わたしは消費者 教員向け消費者教育情報提供誌・Web版
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新たな食品表示制度への移行に向けて

公立大学法人宮城大学 名誉教授(内閣府消費者委員会食品表示部会委員)池戸 重信

1.食品表示一元化の必要性

私たちが日常利用している食品表示は、食品衛生法、農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(JAS法)、健康増進法、計量法、景品 表示法など複数の法律に基づいています。すなわち、各々の法律に基づき義務表示項目が定められていますが、項目によっては複数の法律で重複して規定されているものもあります。たとえば、「名称」、「賞味期限」、「保存方法」、「遺伝子組換え」、「製造 者名」などは、食品衛生法とJAS法の両方の法律で表示が義務化され、しかも、法律によって、定義や用語が不統一ということも分かりにくい理由となっていました。

例を挙げると、A社が製造した食品を、B社がばらで大量に仕入れた後、小分け包装した場合、B社は、食品衛生法では「製造者」、JAS法では「加工者」となります。また、天日干し乾燥果実は、食品衛生法では「生鮮食品」、JAS法では「加工食品」など食品衛生法とJAS法で定義が異なるものがありました。

2.個別法による食品表示制度からの転換

このように、食品の表示制度が分かりにくくなった要因としては、食品衛生法、JAS法及び健康増進法という各々別個の目的を持った個別の法律によって政策がなされていたことがあります。しかも、これらの法律の所管は、食品衛生法と健康増進法は厚生労働省、JAS法は農林水産省と、各々別個の省にまたがっていました。すなわち、個々の法律に基づく制度の企画立案(法令の制定・改正など)や、執行(立ち入り検査や取締りなど)も、それぞれ別個になされていました。

こうした中、平成21年9月に消費者庁が設置され、これまで食品の表示に関して、企画・立案と執行が個別の法律に基づき、しかもそれぞれの所管省によってなされてきた体制から、消費者庁に一元化され、このことにより、食品表示制度の一元化も可能となりました。

3.食品表示法の制定

消費者庁の設立に伴い、食品表示制度の一元化のための検討を行うべく、平成23年9月に「食品表示一元化検討会(一元化検討会)」が設置され、全12回、延べ38時間以上の検討が行われた結果、翌年8月に報告書がまとめられました。

そして、同報告書などを踏まえて策定された食品表示法案が、平成25年4月に閣議決定され、国会で審議された結果、同年6月28日に食品表示法が公布されました。

新しいこの法律は、特に3つの法律が関係することは述べましたが、3法のうち、食品表示に関する規定部分が抜き出されて、新しい食品表示法が出来るというイメージです。

したがって、3つの各法律は表示の部分が抜かれても存続することはもちろんのこと、特に供給サイドにおける対策(食品衛生法では、安全な食品の製造・提供等、JAS法では、良質な品質の食品の提供等)を重点とした規定が残り、消費段階の対応が記された食品表示法と相まって、健全な食生活の実現に有効に機能する仕組みとなります。

食品表示法は、同法の附則の規定により、公布後2年を超えない日、すなわち遅くとも平成27年の夏から施行されることになっています。

4.食品表示法の目的と基本理念

新たな食品表示法の目的をどのように規定するかは、今後の食品表示制度のあり方を定める観点からきわめて重要となります。

一元化検討会においては、このような食品の特性等も踏まえた結果、目的は、食品の安全性確保に係る情報が消費者に確実に提供されることを最優先とし、これと併せて、消費者の商品選択上の判断に影響を及ぼす重要な情報が提供されることと位置付けることが適当との結論に至りました。そして、公布された食品表示法の目的も同様の内容の規定(第1条)がなされました。これは、消費者基本法の基本理念で規定されている消費者の権利も反映したものです。

一方、新しい食品表示制度は、この消費者基本法の基本理念の実現を図る上で重要な施策であることから、消費者の権利を尊重するとともに、消費者の自立を支援することを基本とすべきことを、別途 基本理念(第3条)として規定しています。また、食品関連事業者に対して、実行可能性のあるものとすることや、小規模の食品関連事業者の事業活動に及ぼす影響及び食品関連事業者間の公正な競争が確保されることに配慮する必要があることについても、併せて同法の基本理念として規定されています。

5.内閣総理大臣等に対する申出(第12条)及び適格消費者団体による差止請求権(第11条)

すでに、JAS法で規定された「申出」や景品表示法等で規定されていた「差止請求権」の制度も新たに導入されました。

「申出」は、何人も、食品の表示が適正でないため 一般消費者の利益が害されていると認めるとき、内閣総理大臣等に申出が可能であり、その申出に対して、内閣総理大臣等が必要な調査を行い、申出の内容が事実であれば、適切な措置を講ずるという制度です。

また「差止請求権」は、著しく事実に相違する表示行為やおそれのある場合に、適格消費者団体が差止請求権を発動できる制度です。適格消費者団体とは、一定要件を満たしている消費者団体で、全国で現在11団体が認められています。

6.食品表示基準の策定

食品表示法が施行されるためには、具体的なルールである食品表示基準が設定される必要があります。すなわち、これまで3つの法律で規定されていた基準を統合・整理する必要があることから、内閣府消費者委員会食品表示部会において平成25年11月〜平成26年6月において審議がなされました。

そして、これらの審議結果を踏まえて消費者庁が策定した食品表示基準案が、平成26年7〜8月に示され、パブリックコメントが求められました。この結果、約4,300のコメントが寄せられました。