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今月の話題

マイクロプラスチックによる海洋への影響

東京農工大学 農学部 環境資源科学科
教授 高田 秀重(たかだ ひでしげ)
 最近、海や湖にマイクロプラスチック【図1】と呼ばれる、小さなプラスチックの破片や粒が浮いていることがわかってきました。マイクロプラスチックは魚や貝からも見つかり、その影響も懸念されています。
 世界の海の中のマイクロプラスチックの量が増えていることから、国際条約で規制を行うことも検討され始めています。
 マイクロプラスチックとは何か? その対策として何が有効なのか? などについて考えてみましょう。

マイクロプラスチックとは?

 マイクロプラスチックは、元々はレジ袋、コンビニの弁当箱、ペットボトルのふた、お菓子のパッケージなどのプラスチックごみです。ポイ捨てされたプラスチックごみを路上で見かけることがあると思います。また、ポイ捨てしなくても、ゴミ箱が溢れたり、風で飛ばされたりして、地面に落ちているプラスチックごみもあります。路上や地面に落ちているプラスチックの多くは水より軽いので、雨が降ると洗い流され、川を流れて、最後は海に流れ着きます。リサイクルされているから大丈夫だと思って、たくさんのプラスチック製品を使っているかもしれませんが、川や海に流れ出し、たまってくるものもあるのです。【図2】は荒川の河岸に打ち上げられたゴミの写真です。大部分がペットボトルで、日本で一番リサイクル率の高い製品です。しかし、リサイクル率が高いと言っても100%ではありません。たくさん使えば、リサイクルされないものも増え、その一部が海に出ていってしまいます。
 海を漂っているプラスチックは紫外線や波の力で徐々にボロボロになっていきます。最終的に、5㎜以下に小さくなったプラスチックがマイクロプラスチックと呼ばれます。マイクロプラスチックは海流等で流されて世界中の海に漂っており、5兆個のマイクロプラスチックが世界の海に漂っていると推定されています。
 最近、環境省が行った日本周辺の海での調査では、1平方メートルあたり数個のマイクロプラスチックが観測されています。日本周辺の海域は世界的にもマイクロプラスチックが多く漂っていることがわかりました。
 私たちが大量にプラスチックを使っていることがその一つの原因です。また、東南アジアの国々や中国などから黒潮の流れに乗ってきたものがあると考えられています。

洗顔や洗濯も起源?

 これらのマイクロプラスチックの大半は、プラスチックの製品の破片ですが、他にもマイクロプラスチックの発生源はあります。例えば、化粧品や洗顔剤に配合されているマイクロビーズです。大きさが数十~数百マイクロメートル(1μm=0.001㎜)の球状のプラスチックの粒が一部の化粧品や洗顔剤にスクラブとして配合されています。それらは洗顔後に下水道を流れて、川や海に流されてしまいます。実際に東京湾では海水中からマイクロビーズが見つかっています。
 また、ポリエステルなどの化学繊維の衣服を洗濯すると、化学繊維の糸くずが排水に混じり、これも下水道を通して、川や海へ流れてしまいます。日本の沿岸では化学繊維のマイクロプラスチックは少ないようですが、欧米の海では化学繊維がたくさん見つかっています。さらに、削れて汚れを落とすタイプのメラミン製のスポンジもマイクロプラスチックの発生源になっています。その他にも、レジンペレットと呼ばれるプラスチック製品の中間材料も海のマイクロプラスチックの汚染源になっています。化粧品へのマイクロビーズの配合については、日本でも自主規制する方向に動き始めました。しかし、日本の沿岸ではマイクロビーズはマイクロプラスチック全体の1割程度です。大部分はプラスチックの破片ですので、プラスチック破片の海への流入の削減、プラゴミの削減、根本的には使い捨てのプラスチックの使用の削減を行っていかないと、マイクロプラスチック問題の根本的な解決にはなりません。

