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web版 くらしに役立つ都民のための消費生活情報誌 東京くらしねっと平成27年 2015 No.223 11月号

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今月の話題 今、社会保障を考えてみる
~社会全体で支え助け合うということ〜

慶應義塾大学 商学部 教授 
権丈 善一(けんじょう よしかず)

イラスト 社会保障を考えてみる

私たちの生活と社会保障

 今年の7月でしたか、朝のワイドショーで、家族の介護のために仕事を辞めてしまう介護離職の問題が取り扱われていました。介護離職は悲劇だ、後悔するから絶対に離職はいけないという話がスタジオでなされた後、コメンテーターの一人が、それは個人の選択ではなく、追い込まれてのことだろうと説明していました。介護保険制度の問題、特に保険財政に余裕がないために公的な介護サービスの量や質が十分でないので、身内が離職して介護せざるを得ない人たちが出てくるという話です。一緒にテレビに出ていた人たちは、やはりそういう、制度を支えるための財源の問題になるのですねぇと、納得されている感じでした。

社会保障財源不足の目に見えない理由

 社会保障全般が専門の僕は、介護、医療、障害者福祉、年金、その他諸々のシンポジウムに呼ばれることがあります。そこで大方は、会の冒頭での講演を頼まれることになるわけですが、その理由は、こうした分野が共通して抱える問題についての話を、僕に期待されているからだと思います。社会保障のどの政策領域も、理想と現実の間には大きなギャップがあります。だから、こうしたシンポジウムには、いつも高い問題意識を持つ大勢の人が集まるのでしょうけど、理想と現実の間の大きなギャップのほとんどの理由は、財源不足だったりするんですね。そして僕の仕事は、社会保障制度を利用しようにも不自由であるほどに多くの問題を抱えている大きな理由としての財源不足が、いったいなぜ生じているのかを説明することになるわけです。
 目に見える形での理由は、みんなが必要とする水準の社会サービスを賄うだけの税や社会保険料の負担が行われていないからなのですけど、目に見えない理由として、どうも世の中の人達は、社会保障というものが誰のものなのかを、あまりよく理解していないからのようにも思えます。
ここでひとつクイズを――平成27年度予算で社会保障の給付費は117兆円。このうち、テレビなどでよく取り上げられる生活保護の給付費に充てられる割合は、30%、40%、50%、それに「該当なし」という4つの選択肢のうち、どれだと思いますか?  

 この問題には、大方みんな引っかかってくれます。答えは、「該当なし」です。生活保護、すなわち社会保障給付費総額に占める「公的扶助」の比率は3%強にすぎません。しかも、そのうちの半分弱が医療扶助に使われていて、多くの人が「生活保護」という言葉で連想する現金給付での生活扶助は、社会保障給付費総額の1%強でしかありません。一方、貧困に陥っていない人たちが負担と給付の双方に係わる、医療、介護、年金などからなる社会保険がおよそ9割を占めており※【図】、まさに社会保険を知らずして社会保障を語るなかれなんですね。

※【図】社会保障給付費の内訳
イラスト 【図】社会保障給付費の内訳
出所)国立社会保障・人口問題研究所(2013)『平成23年度社会保障費用統計』を基に作成

社会保障は中間層の人たちの助け合いの制度

 今年の春に大流行していたピケティの『21世紀の資本』には、「現代の所得再分配は、金持ちから貧乏人への所得移転を行うのではない。…それはむしろ、おおむね万人にとって平等な公共サービスや代替所得、特に保健医療や教育、年金などの分野の支出をまかなうということなのだ」という言葉があります。ピケティも指摘していますように、「保健医療・教育への国家支出〔現物給付〕と代替・移転支払〔現金給付〕を足すと、社会支出は総額で国民所得の25~35%となる。これは20世紀の富裕国における政府歳入増加のほとんどすべてを占める」ことになります。ピケティの住むフランスも、そして日本を含む他の多くの国々でも、20世紀に入って拡大した政府活動のほとんどは、社会保障が大きくなったことによります。そして社会保障というのは、その総支出の9割近くが社会保険であることからわかるように、基本的に中間層の人たちによる中間層の人たちの間の助け合いなんですね。

社会保障の充実と税と社会保険料

 ここで、「必要な時に必要なサービス」を受けることができるように、政府にいったん預けるお金(税金や社会保険料など) が少なければ、「必要な時に必要なサービス」を自分で賄わなければならない社会になってしまいます。その一つの行き着く先が、冒頭に話した介護離職という悲劇の形をとることもあるわけです。
 それでは、そうした費用を誰がどう負担すべきでしょうか。
 再々度ピケティを引用すれば、「万人にかなりの拠出を求めなければ、野心的な社会給付プログラムを実施するための国民所得の半分を税金として集めるのは不可能だ」――つまりは、充実した社会保障を準備するためには、少数のある特定の人達に財源を求めるだけではとても足りず、どうしても万人の協力を必要とするということでしょうか。20世紀の半ばころから、福祉先進国で広く国民全般に協力を求める税が普及していったのは、そうした理由によるのでしょう。
 望ましくないことが発生する可能性のことをリスクといいます。生活上のリスクは、かつては家族の助け合いで対応していました。しかし経済が大きく発展していった国々では世の中の姿も大きく変わり、家族だけでは備えることに限界がある生活上のリスクが大変増えると共に、家族の形も随分と変わってしまいました。そこで、人びとが生活する上でどうしても必要なサービスを賄うための負担を個々の家族のみに負わせるのではなく、今は必要としていない人々も含めた社会全体で支え助け合う「保険」のような仕組みとしての社会保障が、各国で広く導入されていきました。
 今の日本をながめていると、自分たちが困った時に助けてくれる社会保障をうまく充実できず、結果、ひとりひとりの生活が実に不自由になってしまっているようにも見えます。

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