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今月の話題どうして出るの?
どうやって減らす?
私たちの食品廃棄

東京農業大学国際食料情報学部 教授
上岡 美保(かみおか みほ)

 世界では飢餓と飽食の問題や様々な人間活動による地球環境問題が課題となっています。こうした中で、いま、私たちは、食の生産から加工・流通・消費までの「食の循環」や食品ロスの削減などの「環境」を意識した食生活を送ることが求められています。

知っていますか? 私たちの食品ロス実態

 「642万トン」という数字が何か、おわかりでしょうか。これはまだ食べられるのに廃棄されてしまった食品の廃棄物量です。そのうち331万トンは事業系の廃棄物で、例えば、規格外品や商品の返品、売れ残り、流通過程の破損、外食での食べ残しなどです。それ以外の312万トン(全体の約49%)は、私たちの家庭から出される食品廃棄物なのです。これは、茶碗一杯分のごはんを150グラムと仮定した場合、年間一人あたり164杯分のごはんに相当するとされています。皆さんもご存じのように、日本は世界でも有数の食料輸入大国です。農産物・食料輸入額でみれば世界第4位、カロリーベースの食料自給率は39%となっており、摂取するカロリーの6割は海外に依存していることになります。
 このように多くの食料輸入に依存した豊かな食生活をおくる一方で、年間642万トンという、まだ食べられる食品を無駄にしているのです。世界では、現在、7億9500万人の人々が栄養不足に苦しんでいます。これは実に世界の人口の9人に1人の割合です。また、世界の食料援助量は約320万トンとされていますから、日本の食品廃棄量は、それをはるかに上回る数字です。世界の飢餓と飽食の中で、私たちは今一度、食生活を見直す必要があるのではないでしょうか。

※端数の関係で、合計と内訳の計は必ずしも一致しない。

家庭から出される食品ロス

 私たちの家庭から出る食品廃棄は主に3つの視点で考えられています。

  • ①消費期限・賞味期限が切れたことによる「直接廃棄」
  • ②皮の厚むきなど調理技術の如何(いかん)による「過剰除去」
  • ③「食べ残し」

 現状では、家庭の食品廃棄は、過剰除去、食べ残し、直接廃棄の順でロス率が多くなっています。
 特に、「直接廃棄」については、京都大学環境科学センターの調査によると生ゴミの中には手つかずの加工食品が増加傾向にあり、こうした食品の無駄は一世帯あたり年間6万5千円に上る場合もある、との研究結果もあります。「お買い得!」「お徳用!」「○%OFF!」といった呼びかけに、安いからといって、ついつい必要のない食品まで買ってしまったり、買い過ぎて、結局腐ってしまったりした経験はありませんか?そして、表示された期限だけを頼りに、期限が切れたからといって廃棄していないでしょうか。

正しく理解したい「消費期限」と「賞味期限」

 「消費期限」の定義は「定められた方法により保存した場合において、腐敗、変敗その他の品質の劣化に伴い安全性を欠くこととなるおそれがないと認められる期限を示す年月日」で「期限を過ぎたら食べない方が良い」期限です。
 一方、「賞味期限」の定義は「定められた方法により保存した場合において、期待されるすべての品質の保持が十分に可能であると認められる期限を示す年月日をいう。ただし、当該期限を超えた場合であっても、これらの品質が保持されていることがあるものとする」となっており、「おいしく食べることができる期限」であると同時に、賞味期限を過ぎたからといって食べられないわけではありません。私たちは食品表示などについて正しい理解のもと、また五感を使って、食品を有効に利用する必要があります。

食品廃棄はどうして出るの?

 そもそも食品廃棄はどうして出るのでしょうか。原因の一つには、フードシステム(食料の生産・加工・流通・消費の一連の流れ)が深化したことが挙げられます。
 私たち消費者の立場から考えると、お金さえ出せば、食べ物が手に入る便利な食生活を得た一方で、流通経路の複雑化、加工段階の拡大、責任の所在の複雑化によって、生産と消費の距離が次第に離れてきたことで、農業への理解や食べ物への感謝の気持ちが薄れてきたことが一つの要因として考えられます。いわゆる「食べ残し」はその象徴でしょう。
 さらに、食品産業の発達や国内農業の縮小によって、家庭や地域で受け継がれてきた調理技術や伝統技術の継承が難しくなっています。こうした現状は、先ほど述べたように食品の「過剰除去」といった形で現れているように思います。

見過ごせない外食でのロス

 私たちに関わる食品廃棄は、家庭の中だけではありません。近年では、食の外部化が進み、私たちが消費している食料のうち、外食率は約36%にも及びます。つまり、外食でのロスも見過ごせません。農林水産省「食品ロス統計調査(平成26年度)」でみると、外食シーンでの食べ残し割合(使用した食材に対して廃棄した割合)は、「食堂・レストラン」で3.5%、「結婚披露宴」で13.4%、「宴会」で18.9%となっており、酒宴を伴うシーンでのロス率が高くなっています。

まねしてみたいこんな取り組み

 近年注目されているキーワードとして「フードサルベージ(食材を救う)」という考え方があります。つまり、家で余った食材や使用していない調味料、食べ頃ギリギリの野菜、もらったけれど使っていない食品など「家で持て余している食材」の新たな使い道を考えて食材を扱う考え方です。
 仲の良い友達同士で、こうした食材を持ち寄って、「サルベージ・パーティ」をすれば、新たな発見や楽しい時間を過ごすことができるのではないでしょうか。
 さらに、外食でのロスについては、長野県松本市で始まった「残さず食べよう3010(さんまるいちまる)運動」(松本市HP)があります。これは宴会などでの食べ残しを減らすため、注文時に適量を注文すること、乾杯後30分(さんまる)は席を立たず料理を楽しむこと、お開き前10分間(いちまる)は自分の席に戻って、再度料理を楽しむこと、という項目が挙げられています。仲間同士、互いに声を掛け合って、食べる人が楽しく、作る人も気持ちよく食事をしたいですね。

無駄な廃棄をなくすために今、私たちにできること

 最後に、私たち消費者にとって大切なことは、当たり前の行動を見直すことです。食品廃棄・ロスをできるだけ出さない意識を持つことはもちろんですが、買い過ぎない・作り過ぎない、賞味期限や消費期限の小まめなチェック、味覚を鍛える、調理技術の習得や保存方法を見直す、時には、農業体験や食品工場見学などを通して、農業や食品加工を知る・理解する・生産者を意識することも大切です。さらに、別の見方をすると食品廃棄などのゴミが増えれば、処理の際、地球環境に負荷がかかります。そして何より、大量の食料輸入をしていながら捨てていては「モッタイナイ!」。私たちの食生活は恵まれていますが、世界にはまだ多くの栄養不足の方々がいます。私たちの行動を時には広い視野で捉え、足元から行動する=『Think globally, act locally』の考え方を大切にしたいものです。

【参考Webサイト】

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