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今月の話題

その話、本当に儲かりますか?
~マルチ商法のわな~

若者向け悪質商法被害防止
キャンペーン月間特集
たつき総合法律事務所
弁護士 洞澤 美佳(ほらさわ みか)
 マルチ商法に関する相談が跡を絶ちません。最近では、友人からの紹介だけでなく、SNSを通じて勧誘されることも多くなっています。
 とりわけ、若者はSNSを利用することが多く、見ず知らずの人物とつながることへの抵抗が少ないため、ターゲットにされやすい傾向にあります。
 また、一見してマルチ商法とわからないこともあるなど、取引の仕組み自体も複雑化しています。そこで、最近のマルチ商法の相談事例を通じて、情報提供します。

マルチ商法って何?

 商品の購入(売買契約)や、賃貸借契約などサービス(役務)提供の契約をする、といった取引は、みなさんにとっても、身近な取引であると思われます。
 しかし、マルチ商法は、単に商品の購入やサービスの契約をするにとどまらず、これらの契約をして販売組織に加入した者が、今度は自分で買い手を探し、友人や知人などを組織に加入させ、新たな加入者を広げることで組織が拡大する一方、買い手が増えるごとにマージンが支払われる仕組みの取引です。
 マルチ商法は、1960年代以降に日本に入ってきましたが、当時は多くの被害を出し、家計の破綻、自殺、人間関係の破壊といった深刻な社会問題となりました。こうしたマイナスイメージを払拭するために、勧誘では「ネットワークビジネス」といった言葉が用いられることもあるようです。
 マルチ商法は、昭和51年に「連鎖販売取引」という形で、訪問販売や通信販売と共に「訪問販売等に関する法律(訪問販売法)」(平成12年に「特定商取引に関する法律(特定商取引法)」に改称)により、規制されるようになりました。
 なお、マルチ商法との関係で「マルチまがい商法」「ネズミ講」という言葉を聞くことがあります。
 「マルチまがい商法」とは、実態はマルチ商法であるにもかかわらず、特定商取引法で規定されている連鎖販売取引の要件(定義)に該当しないように装うことで、規制逃れ(脱法)を図ろうとする商法です。とはいえ、一見、法の定義に当てはまらない合法な取引のように見えても、その実態を踏まえ、マルチ商法を規制する本来の法の趣旨と照らし合わせて、取引の違法性が検討されます。その結果、特定商取引法の規制が及ぶ場合もありますし、同法の規制が及ばなくとも、取引が公序良俗に反し無効となる、又はこの種の取引の勧誘行為が不法行為に基づく損害賠償責任の対象になり得るといった場合もあります。
 また「ネズミ講」とは、加入者が新たな加入者を広げて組織が拡大していく、という点ではマルチ商法と似ていますが、両者は全く異なる取引という位置づけです。マルチ商法は、商品やサービスの販売組織であるのに対して、ネズミ講の場合は、単なる金銭配当組織であるという点で大きく異なっています。そして、ネズミ講は「無限連鎖講の防止に関する法律」により規制され、その取引が全面的に禁止されている犯罪行為です。もっとも、実際には商品が存在しないにもかかわらず、商品購入の勧誘を装い、「預かっておく」などと言って商品が消費者に渡されないといった場合には、マルチ商法を装い、ネズミ講の規制を逃れようとしている場合もあります。

連鎖販売取引(マルチ商法)の事例

 ところで、自分はウマイ話にはひっかからないから大丈夫、と思う方がいるかもしれません。そこで、現実に特定商取引法に基づく行政処分を受けた事例や国民生活センターの報道発表資料で紹介された相談例などを参考に、マルチ商法が実際にどういう形で、みなさんの前に現れるかを紹介します。

