東京くらしねっと 2月号

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今月の話題 認知症等高齢者の消費者トラブルを防ぐために弁護士 中山 二基子(なかやま ふきこ) 誰でも年を取ってくると、老後の生活が気になり、いろいろ考えるようになります。「体が動く間は家にいたい。その場合、年金と貯金を計算すると、特別のことがなければ大丈夫だ。体が不自由になったら、自宅を売って介護付きのホームに入ろう」等々です。  このように自分の老後は安心と考えていたのに、思いもよらないことが起きて、予想していた老後の生活設計が大幅に狂ってしまうことがあります。その最大危機の一つが消費者トラブルにあうことです。

 テレビの報道番組で、悪質商法の被害で資産を失い、ささやかな年金で暮らせる地方の施設に入るために、住み慣れた自宅を後にする高齢の女性が紹介されたことがあります。番組に出演していたスタジオで、この女性の映像を見た時、私は消費者被害の悲惨さに衝撃を受けました。消費者被害は、時としてこれまで築いてきた人生を根こそぎ破壊し、将来の生活まで大きく変えてしまうのです。
 高齢者が消費者トラブルにまき込まれやすい理由には、判断力が低下して“取引”について適切な判断ができなくなるということもあります。しかし、それだけではありません。高齢者の生活は、消費者トラブルに巻き込まれやすいさまざまな要素を秘めているのです。その背景を見てみましょう。

消費者トラブルの背景

❶寂しい高齢者

 先日、「老いじたく」をテーマに講演したとき、講演後、80代の男性から「毎日寂しくてたまりません。どうしたら話し相手を見つけられますか」という質問がありました。質問は、講演内容とは関係ないものだったのですが、私はこの男性の気持ちが痛いほどわかりました。一人暮らしの高齢者の多くは、深い孤独の中にいます。特に判断力が低下してくると外出も難しくなり、やれないことが増えてきます。社会から孤立し、自宅に閉じこもりがちになる高齢者は、とても寂しいのです。
 一人ぼっちの暮らしに、訪ねて来た若者が優しく話し相手になってくれたら、たちまち心を許したとしても不思議ではありません。親切な若者の喜ぶ顔が見たくて、言われるがままに契約したり、お金を払ったりするのです。
 私が相談を受けたケースでは、訪ねてきた娘さんが母親の悪質商法の被害に気づき、「お母さんはだまされている」と言ったところ、母親は「あんないい人はいない」と怒り出したと言います。娘さんは母親の態度にショックを受けました。結局、このケースは成年後見制度を使うことで、ようやく母親の消費者被害を食い止めることができましたが、被害額は一千万円を超えていました。

❷将来の不安につけこむ

 高齢者は、誰もが将来の生活に漠然とした不安を持っています。年金と預金と持家があるから大丈夫と思っても、何歳まで生きるかわかりません。百歳まで長生きしたら預金が底をつかないか、大病でもしたら医療費がどれだけかかるか、老人ホームの入居金が出せるだろうか、など不安の種は尽きません。悪質商法はこのような高齢者の不安につけ込むのです。「老後の資産を増やします」という甘い誘いは、容易に高齢者の心をとらえます。このような投資は、一般につぎ込む金額が多いので、被害額も桁外れになりがちです。
 私が相談を受けたケースの高齢者も、ふだんは一円のお金も節約する質素な生活をしているのに、一度に五千万円という大金を先物取引につぎ込んでしまいました。「老後の資産を増やせる」という誘いが決め手になったようです。

❸孤立している認知症等高齢者

 消費者被害にあう高齢者の多くは、地域から孤立し、人とのつながりが薄く、見守りから外れています。ケアマネジャーや福祉関係者が訪ねて行っても、「放っておいて。余計なお世話」と言って追い返されることも少なくありません。こういう高齢者は自分の世界に福祉関係者が入ってきて、あれこれアドバイス(本人にとっては指図)してきたり、今の生活を続けられなくなるのを警戒しています。一方、ひたすら本人のご機嫌をとり、本人の今の生活を肯定してくれるのが悪質商法の業者です(悪質業者にとっては、今のままでいてくれなくては困りますから)。福祉や介護の関係者は、本人が嫌がっても、本当に本人に必要なことは勧めなければならないのですが、なかなか受け入れてもらえず悩みます。どのように本人との信頼関係を築き、援助を進めていくかが問われるのです。

【図1】相談をしてきた人の内訳(平成25年度相談受付分) 【図2】本人以外からの相談の内訳(平成25年度相談受付分)

被害を防ぐために

❶背景にある問題を解決する

 認知症等高齢者を守るためには、背景にある問題を解決することが必要です。第一に、認知症等高齢者を一人ぼっちにしない、第二に、見守り体制を作る、第三に、被害に早く気づいて対応する、ということです。しかし、なかなか援助を受け入れてくれないのも認知症等高齢者の特徴です。銀行や警察などから、「通帳を失くした」と度々駆け込んでくる高齢者がいるという連絡を受けて、福祉関係者が訪ねていっても、簡単には受け入れてくれません。先に述べた五千万円の被害を受けたケースでも、福祉関係者が訪ねても最初は玄関の扉さえ開けてくれず、居間に入れてもらうには何カ月もかかったといいます。本人との信頼関係を築くのは容易なことではありませんが、そこから始めるしかないのです。

❷さまざまな制度を使う

 本人が「介護保険制度」を使っていて、自宅にケアマネジャーやホームヘルパーが入っていれば、契約書や領収書を見つけて消費者トラブルをキャッチし、すぐに対応策をとることができます。ホームヘルパーが気づいてクーリング・オフに結びついたケースは多いのです。
 社会福祉協議会の「地域福祉権利擁護事業」による見守りも役立ちます。月一回あるいは二回、社協の専門員や生活支援員が訪問して書類や手紙などを整理したり、本人の生活ぶりを見ます。その中で異変があれば、担当する役所につなぐなどして必要な援助を考えていきます。このようにさまざまな制度を利用することで、認知性等高齢者への見守り力を上げることができます。

❸成年後見制度の利用

 消費者被害が重なるとき、究極の解決策は「成年後見制度」を利用することです。具体的には家庭裁判所に「後見の申立」をし、成年後見人が選任されると、成年後見人は本人の通帳を預かり管理します。そして必要な支払いは後見人が行います。ただ自宅で暮らす高齢者の場合、生活費が必要ですから、本人が生活費を持っている限りでは、被害にあう恐れがないとは言えません。しかし、生活費を小分けにして渡したり、ヘルパーさんと一緒に管理することで、被害を防ぐことができます。また後見人は、万一、本人が不利益な契約をしても、その契約を取り消すことができます。しかし、悪質業者にとって肝心なことは、契約することではなく、何らかの名目で高齢者からお金を引き出すことですから、後見人がついて本人がお金を自由にできなくなると、相手にしなくなります。したがって後見人が取消権を使うことは、実際には非常に少ないのです。取消権が使えるのは、後見人が選ばれた後で、本人がした契約だけです。選ばれる前の契約については、取消権を使うことはできません。

 認知症等高齢者に成年後見制度が役立つためには、身近にいる人たちの手助けが欠かせません。高齢者が自分から「後見制度を使って」と言ってくることは、まずありません。後見人が必要と思われる高齢者がいたら、遠慮しないでとにかく地域包括支援センターなどにつないでください。
 「見つけて、つなぐ」これが成年後見制度を使うための第一歩なのです。

【成年後見制度】

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