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今月の話題

お墓を考える
~変わりゆく「弔(とむら)いのカタチ」~

第一生命経済研究所 主席研究員
小谷みどり(こたに みどり)
 昨今、生前に自分のお墓を建てる人が増えています。縦長の墓石に先祖代々と書かれたお墓だけではなく、「夫婦だけで」「友人や仲間と」など、墓石のかたちだけでなく、一緒にお墓に入る人の顔ぶれも多様化しています。
 一方、継承を前提とする従来のお墓のなかには、長年お参りの形跡がないなど、無縁化が進んでいます。また、お墓の引っ越しや墓じまいにあたって消費者トラブルも多発しています。

お墓のイロハ

 お墓といえば「先祖代々」「○○家」などと刻まれた墓石を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、こうしたお墓は古くからあったわけではありません。
 一つの墓石に複数の遺骨を安置するには火葬にしなければなりませんが、火葬率が全国平均で5割を超えたのは昭和10年で、昭和45年でも、2割以上は土葬でした。いずれにしろ、みんなで同じお墓に入るようになったのは、火葬が普及して以降のことなのです。
 また、「お墓を買う」とは、墓石を建てる区画の永代使用権を取得することを指します。永代使用権は、使用者がいる限り、区画を使用できる権利ですので、管理する人がいなくなれば使用権は消滅します。例えば東京都立霊園の場合、年間管理料を5年間滞納すれば、使用許可が取り消されることがあります。
 お墓は民法では祭祀財産とされ、代々継承することを前提としています。そのため、「うちは長男ではないので、入るお墓がない」「結婚して苗字が変わった娘しかいないので、お墓を継承する人がいない」と思い込んでいる人は、とても多いようです。しかし都立霊園を始めとする公営霊園や多くの民間霊園では、使用者からみて「六親等以内の血族、三親等以内の姻族」まで一緒に入ることが可能です。きょうだいは二親等、娘は一親等ですから、苗字が違っても、一緒に入れます。
 また寺院墓地のなかには、使用者の実子と配偶者しか納骨させないところもありますので、霊園規則をよく読むことが大切です。

変わるお墓

 昨今、家名の代わりに「愛」「ありがとう」などの言葉を刻む墓石が増えています。墓石の色も、かつては黒や灰色が主流でしたが、最近ではピンクや白などの明るい色にも人気があります。
 墓石を建てるタイプだけでなく、ロッカー形式の納骨堂もあります。これまで納骨堂は、お墓を建てるまでの一時預けとして利用されてきましたが、最近では、「墓石を建てるより廉価」「墓掃除の必要がない」「駅近でお参りしやすい」などの理由で、納骨堂を望む人が増えています。
 お墓に対する考え方も多様化しています。「夫婦は同じお墓に葬られるべきだ」「妻は夫の実家のお墓に入るべきだ」とは考えない女性は、少なくありません。お墓を「死後のすみか」と捉えると、「誰とどんなお墓に入るか」は、ライフデザインの重要な事項です。

共同墓

 夫婦や先祖でもない人と、一緒にお墓に入りたいと考える人たちもいます。昨今、血縁を超えた人たちで入る共同墓を新設する自治体が増えています。
 都立霊園の共同墓は合葬埋蔵施設という名称で、八柱霊園、小平霊園、多摩霊園にあります。近年募集しているのは、八柱霊園と小平霊園で、納骨時に合葬されるタイプか、使用許可を受けてから20年間は個別に安置され、その後、合葬されるタイプかによって費用は異なります。
 前述したように、これまでのお墓は代々継承することを前提としていますが、血縁を超えた人たちで入る共同墓は、子供や家族の有無に関係なく、申し込むことができるのが特徴です。
 一定の要件を満たした住民であれば誰でも入れる公営の共同墓と異なり、仲間で入る共同墓もあります。最近では、老人ホームや高齢者住宅で共同墓を作る動きもあります。子供がいても別居していれば、「終のすみかを同じくした仲間たちと死後も一緒にいたい」と考える人もいます。

