東京くらしねっと 10月号

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今月の話題 東京都消費者月間特集 平田オリザが語るコミュニケーションデザイン

劇作家・東京藝術大学特任教授 平田 オリザ(ひらた おりざ)10月は東京都消費者月間です。メインシンポジウム講演会でご講演予定の平田オリザさんより、特別にご執筆いただきました。

<プロフィール> 1962年東京生まれ。劇作家、演出家。こまばアゴラ劇場芸術監督、劇団「青年団」主宰。東京藝術大学アートイノベーションセンター特任教授、大阪大学コミュニケーションデザイン・センター客員教授。四国学院大学客員教授・学長特別補佐、京都文教大学客員教授。1995年『東京ノート』で第39回岸田國士戯曲賞受賞。2003年『その河をこえて、五月』(2002年日韓国民交流記念事業)で、第2回朝日舞台芸術賞グランプリ受賞。2011年フランス国文化省よりレジオンドヌール勲章シュヴァリエ受勲。

今月の話題 東京都消費者月間特集 平田オリザが語るコミュニケーションデザイン

劇作家・東京藝術大学特任教授 平田 オリザ(ひらた おりざ)10月は東京都消費者月間です。メインシンポジウム講演会でご講演予定の平田オリザさんより、特別にご執筆いただきました。

<プロフィール> 1962年東京生まれ。劇作家、演出家。こまばアゴラ劇場芸術監督、劇団「青年団」主宰。東京藝術大学アートイノベーションセンター特任教授、大阪大学コミュニケーションデザイン・センター客員教授。四国学院大学客員教授・学長特別補佐、京都文教大学客員教授。1995年『東京ノート』で第39回岸田國士戯曲賞受賞。2003年『その河をこえて、五月』(2002年日韓国民交流記念事業)で、第2回朝日舞台芸術賞グランプリ受賞。2011年フランス国文化省よりレジオンドヌール勲章シュヴァリエ受勲。

 ここ数年、世間では「コミュニケーション能力」ということが、口やかましいほどに言われている。経団連が行っている経年調査では、就職試験でもっとも重視する項目として、九年連続で「コミュニケーション能力」が、二位以下を大きく引き離してトップに挙げられている。では、果たして、そこで言われる「コミュニケーション能力」とは何か? いったい、それが問題になるほどに若者たちのコミュニケーション能力は低下しているのか?

 まず結論から言えば、子供たち、若者たちのコミュニケーション能力が低下しているという科学的な数値は存在しない。どんな言語学者、どんな社会学者に聞いても、良心的な学者ほど「上がっているのではないか?」という答えが返ってくる。たしかに、音感やリズム感、ファッションセンスなど、自己表現に関わる多くの部分が、私たちオヤジ世代よりも、今どきの若者たちの方が数倍発達しているようにも思える。

 では、本当に問題はないのか?
 私は、問題の本質は、能力の低下ではなく、意欲の低下なのではないかと言い続けてきた。
 たとえば、いま、小学校の高学年になっても単語でしか喋らない子どもが増えている。だが、これは、どうも子どもの能力の問題とは考えられない。想像してみて欲しい。兄弟が多ければ、子どもが「ケーキ、ケーキ!」と言っていても、誰も取り合わないだろう。しかし、いまは、一人っ子で、優しいお母さんなら、すぐにケーキを出してしまう。もっと優しいお母さんなら、子どもが「ケーキ」と言う前に出してしまうかもしれない。言語は、言わなくていいことは省略される方向に変化するという法則を持っているので、「ケーキ」と言っただけでケーキが出てくるなら、子どもは「ケーキ」としか言わなくなる。

ケーキ イラスト

これは家庭の中だけの問題ではない。学校でも優しい先生が、なんでも先回りして察してくれる。子供たち同士は、いじめは、するのもされるのもいやなので、気の合った四、五人の仲間でずっと行動をする。
 そんな温室のようなコミュニケーションの中で育てられて、高校、大学、あるいは大学院に行ってから、いきなり「はい、コミュニケーション能力です。この能力がないと就職できません」と脅かされる。もちろん、たいていの若者は、そこに順応していくのだが、当然、一定数、「聞いてないよ」と思う子供たちが出てくるだろう。「え、どうして、ケーキが出てこないの? いままでは、『ケーキ』って言うだけで、みんな判ってくれたじゃない。もしかして、みんな僕のことが嫌いなの?」と思ってしまう。自分のことをわかってくれない人は、自分を嫌いな人だと思ってしまうのだ。他者がすべて敵なら、生きるのが辛くなる。これが、引きこもりやニートの遠因になっている。

 消費社会という面でも、この観点は重要だ。かつて、例えば駄菓子屋さんというのは、コミュニケーション能力の高い子どもが、確実に得をするシステムだった。駄菓子屋のおばさんと仲良くなれば、五回に一回は当たりくじをこっそり引かせてくれる。そういう年長者の姿を見て、小さな子供たちも早く大人になりたいと願った。十円玉を握りしめて、少ない資本を、どうにかして有効活用しようとみなが必死になった。究極の消費者教育と言えよう。
駄菓子屋のおばさんも、子どもが一万円札で買い物に来たら、少し注意をしたり、あるいはその母親に、「お宅のお子さん、今日一万円札で買い物に来たわよ。景気いいのね」と、それとなく嫌み混じりに報告するかもしれない。私はこういった機能を、「無意識のセイフティネット」と呼んできた。商店街は、立派な教育の場だった。

駄菓子屋 イラスト

 しかしいまは、子どもが五百円玉で買い物をしようが、一万円札で買い物をしようが、コンビニのアルバイト店員は黙ってレジをうつだろう。ファストフードの店に行けば、三歳の子どもが一万円札で買い物をしても、店員は、こともなげに「ポテトはいかがですか?」と尋ねる。
ところが一方、大人になると、高度なコミュニケーション能力を突如要求される。賢い消費者になるためには、店員とのやりとりや情報収集能力は欠かせない。だが、いまの子供たちは、それをどこで学ぶのか?

コンビニ イラスト

 もう一度整理する。子どものコミュニケーション能力は少しずつでも上がっている。しかし、社会の要求は、グローバル化などによって、よりいっそう肥大化している。一方、子どもが育つ環境自体は、少子化、核家族化、地域社会の崩壊、そして情報化などによって、どんどんと、コミュニケーションの要らない方向になっている。このように問題を整理してから、コミュニケーション教育に取り組まなければ、いっそう子供たちを追い詰める結果になるだろう。
 子どもは、基本的に遊びの中で、コミュニケーション能力を身につけていく。しかし、一部に(決して全部ではない)、そういった遊びの場が崩れてしまっているところがある。私たちは、学校で、地域社会で、家庭で、少し人為的にでも、この遊びの場、他者との出会いの場を復活していくしか、「コミュニケーション教育」と呼ばれるものの、本当の近道はない。

メインシンポジウム  講演会とミニコンサート 参加費無料 メインシンポジウム  講演会とミニコンサート 参加費無料

10月29日(水)13:30~16:00(開場13:00)

▶講演会(13:30~15:00)
「平田オリザが語る コミュニケーションデザイン」
▶ミニコンサート(15:15~16:00)
想いをつむぐ歌 byグループあい
市川 恵美さん(ソプラノ) 佐藤 美佳さん(ピアノ)

▶会場:新宿明治安田生命ホール ※地図は次頁をご参照ください

▶申込方法:電話・FAX・HP・Eメール

平田オリザ
撮影:青木 司

申込先・問い合わせ

2014 東京都消費者月間事業のご案内 もっと広げようコミュニケーションの輪 未来につなげる消費行動

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