事例❶

「健康に関する話なので、まずは私の話を聞いてもらいたいから会いたい」「無料でマッサージ、エステをする」等と告げて、担当者が消費者宅を訪れた。担当者は消費者に無料でマッサージを施して帰った。その後も担当者が何度か消費者宅を訪れて無料でマッサージを施したが、何度目かの来訪の後、消費者宅で磁気のマットレスを敷いて「これに寝れば体がしゃんとする」等と言って、マットレスをそのまま置いて帰った。後日「マットレスは引き取ってほしい」と申し出た消費者に対して、「(マットレスと)同じ20万円だからネックレスを契約してもらわないと困る」「あなたは友達も多いし、誰かを紹介してくれれば、あなたに3万円入るから、ネックレスの20万円もただになってすぐに元が取れる」などと勧誘し、「そんなネズミ講のようなことはしたくない」と断る消費者に対して、最終的にはネックレスの購入契約を締結させた(平成28年12月16日、消費者庁の行政処分の事例参照)

事例❷

SNSに「主婦でありながら稼いでいる」という書き込みがあったので、投稿者に仕事の内容を聞いたところ、海外の事業者と契約して儲けているとのことで、その人から登録申請するためのURLや利用規約が送られてきた。稼ぐためにはウェブサイトを作る必要があり、その費用が20万円ぐらい必要であること、この事業を人に紹介すると1人につき数万円の紹介料がもらえること、登録後も不明なところはいつでもサポートする、と言われ、クレジットで決済をした。事業の内容の詳細は動画で確認するようにと言われURLが送られてきた。契約後、業者にシステムの不明な点を問い合わせたが、マニュアルを見ろと言って全くサポートしてくれない。今後どのように作業したら良いか分からないので解約したい(平成29年6月15日、国民生活センター報道発表資料参照)。

その話、本当に儲かりますか?

 これらの事例は、いずれも友人等を紹介して組織に加入させればマージン(法律上は「特定利益」といいます。)を得られると誘引する一方で、入会金を払ったり、商品やサービスを購入しなければならない(「特定負担」といいます。)契約をしており、典型的な連鎖販売取引(マルチ商法)の事案ですが、どの事例もいきなり契約をさせられているわけではありません。
 きっかけはSNSであったり、事業者からの電話勧誘であったり、友人等からの誘いなど様々ですが、勧誘に先立って本来の勧誘目的が告げられないことも多く、まさか自分が連鎖販売取引(マルチ商法)の契約をするなどとは夢にも思わず巻き込まれた消費者からの相談がほとんどです。また、担当者が何度か消費者の自宅に訪問して無料のサービスを提供したり、商品を置いていくなどして、断りにくい状況が作り上げられてしまったり、仕事がしたい、という気持ちにつけ込んで、もっともらしいシステムを紹介する過程で、マージン(特定利益)が得られると誘引することが多く、むしろマルチ商法だとわかりやすい形で取引に入るパターンは、そう多くはありません。
 特定商取引法上、連鎖販売取引では勧誘に先立ち、氏名・勧誘目的・勧誘にかかわる商品等の種類を明示しなければならないとされています。その意味で紹介した事例は、勧誘に先立つ段階からすでに違法状態であるといえますが、そのようなことはなかなか気づきにくいものです。
 また、連鎖販売取引を行う場合、法律で定められた事項を記載した書面(概要書面・契約書面)を交付しなければなりません。また、広告の表示方法や勧誘方法についても種々の規制があります。
 消費者は、法定の書面を受け取った日(商品の引渡しの方が後である場合には、その日)から数えて20日間以内であれば、クーリング・オフをすることができます。20日間を経過した後でも、一定の要件を満たせば中途解約し、受け取った商品を返品することも可能です。しかし、最近では、海外の事業者であることを理由に、事業者側が日本の法律である特定商取引法の適用を拒否するなど、解決が難航する場合もあります。
 現実の事例は複雑で巧妙です。「自分は大丈夫」という思い込みは被害に遭うきっかけを生みます。また、取引を始めるためには、まずは商品やサービスの対価を支払わなければならない一方で、その支出を穴埋めし、さらに儲けを生むためには、自分で友人や知人、あるいはSNSで知り合った人等を紹介してマージンを受け取る必要があります。本当にその話は儲かる話なのか、落ち着いて考える必要があります。
 また、このような取引で、他者を巻き込み儲けを生むことは、時として加害者として位置づけられ、勧誘により損害を負った者から責任追及される場合もあり得ます。
 難しい問題がたくさんありますので、おかしいと思ったら、まずは最寄りの消費生活センターに相談し、専門的な助言を求めるようにしましょう。