。

(2)
消費生活センターに寄せられる高齢者の相談事例

高齢者の被害事例としては、例えば、訪問販売業者にしつこく勧誘されて、浄水器や布団を購入したり、必要もないリフォーム工事の契約をする訪問販売被害が典型例です。

また、投資取引の勧誘をする劇場型詐欺商法も目立ちます。高齢者を狙う詐欺被害には、オレオレ詐欺や振り込め詐欺も多発しており、深刻な社会問題となっています。振り込め詐欺はむき出しの詐欺行為であるため、警察が被害届を受け付けていますが、投資取引や契約の形式をとる手口は契約の効力など法的な対処も必要であるため、消費者被害として消費生活センターが相談を受け付けています。

(3)
被害に遭った高齢者の行動

東京都生活文化局は、都内の老人クラブ連合会に所属する70歳以上の高齢者5,300人を対象に「高齢者の消費者被害に関する調査」を実施しました(平成26年3月)。

「架空請求」「点検商法」「次々販売」「利殖商法」「催眠(SF)商法」の5つの商法を挙げ、60歳を過ぎてから勧誘や被害に遭った経験があるかを聞いたところ、「被害に遭ったことがある」が5.7%、「被害はないが、請求・勧誘されたことがある」が実に31.6%に上りました。合計37%超の高齢者が悪質商法の勧誘・請求を受けた経験があるということは驚くべき多さです。

「被害に遭ったことがある」と回答した189名に対し、その後の行動を聞いたところ、「何もしなかった」が45.5%と最も多く、「家族や知人に相談した」が27%であるのに対し、「消費生活センター等に相談した」は9%にとどまっています。

悪質商法の被害後の行動

悪質商法の被害後の行動

東京都生活文化局「高齢者の消費者被害に関する調査」(平成26年3月)より

(注1)
「消費生活センター等」とは、東京都消費生活総合センター(東京都の相談窓口)または区市町村の消費生活センター(消費生活相談窓口を含む)を指す

「何もしなかった」と答えた人にその理由を質問したところ、「自分にも責任があると思ったから」と回答した人が62.8%と最も多くを占めました。

被害後に「何もしなかった」の理由

被害後に「何もしなかった」の理由

他方で、「被害はないが、請求・勧誘されたことがある」と答えた人に、なぜ被害に至らなかったかを質問したところ、「その商法の手口を知っていたから」という回答が66.3%と最も多くを占めました。

請求・勧誘を受けたが被害に至らなかった理由

請求・勧誘を受けたが被害に至らなかった理由

(4)
アンケート結果と今後の取り組み課題

以上のアンケート結果は、今後の対策を考えるうえで多くのヒントがあります。

第1に、「自分にも責任があると思った」から何もしないであきらめたという高齢者に対して、これが悪質商法の手口であり同じような手口で多数の被害が発生していることを知らせることができれば、自分を責めてあきらめるのではなく相談する行動につながる可能性があると思われます。

第2に、請求・勧誘されたが被害に至らなかった理由の多数が、「その商法の手口を知っていたから」と回答していることを見れば、悪質商法の手口を知らせることは被害の未然防止の効果があることが分かります。

第3に、「家族や知人に相談した」人が27%あるということは、高齢者に接する周囲の関係者に悪質商法の手口や消費生活センターの存在・役割を周知しておくことで、相談につながる可能性があると考えられます。

第4に、「ヘルパーなど福祉関係者に相談した」と答えた人は1.1%に過ぎないのは、現状は、福祉関係者に相談する問題ではないと考えているからにほかなりません。高齢者が見守り関係者に消費者被害のことを相談してくれるのを待つのではなく、高齢者と接する見守り関係者が悪質商法の手口や消費生活センターの役割を紹介するチラシを積極的に高齢者に配布するなど、消費者被害の問題も見守り関係者に話してみる価値があることを伝えることから始める必要があります。