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今月の話題

高齢者の消費者被害防止のための見守りネットワーク~地域でサポーター行動をしてみよう~

弁護士
池本 誠司いけもと せいじ

 悪質な販売業者が高齢者宅を訪問して不要なリフォーム工事や詐欺的な投資取引を次々と契約させるトラブルなど、高齢者を狙う悪質商法がますます増えています。長年社会に貢献し、平穏な余生を送っていただきたい高齢者が悪質商法に狙われ、老後の生活資金を不本意な形で奪われることは、許しがたい事態です。高齢者の消費者被害の実態を再確認し、被害防止と早期救済のために何をすることができるか、考えてみましょう。

高齢者の消費者被害の実情

 東京都内の消費生活センター(消費生活センター及び消費生活相談窓口)に寄せられる消費生活相談件数合計11万8361件(平成29年度)のうち、60歳以上の高齢者が契約者であるトラブルが3万7479件(31.7%)を占めています。
 トラブルの類型を見ると、最も多い相談はデジタルコンテンツの不当請求トラブルです。これは、スマートフォンの急速な普及により、高齢者もインターネットの利用が容易になったためと考えられます。

潜在的なトラブルの 推計値

 東京都が70歳以上の高齢者を対象に、平成29年度に実施したアンケート※によると、60歳を過ぎてから、架空請求や点検商法などの悪質商法の被害に遭った経験があるという方が5.1%、被害はないが、請求または勧誘されたことがあるという方が29.7%にも上ります。
 被害に遭った経験者に、被害後の行動を質問したところ、「何もしなかった」という回答が42%に上り、「家族や知人に相談した」が26%ありますが、「消費生活センターなどに相談した」は5.3%にとどまり、「ヘルパーなど福祉関係者に相談した」はわずか0.7%しかありませんでした。
 大まかな推計ですが、消費生活センターに寄せられた高齢者のトラブル件数は、地域で発生した実際のトラブルの5%程度しかないのだとすれば、年間3万7000件の約19倍のトラブルが地域社会で発生していると推計することができます。
 これほど多く発生している悪質商法被害をどのように防止し救済するのかが、地域社会の重要な課題だと言えます。

※「高齢者の消費者被害に関する調査」(平成30年3月)都内の各区市町村(島しょを除く)老人クラブ連合会の70歳以上の会員5,300人を対象としたアンケート調査

消費者被害防止の有効な対策は

 それでは、どうすれば高齢者の消費者被害を防止できるでしょうか。前記アンケート調査の結果から、いくつか読み取ることができます。
 被害に遭ったのに「何もしなかった」と回答した方にその理由を質問したところ、「自分にも責任があると思ったから」が52.4%に上り、「相談したり、調べたりしても解決しないと思ったから」が17.5%でした。こういう方に、「それはあなたの責任ではない、悪質商法の手口なのです」と伝え、消費生活センターに相談すると解決できる可能性があることをアドバイスできると、本人としても相談してみようかという気持ちになる可能性があります。
 そして、請求または勧誘されたのに被害に至らなかった方にその理由を質問したところ、「その商法の手口を知っていたから」という回答が64.3%を占めました。つまり、被害防止の決め手は、事前に悪質商法の手口を知っていることなのです。

消費生活センターの役割は

 東京都と各区市町村には消費生活センターの窓口が設置されています。消費生活センターは、資格を持つ消費生活相談員が最新の情報に基づいて、相談者にトラブル解決のアドバイスをしてくれる、消費者にとって頼りになる窓口だと言えます。
 また消費生活センターは、寄せられた相談情報を活用して、消費者に向けた注意喚起の広報や出前講座など被害防止の活動も取り組んでいます。さらに、消費者庁や都道府県は、トラブルを多発させている悪質業者に対し、法に基づいて業務停止命令等の行政処分を実施します。
 消費生活センターに相談することは、相談者自身のトラブルが解決できる可能性があるだけでなく、新たな被害を防ぐ意味があるのです。

