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今月の話題若者向け悪質商法被害防止キャンペーン月間特集
手軽に儲かる
「ビジネス」「バイト」に注意!
~副収入をめぐる若者消費生活トラブル~

池袋総合法律事務所
弁護士 志水 芙美代(しみず ふみよ)

春は若者の消費生活被害に要注意

 もうすぐ4月。進学・就職など新生活をスタートされる方も多いシーズンですが、若者を狙った消費生活被害が増える時期でもあります。親元を離れて一人暮らしを始めたり、新しい交友関係が広がったり、生活状況の変化に合わせてアルバイトを探し始めたり…。そのような若者を「ビジネス」「バイト」などと、うまい誘い文句で高額の契約をさせる被害が後を絶ちません。被害を未然に防ぐためには典型的な被害の事例を知っておくことが効果的です。
 そこで今回は、若者を中心に最近増えている副収入をめぐる消費生活トラブルの相談事例をご紹介します。

マルチ商法

事例 大学のサークルの先輩から「簡単に儲かる」と投資のノウハウを解説した学習用DVDの購入を勧められました。「儲かったお金で車や時計を買った人もいる」とのことで、その人がSNSにアップしたという高級車の写真まで見せられました。DVDの代金は50万円とのことだったので、そんなお金は持っていないと断ろうとしたら、「学生向けのローンを利用すれば大丈夫。誰でも簡単に50万円くらい稼げるし、新たに友人を紹介してDVDを買ってもらえれば紹介料10万円も入る。2~3カ月で元が取れる。」などと説得され、契約書にサインしてしまいました。その後、DVDの解説どおりにやっても稼げないし、友人を紹介することもできず、借金の返済が大変なので解約したいです。

解説 一般にマルチ商法と呼ばれている商法の典型的な事例です。マルチ商法とは、すでに販売組織に入っている人が別の人に商品やサービスを売って組織に加入させて利益(マージン)を受け取り、さらにその人が別の人に商品やサービスを売って組織に加入させて利益を受け取り…といった具合に次々に組織に加入させていく商法のことで、法律上は連鎖販売取引といいます。若者などの間ではネットワークビジネスとも呼ばれ、最近はSNSを介して被害が拡大しているケースも多くみられます。
 マルチ商法について特定商取引法では、法律で定められた内容が書かれた契約書等を渡されてから20日間以内であればクーリング・オフ※することができます。また、事実と違うことを言われて勧誘されたケースでは、契約を取り消すことができる場合もあります。事例でも、「誰でも簡単に50万円くらい稼げる」「2~3カ月で元が取れる」といった事実と異なる内容を事実と勘違いして申込みをした場合は、申込みの意思表示を取り消すことが考えられます。

「簡単に儲かる」などという、うまい話はありません。誘いはきっぱりと断りましょう。また、マルチ商法の場合、新たに友人を勧誘して契約させると、今度は自分が加害者の立場になってしまい、人間関係も壊れてしまいます。契約した後に、おかしいと気づいた場合も、新たに友人を引き込むことは絶対にせず、早めに相談窓口へ相談しましょう。

※クーリング・オフ…訪問販売など特定の取引の場合、一定期間内であれば無条件で申込みを撤回または契約を解除できる制度。

サイドビジネス商法

事例 アルバイトを探す感覚でインターネット広告で見た副業サイトに登録したところ、「在宅のサイドビジネスで高収入」というメールが来たので詳細を電話で問い合わせたところ、パソコンの資格取得のための学習教材(30万円)の購入を勧められました。資格が取れれば教材費くらいはすぐに稼げるとのことだったので、分割払いで購入しました。その後、頑張って資格も取得したのですが、ほとんど収入はなく、教材費の支払いだけが残ってしまいました。解約できないでしょうか。

解説 在宅ワークで簡単に収入が得られるとして、講習の受講をさせたり、教材を買わせたり、ホームページの開設費用を負担させたりといったサイドビジネスに関わる被害の一例です。従来は内職商法と呼ばれてきたものですが、最近は若者をターゲットにパソコンを利用したサイドビジネスなどとして勧誘されるケースが多く見られます。
 内職商法のような、「業者が仕事をあっせんするので収入が得られる」などと勧誘し、消費者にあっせんする仕事のための商品やサービスを購入させる取引(業務提供誘引販売取引)については、マルチ商法と同様に、特定商取引法が20日間のクーリング・オフ期間を定めています。また、事実と違う説明で勧誘された場合に解約できる場合があることもマルチ商法と同様です。