魚貝類にたまるプラスチック

 海を漂うプラスチックの一番の問題は、海の生物が餌と間違えたり、あるいは餌と区別ができずに、食べてしまうことです。
 海鳥やウミガメなど大きな海洋生物によるプラスチックの摂食は1970年代から報告されてきました。より小さなプラスチックは、より小さな生物に食べられます。マイクロプラスチックは、魚や貝が餌とするプランクトンと混ざって海の中を漂っていることから、二枚貝、カニ、小魚などに取り込まれ、現在では世界中の多くの魚貝類からマイクロプラスチックの検出が報告されています。
 私たちも、東京湾でカタクチイワシを釣って、その胃腸の中を調べたところ、1㎜前後のマイクロプラスチックが検出されました。64尾のイワシを調べた結果、そのうち49尾、すなわち8割程度の魚から、マイクロプラスチックが検出されました。それらの魚の内臓を取り除かずに人間が食べれば、人間もマイクロプラスチックを食べてしまうことになります。ただ、これらのプラスチックは人体から排泄されてしまうので、マイクロプラスチックが検出されたからといって、魚を食べることを避ける必要はまったくありません。しかし、これからマイクロプラスチックの量が増えると、魚貝類への影響が懸念されます。というのは、マイクロプラスチックに有害な化学物質が含まれているからです。
 有害な化学物質は、もともとプラスチック製品に加えられた添加剤であったり、プラスチックが周りの水の中から吸着してできた化学物質です。魚がマイクロプラスチックを取り込んでその後排泄しても、有害化学物質の一部は魚の脂肪にたまります。室内実験では、プラスチックやそこに含まれる有害化学物質による、魚の肝機能低下・腫瘍(しゅよう)、生殖能力の低下も報告されています。
 ただし、これはあくまで室内実験の話であり、実験で魚貝類に与えているプラスチックの量は、実際に環境中でみつかるプラスチックの量よりもはるかに多く、現在の環境中でマイクロプラスチックに含まれる化学物質が原因となる異常は観測されていません。しかし、これから海へ流入するマイクロプラスチックの量が増えると、実際に影響が出てくる可能性があります。

プラスチック汚染は深刻化

 世界の海へのプラスチックの流入量は何も手を打たなければ、今後20年で10倍になり、今世紀後半には、海を漂流するプラスチックの量が魚の量を超えるという予測もあります。
 実際に、東京湾などの海底の泥(地層)を調べてみると、プラスチックの消費量の増加と対応し、マイクロプラスチックが確実に増えていることがわかります。世界中の色々な所で採取した泥を分析しましたが、マイクロプラスチックの増加は世界中で観測されました。プラスチックは大変分解しにくいため、いったん海に流入すると数十年以上、海中に残留します。
 さらに、マイクロプラスチックは小さいため回収することも不可能です。
 影響がわかってから海への流入を止めても手遅れになる可能性があるため、諸外国では予防的な立場から対策が講じ始められています。「減らせるプラスチックはできるだけ減らそう。」というのが、国際的な流れです。
 国連ではマイクロプラスチック国際条約を制定する可能性まで議論されはじめました。

私たち消費者ができること

 海洋へのプラスチックの流入を減らすためには、陸上でのプラスチック廃棄物の管理を徹底することが何より必要です。そこで3R(Reduce=削減、Reuse=再使用、Recycle=リサイクル)の促進が鍵であると考えられています。世界的には、使い捨てプラスチック削減「Reduce=削減」の方向で対策が進んでいます。アメリカの一部の州やEU諸国では、レジ袋の禁止や有料化が進められています。
 2016年9月にはフランスでプラスチック製使い捨て容器や食器を禁止する法律が成立しました。
 マイバッグを持ち歩きレジ袋を断る、マイボトルを持ち歩きペットボトルの飲み物を控える、プラスチック包装の多い商品よりも少ない商品を選ぶ、対面販売を選択しさらにレジ袋は断る、インスタント食品に頼らず食堂で食べる等、個人個人が使い捨てプラスチックを使わないように自分の生活を見直すことが大事です。また、過剰なプラスチック包装を減らしていく生産・流通の仕組みも必要です。
 私たち一人ひとりの日々の小さな取り組みが、ひいては環境改善の貢献につながっていくのです。