地域の連携で消費者被害防止を

 東京都や区市町村の消費者行政部門では、高齢者福祉関係者に呼び掛けて、消費者被害防止に向けた高齢者見守りネットワークの構築に取り組んでいます。
 高齢者福祉部門では、以前から一人暮らしの高齢者や認知症の高齢者の命と健康を見守るネットワークづくりに取り組んできました。消費者行政の部門では、高齢者福祉部門の見守りネットワーク関係者と連携して、消費者被害防止・救済の活動を広げることを目指しているのです。
 地域包括支援センター関係者、社会福祉協議会関係者、民生委員、自治会関係者など、高齢者と接する可能性がある方々に、消費者トラブルの情報を高齢者に伝える役割と、被害の可能性に気づいたときに消費生活センターの相談につなげる役割が期待されます。

命・健康の見守りとの違い

 高齢者福祉部門の見守りネットワークは、高齢者の生活上の異常に気付き、声掛けをし、必要に応じて地域包括支援センター等の機関に通報することで、関係者が連携して高齢者を見守ることに取り組んでいます。
 これに対し、消費者被害防止のネットワークは、少し観点が異なります。
 消費者被害は、外観からは発見できないことが多く、被害に遭った方はむしろ隠す傾向すらあります。そこで、前述のアンケート調査で明らかになったように、消費者被害の発見・通報の前に、チラシなどで悪質商法の手口を話題にして伝えることが、第一の役割となります。高齢者と接する地域の関係者が、消費者トラブルの手口の話題を時々話すことを通じて、何か困った時にその関係者に打ち明けてみようという気持ちになる可能性が高まります。

地域のネットワークで消費者被害を防いだ好事例

 実際に地域のネットワークで高齢者の被害を防いだ事例を紹介します。

ケース1

 一人暮らしの高齢者Aは販売業者Xから浄水器の購入について勧誘電話を受けた。契約に関し十分な説明がなく、Aは既に設置済みの浄水器のカートリッジの話と思い了承した。Aは後日、浄水器の設置に来たXから30万円を請求された。近所に住むBが新しい浄水器に気づいたことで被害が発覚し、契約書の不交付も判明した。Bに促されたAは消費生活センターに相談し、クーリング・オフをして支払った代金の返金を受けることができた。また消費生活センターからの依頼で、地域包括支援センターが今後Aを見守ることとなった。

ケース2

 食料品等の配達を行う事業者Yは、行政と連携して、配達先の高齢者やその家族等にリーフレット(行政が作成した悪質商法の手口等を紹介したもの)を用いた注意喚起を行っていた。あるとき、YがA宅に配達した直後に、悪質事業者からと思われる電話がAあてにかかってきた。AはYから手渡されたリーフレットに記載の消費生活相談窓口に電話をしたことで悪質商法であると気づくことができ、被害を未然に防ぐことができた。

あなたもサポーターの行動を

 消費生活センターの職員や相談員だけで地域すべての高齢者に注意喚起情報を届けるのは到底手に余ります。また、高齢者見守り関係者に消費者被害防止の話題提供役をお願いすると言っても、高齢者福祉関係者は本業の業務だけでも多忙を極めていますので、次々と発生する悪質商法の手口を絶えず学んで、高齢者に話題提供する活動に十分な時間を割くことは難しいと思われます。
 そこで、東京都や区市町村の消費生活センターでは、地域の消費者や退職者や様々な関係団体の方々に、最新の消費者トラブルを学ぶとともに、地元消費生活センターと連携して高齢者向けの啓発活動に協力してもらうなど、消費者被害防止のためのサポーター行動をしてもらうための取り組みが広がっています。
 消費者問題を学ぶことで自らも被害に遭わない意義もありますが、その知識を活用して身の回りの高齢者に話題提供する役割や、消費生活センターの啓発活動に参加して協力することで、地域社会に貢献する役割を担うことが期待されます。
 悪質商法の手口の学習と話題提供だけではなく、インターネット取引の知識や広告の不当表示の知識を学んで伝える活動は、高齢者だけでなく、若年者を含む地域の消費者全般に役立つ情報だと言えます。
 まずは東京都や区市町村の消費生活センターが開催する研修講座に参加して消費者トラブルを学ぶことから始めてみましょう。

高齢者見守り人材向け出前講座について

東京都では、都内の介護事業者、福祉団体、町会・自治会などが、高齢者を見守る方々を対象とした講座を実施する場合、講師を無料で派遣しています。問い合わせ先など詳しくは、お知らせをご参照ください。

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