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web版 くらしに役立つ都民のための消費生活情報誌 東京くらしねっと平成28年 2016 No.228 4月号

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今月の話題 上手にとる睡眠

東京都医学総合研究所 睡眠プロジェクト 本多 真(ほんだ まこと)

イラスト 上手にとる睡眠

良い睡眠をとるためには…
お日さまの光を十分浴びて眠りと目覚めのリズムをつくろう
短い昼寝を活用して夕方からも頭と体を働かせよう
寝る1・2時間前に入浴等で体をあたため、手足ぽかぽか状態にして、眠りを深く
ストレッチなどで心身の緊張をほぐしリラックス、眠りを追いかけないのがコツ
食事の中身に気をつけよう ― 極端なダイエットは不眠のもと

現代社会と睡眠

 国際的なビジネスや交代制勤務が増え、趣味や勉強のために睡眠時間を減らして1日を活用したいと考える人も増えています。24時間営業の店も増えて、多様なライフスタイルが可能で便利な社会となりました。こうした現代の生活様式の変化の中で、睡眠時間は年々減少し、NHKの国民生活時間調査によれば、日本人の平均在床時間は最近50年間で8時間17分から7時間14分へと63分短縮しています。また職場や家庭生活の中で、パソコンを用いた作業が増加、就寝直前まで電子機器を使う生活様式も増えており、一昔前の生活と比べ疲労の質も大きな変化が生じています。現代は意識的に生活を整えなければ、良質な睡眠がとりにくい社会であるといえます。実際に日本における睡眠障害の有症率は高く、慢性的な不眠を訴える人が17・3−22・3%、慢性的な眠気を訴える人が7・2−14・9%存在するとの報告があります。睡眠の問題はまさしく現代社会の課題であると言えましょう。

睡眠の重要性

 多少寝不足で無理をしても心身に悪影響はなく、特に若者は無理がきくと信じられてきました。日本では不眠不休が美徳のひとつになっています。しかし寝不足の身体への悪影響が次々に明らかにされ、若者も例外ではないことがわかってきました。2日間だけ睡眠時間を4時間に制限すると、食欲を増やすホルモン(グレリン)が増え、食欲を抑制するホルモン(レプチン)が減少します。寝不足は食べすぎをきたし、メタボリック症候群のリスクを高めるわけです。一方、睡眠障害はうつ病をはじめとする精神疾患発症や悪化の危険因子としても知られます。さらに睡眠障害は意欲低下や注意集中困難など日常生活に支障をきたし、学業成績や仕事の生産性を低下させます。どんなに優秀な人でも、睡眠時間を削ると創造力や集中力を要する仕事で、本来の能力を発揮できなくなってしまうのです。

睡眠障害のいろいろ

 最近刊行された睡眠障害国際分類第3版には68個の診断名が分類されていますが、症状面からは大きく不眠、過眠、リズム障害、寝ぼけという4つに分けられます。症状ごとに簡単に紹介しますので、睡眠障害になった場合に早く気づいて相談できるとよいでしょう。

●不眠
 急性のストレスがあると、誰でも一過性に不眠となることはありますが、それが継続し、入眠困難、睡眠維持困難、早朝覚醒といった症状に加え、疲れやすさや集中力低下、眠気などが生じて、日常生活上の支障が生じる場合に不眠症と診断されます。上述の良い睡眠の工夫をしていただき、それでも症状が続く場合は、お酒でごまかさず医療機関を受診してください。お酒は寝つきを改善しますが、眠りの質を悪くするため不眠を悪化させてしまいます。
●過眠
 眠気の原因は大きく三つに分けられます。最も多いのは、睡眠不足です。次に多いのは、呼吸障害に基づいて夜間睡眠障害が生じる睡眠時無呼吸症候群です。これは一般人口の2・8−9・0%と頻度が高く、いびきがその目印となります。大いびきは熟睡している証拠ではなく、睡眠中の呼吸に努力を要することを示すものです。夜に続けて睡眠をとれなくなり、動脈硬化や高血圧などの基盤となり、さらには突然死の原因にもなる怖い病気なので注意が必要です。三つ目は、睡眠覚醒中枢の働きが異常になって生じる過眠症です。ナルコレプシー(居眠り病)がその代表で、頻度は0・16%とまれな疾患ではありません。耐え難い眠気のため、歩行中や会食中にも居眠りを繰り返したり、大笑いすると膝が抜けたり呂律がまわらなくなったりする症状(情動脱力発作)が特徴的です。
 以上のように過剰な眠気の原因は様々で、適切な治療法がそれぞれ異なりますので、日常生活の支障があれば、睡眠専門施設で相談してください。
●リズム障害
 夜更かし朝寝坊が多い若者世代に多い疾患です。体内時計がずれて睡眠時間もずれるため、入眠困難と起床困難をきたします。一般人口中の頻度は0・13−0・40%です。治療にはご本人の意志が大切で、入院など規則的な生活環境で過ごすことや、後で述べるように朝の高照度光によって体内時計のリセットを行うこと、時間療法(体内時計を睡眠時間とともにずらす)などの方法があります。
●寝ぼけ
 睡眠時遊行症やレム睡眠行動障害などの睡眠随伴症と、むずむず脚症候群や周期性四肢運動障害などの睡眠関連運動障害に大別されます。睡眠時遊行症は小児に多いのに対し、悪夢内容にそって体が動いてしまい怪我も多く伴うレム睡眠行動障害や、むずむず脚症候群と周期性四肢運動障害は中高年に多くみられます。
 寝ぼけた行動の際に、安全を確保することが大切です。睡眠関連運動障害には有効な治療法があるので、きちんと診断をうけることが望まれます。日本睡眠学会のホームページ(文末参照)に睡眠医療認定機関のリストがありますので、受診先の参考として下さい。