 そのほか、NPO法人や生活協同組合、お寺やキリスト教会などでも、会員が入れる共同墓を運営しているところがあります。
 こうした共同墓では、年に一度、将来同じお墓に入る予定者が、先に亡くなった人たちの慰霊祭をするところが多いうえ、大勢で入れば、にぎやかでいいと感じる人もいます。なによりも、使用者代々での継承を前提としていないので、子孫に墓守の負担をかけることはありません。

無縁墓が増える

 新しいかたちのお墓が増える一方、これまでの先祖代々のお墓を継承できない問題も起きています。その原因は、お墓を継承する子孫がいないというだけではありません。
 生まれ育った場所で一生を終える人たちが少数派になり、なじみのない遠くの場所に、先祖のお墓がある家庭も少なくありません。家族そろってお墓参りに行くには、交通費も時間もかかります。亡くなって何年も経過すると、だんだん足が遠のき、そのうち無縁墓になってしまうのは、不思議なことではありません。
 社会や家族のかたちが大きく変化しているなか、弔う家族や子孫がいても、未来永劫、子々孫々でお墓参りや死者祭祀を続けられる確証はないのです。無縁墓は、子供がいない人だけの問題ではありません。

お墓の引っ越し

 遠くにあるお墓を引っ越したいと考える人たちもいます。これを「改葬」といいます。お墓から遺骨を取り出すには、現在の墓地管理者から埋蔵証明をもらい、区市町村長の改葬許可を受ける必要があります。また、引っ越し先の墓地管理者から「受入証明書」を発行してもらわなければなりません。
 寺院墓地にお墓がある場合には、寺院側から高額な「離檀料」なるお布施を請求されるトラブルも相次いでいます。払わなければ改葬許可の手続きができないわけではないので、区市町村の担当部署に相談してください。こうした事態を避けるためにも、手続きを始める前に、寺院に改葬の相談をし、これまでお世話になったお礼をお布施としてあらかじめ包むといいでしょう。
 またお墓を引っ越しする際には、墓石を撤去し、更地にして返還しなければなりません。墓石の大きさや墓地の立地によって変わりますが、工事費に数十万円はかかります。新しいお墓や納骨堂を取得する費用も別途、必要です。
 お墓の引っ越しではなく、現在のお墓を処分する「墓じまい」を選択する人もいます。この場合も、墓石撤去は石材業者に依頼しますが、遺骨をどうするかを考えておかねばなりません。遺骨を捨てると死体遺棄罪に抵触しますので、海などに散骨するか、共同墓に納骨する人が多いようです。

お墓に入らない

 お墓は必要ないので、散骨がいいと考える人は少なくありません。法律では、墓地以外での埋蔵は禁じられていますが、撒(ま)くことは規制されていません。
 しかし、散骨を請け負う業者と住民との間でトラブルが起きることもあり、北海道長沼町・七飯町・岩見沢市、諏訪市、秩父市、御殿場市、熱海市、伊東市では、散骨を規制しています。日本には撒き方のルールがなく、遺族や業者のモラルに任されているのが現状です。
 一方、自宅に遺骨を安置することはまったく問題ありません。仏教では、四十九日が終わったら納骨することがありますが、これは火葬が普及してからの習慣にすぎず、特に宗教的な意味はありません。
 遺骨の一部を「手元供養」として自宅に安置する人もいます。砕いた遺灰を小さな容器やペンダントに入れるタイプと、遺骨をペンダントやプレートなどに加工するタイプがあります。
 お墓には、遺骨の収蔵場所としての機能と、残された人が死者と向き合う場所としての機能があります。収蔵場所としてのお墓のかたちが多様化するなか、死者をどう偲ぶのかという後者の機能をどう担保するかについても、社会全体で考えていく必要があります。死者を忘れず、日常のふとした瞬間に思い出し、偲ぶという行為は、残された人が生きていく上での大きな原動力になるはずです。
 固定観念や思い込みにとらわれず、家族や親戚と、お墓の未来について話し合っていただきたいと思います。