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今月の話題

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防ぐ!
カビから食品を守りましょう

東京都健康安全研究センター
微生物部 食品微生物研究科
 梅雨になるとカビの発生が気になりますが、実は一年中発生しています。
 カビには食品加工に用いられる有用なものから、食品を劣化させる有害なものまで様々な種類があります。これらのカビには増えやすい条件がいくつかあります。カビによる食品苦情の実態と実例からカビの性質を学び、カビから食品を守りましょう。

カビとは?

カビの光学顕微鏡写真

 葉緑体を持ち、太陽光と水から自分で栄養分を作って生育する植物と違って、カビは葉緑体を持たず、植物などの栄養分を分解し、生育しています。分類学的には真菌類に分類され、キノコや酵母も同じ仲間に含まれます。
 カビは菌糸胞子から構成されています。菌糸は細胞が糸状につながったものが枝分かれして伸びており、栄養分の吸収及び運搬や、胞子を形成するための細胞に分化します。胞子はカビが仲間を増やすことに関わる細胞で、胞子を飛散させ、生息場所を広げます。胞子の形や色は種類によって特徴があります。

カビの光学顕微鏡写真

食品とカビ

 地球上には何万種ものカビが存在しており、私たちの身近な食品にもたくさん利用されています。コウジカビは酒、みそ、しょう油、かつお節など、アオカビはブルーチーズやカマンベールチーズなど、そして酵母はパン、ビール、ワインなどの製造に使われています。
 一方、食品を変色させ、異味、異臭を引き起こす有害なカビもあります。また、カビがつくる毒(カビ毒)の中には、人体に慢性毒性(長期間さらされた場合に生ずる毒性)を示すものがあります。

カビ苦情の実態

 製造工程で混入した異物や、消費に至る過程で繁殖した微生物などにより、色や味、臭いが異常になった食品は、「苦情品」として保健所に持ち込まれます。これらのうち、東京都で過去8年間にカビを原因とする食品苦情として検査を実施した件数は160件でした。
 食品の種類別に見ると、お茶やジュースなどの嗜好飲料、惣菜類などの複合調理食品、菓子、穀類の順に多く、この4種類で全体の65%を占めていました。実際の食品では、輸入チョコレートや唐辛子、ペットボトルに入ったウーロン茶や減塩梅干しなどがありました。
 苦情品に多く見られるカビの種類は、酵母、アオカビ、クロカビ、コウジカビで、この4種類で全体の70%以上を占めていました。アオカビ、クロカビ、コウジカビは、室内環境でもよく見られる種類です。
 こうした苦情は夏場を中心とした6~10月に多く、冬は少ない傾向があります。これは、気温と湿度が高くなる梅雨時から秋にかけては、カビが発生しやすく、逆に冬は気温と湿度が低く、カビの生育には適していないためです。

◎食品に生育してしまった例 ~こんなところにもカビは生えます~

アオカビが生えたウーロン茶
菌糸が球状になったアオカビ
ペットボトルに入ったウーロン茶にアオカビが生えた事例
お茶にもカビが生えることがあります。ペットボトル開封後は冷蔵庫で保存し、速やかに飲用しましょう。
アオカビが生えたチョコレート
青緑色の胞子を作るアオカビ
輸入チョコレートにアオカビが生えた事例
輸送の際に結露を生じると、水分が少ない板チョコでも、カビが生えることがあります。
コウジカビが生えた梅干し
乾燥や熱に強く、どこにでもいるコウジカビ
減塩の梅干しにコウジカビが生えた事例
減塩の食品は、カビが生えやすくなります。開封後は冷蔵庫で保管しましょう。
ケカビが生えた唐辛子
成長が早く、低温でも成長しやすいケカビ
唐辛子にケカビが生えた事例
乾燥品であっても、結露を生じるとカビが生えることがあります。湿度が低く、温度変化が少ない場所で保管しましょう。

カビの増え方

 カビの増殖には、生育に十分な温度、水分、酸素、栄養の4つの要素が大きく影響しています。
 カビの胞子は、増殖に都合のよい条件がそろうと発芽して菌糸を伸ばし、2~3日で目に見える大きさになります。1週間もたつと新たに多くの胞子を作り、その胞子が風や水、あるいは人によって他の場所に運ばれ、再び発芽し、生育します。この繰り返しによって、カビは増えていきます。

カビを防ぐ

 カビの胞子はどこでも浮遊しているため、通常は食品にも付着しています。付着したカビの胞子が発芽するのは、生育に適した温度や水分、十分な酸素や栄養源と時間などが必要です。食品の中でカビが増えた場合は、製造・流通・販売・購入後の保管などの段階でこれらの条件がそろってしまった可能性があります。
 食品中のカビの発生を防ぐためには、これらカビの生育に必要な要素を少なくしていくことがポイントです。
 そこで、カビを生やさない一般的な注意点をご紹介します。

①購入した食品の保存方法に気を付けましょう

 唐辛子のような乾燥食品は、食品を乾燥させることでカビの増殖を防いでいます。ところが唐辛子や板チョコレートのように水分が少ない食品でも、包装内で生じた結露により、カビが発生してしまう場合があります。家庭で食品を保存する場合は、湿度が低く、急激な温度変化が起きないような場所で保管しましょう。また、お店で購入した食品は、包装紙に印刷された保存方法をよく確認しましょう。

②調理した食品はなるべく早く消費しましょう

 カビが増殖するには、一定の時間が必要です。調理した食品は、なるべく早く消費しましょう。
 実は冷蔵庫は結露しやすく、低温を好むカビが繁殖しやすい環境です。冷蔵庫を利用する場合は、食品の詰め込み過ぎや熱いまま冷蔵庫に入れると庫内の温度上昇につながるため、注意しましょう。また、ビン・缶類などは容器の外装を清潔に保ち、冷蔵庫内にカビが繁殖することを防ぎましょう。

③いったんカビが生えた食品は、食べないようにしましょう

 保存方法や消費期限・賞味期限に気を付けていても、カビが生えてしまうことがあります。いったんカビが生えた食品は、たとえ目に見える食品の表面を削り取っても、菌糸が食品内部まで伸びている場合があります。カビが生えた食品は、食べないようにし、胞子が周囲に飛散しないように注意して廃棄しましょう。

カビの生育条件

条件
温度 生育に適した温度は、20~30℃付近です。しかし低温で生育可能なカビもいるので、冷蔵庫を過信しすぎないようにする必要があります。
水分 多くのカビは湿度80%以上を好みますが、比較的乾燥した環境でも生育可能な種類もあり、湿度65%で生育するカビもいます。
酸素 カビは酸素が十分にある環境ではよく生育しますが、酸素が不足する環境条件では生育速度が遅くなります。
栄養 カビは自分自身で活動の栄養素となるグルコースなどの糖類を生合成できないので、有機物を栄養源にして生育します。
でんぷん、糖分などを好みます。