よい睡眠の工夫

 それではよい眠りをとるには、どんな工夫があるでしょうか。よい睡眠を定義するのは難しいのですが、日中元気に生活が送れることが良い睡眠の条件となります。「ぐっすり眠って日中は元気ハツラツ」というメリハリある生活のためには、適切な眠りと目覚めの切り替えが必要です。眠りと目覚めは脳の中の脳幹という所にある睡眠中枢・覚醒中枢が働いて、大脳を眠らせたり起こしたりすることで調節されますが、脳幹の中の視床下部という部分が切り替えスイッチを担当します。視床下部は生体内の様々な情報が集約される場所で、体温調節、空腹満腹といったエネルギー状態、ホルモンの分泌、そして自律神経系の制御中枢が集まっています。睡眠中枢と覚醒中枢と体内時計の中枢もここにあります。睡眠覚醒は生体内の様々なシグナルに合うように調節されていると考えられます。逆にいえば視床下部に集まる情報を整えることで、よい眠りがとれることになります。

生体情報の中枢 視床下部(イメージ)
イラスト 生体情報の中枢 視床下部(イメージ)
体の中の様々な情報が集約されています。ここに睡眠、覚醒、体内時計(概日リズム中枢)の中枢も存在します。

 メリハリある生活に最も効果があるのは、体内時計のネジをまく役割をもつ明るい光です。体内時計は地球時計の24時間より少し長いため、放っておくと夜更かし朝寝坊となってしまいますが、朝日を十分浴びることで体内時計を前に進めて24時間に合わせることができます。良質の眠りをもたらすメラトニンというホルモンも、体内時計に従います。明るい光があると合成が止まる特徴があり、日中明るいところで十分活動してメラトニンを抑制し、夜は照明を落とすことでメラトニンの分泌を増やし、眠りを改善できます。睡眠が悪く日中活発に動けないという人は、午後3時頃までに30分程度の昼眠をし、目覚めたあとは頭と身体を使った活動に元気に取り組む「睡眠健康教室」が不眠改善法として実践されています。規則正しい睡眠・生活習慣がよい睡眠に役立つわけです。
 体温調節も、よい眠りをもたらすポイントです。脳の温度が速く下がるほど深い睡眠がとれます。そこで就寝1〜2時間前に運動したり入浴したりして体を温め、手足の末梢血管を開いて放熱を促すと、脳温をスムーズに下げて深い眠りに入りやすくなります。入浴には心身の緊張をリラックスさせる効果もあります。体の緊張を意識的に緩め、ストレッチなどでリラックスした状態をつくることによって、自律神経系の働きを副交感神経優位な状態に整えることも、入眠しやすい状態をつくるのに有用です。また食生活習慣も重要です。極端なダイエットは不眠のもとです。覚醒作用のあるコーヒーなどを夕方以降に服用すると眠れなくなる場合があります。
 以上、視床下部に集まる体の情報を整えることが、良質の睡眠を導くと考えられます。様々な睡眠グッズやサプリメントが市販されていますが、こうしたものに頼る気持ちが強いとかえって緊張が高まり、目が冴えてしまうことが多いです。日中の生活を工夫することで、自然とよい睡眠をとる準備を整えましょう。

イラスト 月

※日本睡眠学会WEBサイト
http://jssr.jp/
睡眠医療認定機関の紹介の他、睡眠に関する基礎知識等、豊富な解説が掲載されています

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