東京くらしねっと くらしに役立つ都民のための消費生活情報誌 2012年≪平成24年≫ 2月号 No.178
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サイン・マークのひみつ 読者委員 林 悦子(はやし えつこ)

サイン・マークの意義「サイン・システム」の構築おわりに

 街に出ると、デパートや駅ビルといった施設の中で、また、エレベーターやエスカレーターに乗るときにサインやマークが多く見られます。サインやマークはどうやって成り立っているのでしょう。理解を深められれば私たちの生活はより便利になりそうです。
 そこで村越愛策氏にお話を伺いました。サインやマークの第一人者としてISO(国際標準化機構)案内用図記号国内委員会主査やJIS案内用図記号原案作成委員会の委員長をなさったほか、成田・羽田をはじめ全国の空港やJRなどの公共サインを手がけ、千葉大学教授なども務められました。現在、株式会社アイ・デザインの取締役会長でいらっしゃいます。

サイン・マークの意義

 まずサインやマークの意義・役割をお聞きすると即座に「視覚的な情報伝達装置です。」と断言されました。
 情報伝達の手段で一番正確なのは文字ですが、ヨーロッパは異言語がひしめき合う地続きなので、文字ではなくマークの研究や統一が進んでいます。道路交通標識では1949年国際連合により、マークによる表示が統一されました。日本では東京オリンピック(1964年)開催を契機に、国際的に通用する案内用のサインやマークとして、羽田空港のサインや競技種目別のマークが開発されました。
 マークは言葉がわからなくても見るだけでその意味がわかり、国際的に通じるものです。
 サインを構成する重要な要素は文字、マークそして形と色です。そこで形と色について・・・
●形の意味
 サインやマークでは○□△が多く使われています。図形の基本で目立つものです。それぞれに意味が与えられ統一性をもっています。日本をはじめ各国の道路標識では、○は禁止や規制、□は案内や指示、◇は警戒、▽は注意を表しています。
●色の意味
 色は遠くからでも、情報伝達できる特性があります。サインやマークでは視覚情報を強化するために色の持つイメージを「利用」しています。
 JISでは、事業場などで使用する災害防止や救急関連などを示すために「安全色彩」を定め、それぞれの色に意味を持たせています。赤色は防火、禁止、停止、危険、緑色は安全、避難、衛生、救護、黄色は注意、青色は指示、用心の表示に使用されています。ほかにも黄赤色(危険)、赤紫色(放射能)などがあります。
 もともと色には心理的に持つイメージがあります。これを利用して、赤色は危険を表すサインとして使用され、一般禁止や消火器などに用いられています。一方、緑色は非常口や広域避難場所などの表示に使用されています。
 また同じ色の名前であっても、明るさや鮮やかさによって複数の色が表現されます。JISでは色を特定できるように、「MUNSELL BOOK OF COLOR」をもとに色を指定しています。ひと口に赤色と言っても幅がありますが、JISの赤色はマンセル値「7.5R 4/15」で厳密に特定できるそうです。
  JISの「案内用図記号」は公共の施設などの案内に使われています。その例を紹介します。

イメージ:非常口  イメージ:一般禁止
出典 「標準案内用図記号ガイドライン」

「サイン・システム」の構築

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営団地下鉄(現・東京メトロ)
千代田線大手町駅(1973年完成時)

サインは設置方法にも工夫がされています。実際手がけた作品について村越氏にお伺いすると、「マークより上位概念にあるサイン(記号)は難しい。」とおっしゃいました。村越氏を含め、関係業者など複数のチームとともに手がけた地下鉄千代田線大手町駅と成田空港第1と第2ターミナルを参考に、製作者側の意図を探ってみましょう。

 営団地下鉄(現・東京メトロ)千代田線大手町駅では、サイン・システム計画のテストとして、1972年に調査が開始され翌年に完成しました。
 当時、広くて複雑な地下街から地下鉄に乗るには、デパートや銀行などによる様々な文字広告や手書きの案内板などが無秩序に設置されていたそうです。
 地下鉄は朝・昼・夜の区別がなく周りが見えない閉鎖された空間のため、人は方向感覚を保てません。ですから、「文章で読ませるより色で見せる方がいい。」と考え、「入口は緑。出口は黄。」と色にルールを持たせました。改札口表示を緑色にして、地下鉄を利用する人は丸い輪の路線カラーと緑色の帯を頼りに歩きます。一方、地下鉄を降りた利用者は出口への案内として黄色の帯と黄色の案内板に従うだけでよいようにしたそうです。
 また、成田空港の場合も、色が情報伝達の重要な要素として大いに使われました。
 空港は老若男女を問わないだけでなく、いろいろな国籍の人が利用するところです。ここでも、空港施設の空間全体で「緑の帯はこれから飛行機に搭乗する人、黄色の帯は到着後に出口に向かう人」への目印として色にルールを持たせ、情報を伝えています。
 色や形が決まると次に、設置する位置が重要になります。歩く人の視界に入る角度、車いすの場合の視界はどの程度かといった人間工学的な研究も必要となります。これらを踏まえ、サインの設置場所が決まります。こうして、周りの風景も含めた空間全体のサイン・システムが構築されるそうです。
 ここで先ほどの「サインは難しい。」という言葉の意味がわかりました。マークは机上で作られますが、サインとして公共の環境で機能するためには、建築や電気その他様々な業種の専門家との協働が必要なのです。
 公共の場に設置されたサインは、こうした工夫の結果なのです。

おわりに

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村越氏から説明を聞く林委員(左)

「そもそも人は植物と違って歩く『動物』なので、公共サインとは、人をいかにスムーズに目的地に移動させることができるか、いわば『灯台守』の役割だ。」と村越氏はおっしゃっていました。サインやマークは、形と色とを組み合わせたものと思っていましたが、空間や環境の全体をとらえ多方面の研究の上に成り立っていることがわかりました。
 それでも、やはり文字は情報伝達には欠かせない重要な要素だということです。サインやマークのそばに文字があると正確さが増します。昔は日本語に英語だけを付けていましたが、最近は韓国語・中国語を加えた4か国語表記を求められています。
 しかし、限られた一つの空間や施設の中で、確かに色にはルールがあり、それに沿っていくとスムーズに移動できるのを実感できます。わからなかったら、まずは色に注目し、たどっていくことで共通の意味や情報を見つけられそうです。
  最後に、村越氏には大変長い時間、貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。