在宅ワークで簡単に収入が得られるという好条件のサイドビジネスがそう簡単に見つかるはずはありません。契約内容をよく確認し、慎重に検討しましょう。

スカウト詐欺

事例 繁華街の駅前で「モデルのアルバイトをしませんか。」とスカウトされました。興味がある、と伝えたところ、美容商品が並べられたマンションの一室に連れていかれ、プロのカメラマンらしき人に写真撮影をしてもらいました。その上で、「モデルとして仕事をするなら脱毛エステに通った方がいい。美容商品の契約書を書いてもらえればエステも付いてくる。代金はこちらで負担するので一切払わなくていい。」と言われたので、美容商品を70万円で購入するクレジットの申込書に記入しました。最初の2カ月は毎月のクレジット代金の引き落とし時期に合わせて引き落とし額と同額の振り込みがあったのですが、それ以降は振り込みが途絶えてしまいました。モデルとしての仕事の依頼も一切なく、それどころか担当者と連絡が取れなくなってしまったので、クレジット契約を解約したいです。

解説 20代位の若い女性を中心に事例のような被害相談が多く聞かれます。「スカウト」「無料ネイル体験」「アンケートに答えればプレゼント」などと、本来の勧誘目的を隠した誘い文句で店舗などへ連れて行き、その場で契約を結ばせる手口はキャッチセールスといって、特定商取引法の訪問販売の規定が適用されます。
 法律で定められた事項を記載した契約書面を交付されてから8日以内であればクーリング・オフでき、クレジット会社にも主張して支払いを停止できます。このようなケースではクレジットの申込書上、役務(エステ)が付属のサービスとして書かれていないことも多く、そのような場合は書面に不備があるのでクーリング・オフの8日間の期間は始まらないという解釈の余地もあります。
 また、勧誘にあたり事実と違う説明をされていれば、契約を取り消してクレジット会社からの請求を拒(こば)める場合もあります。事例の場合でも、経営が苦しいことを隠して「代金は事務所が負担するので一切払わなくていい。」と勧誘していたような場合は、契約の取消しを主張できる可能性があります。
 なお、事例は美容商品購入の契約ですが、もしエステサービスを受ける契約だった場合は、法律で中途解約ができる場合があり、業者が請求できる違約金の上限も定められています。(ただし、エステを受けられる期間が1カ月未満や、代金が5万円未満の契約には適用がありません。)

路上での声掛けに安易について行くのはやめましょう。魅力的な話が持ち掛けられてもその場で判断することはせず、一度持ち帰って家族など周囲の人に相談しましょう。

相談窓口の紹介

 事例でご紹介したように、クーリング・オフの期間は8日間や20日間と短いですし、事実と異なることを告げられた場合の申込みの取消期間も法律で短めに設定されています。
 時間が経ってしまってからでも救済できるケースはもちろんありますが、早い時期での相談であればそれだけ解決の可能性が広がります。被害に遭った場合はできるだけ早く専門家に相談にすることが重要です。
 まずは、お近くの消費生活センターへご相談ください。

※消費者ホットライン TEL188

※消費者ホットライン TEL188は、お近くの消費生活相談窓口につながります。

アルバイトでの労働トラブル

 前述の契約トラブル以外にも若者が被害に遭いやすいのが、アルバイトでの労働トラブルです。
 典型例として、大学生なのに勉強の時間が取れなくなるほど長時間にわたる労働をさせられる、残業代が払われない、仕事上のミスで罰金を払わされる、ノルマを達成しないと店の商品を自腹で購入させられる、辞めたいと申し出ても辞めさせてくれないなどが挙げられます。おかしいと思ったら、毎日の出来事(出退勤の時間、業務内容、上司とのやりとり等)をメモに書きとめ、早めに労働相談の窓口に相談しましょう。

【労働相談窓口】

◎東京都ろうどう110番
(東京都労働相談情報センター)
TEL0570-00-6110
◎東京労働局 総合労働相談コーナー
TEL03-3512-1608

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