わたしは消費者 教員向け消費者教育情報提供誌・Web版
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東京都の消費生活条例改正と消費者市民の役割

弁護士 洞澤美佳

1.東京都消費生活条例とは

(1)東京都消費生活条例の目的

「条例」は、日常生活ではあまりなじみのない法かもしれませんが、私たちの地域生活により密着した重要な規範です。

「東京都消費生活条例(以下「本条例」といいます)」は、都民が、健康で安全かつ豊かな生活を送るための基盤となる消費生活の安定と向上を図ることを目的として制定されている条例であり、数ある条例の中でも、私たち都民の生活に直結する規範であるといえます。

(2)本条例制定の必要性

経済社会の進展は私たちの消費生活に便利さをもたらしましたが、他方で消費者と事業者との間に情報力、交渉力等に構造的な格差を生み出して、消費者の安全や利益を損なうさまざまな問題を引き起こすようになりました。

社会に生起するさまざまな問題を解決していく上で、事業者との「構造的格差」という消費者が置かれている状況を無視することはできません。その格差を解消し、公正かつ適切に問題を解決するために、特定商取引法をはじめとする消費者法関連法令が多数あります。しかし、それだけでは地域の実情に応じた必要な解決を十分に図ることができません。すなわち、東京都特有の事情に配慮し、都民の消費生活に寄り添った施策を講ずるために本条例を制定する必要があるのです。

(3)本条例の概要

本条例は、このような必要性を踏まえ、消費者の権利を具体的に明示して、その確立に向けて実効性ある方策を講ずることを宣明すると共に、都と都民の不断の努力によってその確立を図ることが必要であることを宣言しています。

そのために事業者は事業活動に当たって、消費者の権利を尊重し、消費生活にかかる都の施策に協力する責務があること、他方で、消費者もまた自らの消費生活において主体的に行動し、その消費行動が市場に与える影響を自覚して、社会の一員としての役割を果たすことが求められていることなどが明示されています。

(4)本稿の目的

以上のとおり、本条例の重要な使命は、都民の健康で安全かつ豊かな生活を守るために消費者の権利を確立していくことです。そして、私たちの子孫が安心して暮らしていけるよう、本条例を私たちの世代限りで完結することなく、将来にわたって引き継いでいかなければなりません。そのためには、本条例をより良く実効的なものに育てていく必要があります。これまでも社会経済状況のあらゆる変化に応じたより良いものにするために、度々本条例の改正が行われてきました。その流れの中で、本条例のさらなる改正が行われ、平成27年3月31日に公布されました。

本稿では、今回の改正の内容及びそのポイントを踏まえ、私たち消費者が、公正で持続可能な社会の構築を目指して、消費者市民としてどう考え、どう動いていくべきなのか、ということを考えていきたいと思います。

2.本条例の改正点と改正の趣旨

(1)消費者が売主となる取引における事業者の不適正な取引行為への対応

本条例では、不適正な取引行為を取り締まっています。

事業者と消費者との間の「取引」と言えば、典型的には消費者が商品を購入したり、サービスの提供を受けることが頭に浮かびます。

しかし、今日の取引社会では、購入した商品について消費者が売主となって事業者に買い取ってもらうことも一般的になりました。

この点につき本条例では、改正前から、条文上「取引」という文言が用いられていました。したがって、消費者が売主となるような場合も規制対象に含まれると考えられていました。

しかし、消費者の権利保護の観点からよりその趣旨を明確化するため、今回の改正で、中古品の取引のように消費者が売主となる場合も、買主である事業者が不適正な取引行為を行った場合(たとえば、消費者に偽りを告げて不当に安く中古品を買い取る場合など)には、これを規制対象とすることが明示されました。

(2)消費者被害の拡大防止に向け、悪質事業者の取り締まりを強化

東京都内における消費生活相談の件数は、高止まりの傾向を示しており、残念ながら減少の兆しが認められない状況です。とりわけ、60歳以上の方の相談件数が増加の傾向にある点、29歳以下の方の相談件数の高止まりが目立っている状況です。

また、被害の内容も、悪質化、巧妙化した手口が目立つようになってきました。

これまでも、東京都では不適正な取引行為を行う事業者に対して、法や本条例に基づく指導・処分を行う一方で、予防的観点から消費者に対する幅広い教育・啓発活動を行ってきました。しかし、深刻化する被害に対応していくためには、より一層対応を強化する必要性が生じたと言えます。

そこで、この点を補強すべく、以下の点が改正されました。

不適正な取引行為を行う事業者を厳しく取り締まるため、禁止命令の対象となる取引を新たに追加。
不適正な取引行為の実態を解明するため、都の立入調査の権限を強化。

(3)消費者教育のさらなる推進

本条例では、消費者教育を受ける権利の確立を掲げ、消費者教育の推進を図るべく都が消費者に対する教育に係る施策の推進、学習条件の整備を行うことについて規定が設けられています。

しかしながら、消費者被害の未然防止や被害拡大の防止に止まらず、消費者が主体的に持続可能な社会の形成に参画する必要性が改めて自覚されている昨今、消費者が消費生活を送る上で必要な知識や判断力を身につけ、主体的に行動できるよう消費者教育をより一層推進する必要性が生じました。

そこで、「消費者教育の推進に関する法律」(「消費者教育推進法」)が、平成24年8月10日に成立、同年12月13日施行されたことも受け、上記のような現状認識と課題に対応し、消費者教育のさらなる推進を図るという観点から、消費者教育の目的、基本的事項、各団体等の役割について明記される形で改正がされました。