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今月の話題この夏知りたい!
東京の海と川
~都内の漁業と水産物の現状~

東京都産業労働局 農林水産部 水産課長
中野 卓(なかの たく)

 夏になり、海や川へ出かける機会が多くなります。東京の河川では、シジミやアユがとれることをご存じですか。
 また、伊豆諸島・小笠原諸島の海では、キンメダイやカジキをはじめ、さまざまな魚を対象とした漁業が行われています。
 東京の海や川はレジャーだけではなく、私たちの食を支える場となっているのです。

東京の海と川

 東京都には、東京湾から伊豆諸島・小笠原諸島に至る南北約2千キロにわたる広大な海域があり、大小200以上の島々が存在し、南鳥島(日本最東端)や沖ノ鳥島(日本最南端)が含まれます。また、伊豆諸島・小笠原諸島は、複雑な海底地形と黒潮の流れにより、日本有数の好漁場となっています。
 一方、都内を流れる多摩川などの河川は、マス類の養殖の場や、アユ、ヤマメなどの釣りをはじめとした、レクリエーションの場として、潤いや安らぎを創出しています。

東京の水産業

 東京都の水産業は、

  • ①伊豆諸島及び小笠原諸島周辺海域を主な漁場とする島しょの漁業・水産加工業
  • ②東京湾の漁業
  • ③多摩川・江戸川を主な漁場とする河川での養殖を含めた漁業

 に大きく分けられます。

①島しょの水産業

 伊豆諸島・小笠原諸島の周辺海域で行われる島しょ漁業は、東京の漁業の中心です。太平洋に浮かぶ島々の海は広大で、黒潮も流れ、日本全国の漁船が操業に来る好漁場です。しかし、島は天気が崩れると雨風が非常に強く、海も荒れます。こうした厳しい気象条件の中で、島の漁業者は小型の漁船を利用して漁業を行っています。島でとられた水産物は、定期船によって鮮魚で東京に運ばれ、小売店や料理屋に届きます。流通コストがかさむため、島の漁業者は、キンメダイやメカジキなどいわゆる高級魚を中心とした漁業を行っています。なお、夏のこの時期が旬で、脂がのって美味しい魚として、タカベをご紹介します。
 一方、島しょではムロアジなどを利用した、伝統的な水産加工品として「くさや」があります。独特の匂いがありますが、味は濃厚で旨みが凝縮されています。また、サバやムロアジなどを利用した新たな加工品づくりが進み出しています。

②東京湾の漁業

 かつては干潟が広がり、生産力が高く、漁業が非常に盛んでしたが、昭和30年代から埋め立て、水質悪化が急速に進みました。その後水質の改善が進み、現在はアサリを中心にスズキ、アナゴなどの漁業が行われており、漁獲した魚介類は江戸前ものとして人気があります。夏からシーズンになるハゼ釣りは、今でも多くの人が楽しんでいます。

③河川での漁業

 東京の河川でも漁業は行われています。多摩川、荒川などの下流ではシジミ漁、江戸川などではウナギ漁が行われています。多摩川はかつてアユの名高い産地で、江戸時代には幕府に献上するほどでした。昭和に入り、砂利採取、堰(せき)の設置、水質悪化などが進行し、アユは姿を消しましたが、下水道整備が進み水質が改善されるなどにより、近年では東京湾から多摩川を遡上(そじょう)する天然アユが非常に増え、水産資源として注目されています。
 また、多摩川上流では都が開発した大型化する「奥多摩やまめ」のほか、ニジマスなどマス類の養殖が行われるとともに、渓流の一部を区切ってニジマスなどを放流し、有料で一般の人に釣らせるマス釣り場が多くあります。マスの引きは強く、釣りの醍醐味が手軽に味わえます。初めての方、子供でも安全に楽しめますので、ぜひご家族でお出かけください。

とれる魚は地域によってさまざま

 東京の海は南北に長いので、地域によってとれる魚はさまざまです。東京湾は多摩川や江戸川など、大小60もの河川が流入しているため、水質、底質ともに河川の影響を大きく受けています。そのため、こうした海に好んで生息するアサリや、スズキ、アナゴなどがとられています。
 一方、島しょでは外洋性の魚が中心となりますが、黒潮が三宅島と八丈島の間を流れ、その北と南では海の状況が異なります。黒潮の北側に位置する大島から三宅島までは、サザエやトコブシといった貝類、テングサやトサカノリといった海藻、島で赤イカと呼ばれるケンサキイカ、イセエビ、タカベ、イサキ、キンメダイなどがとられています。南に位置する八丈島ではムロアジ、トビウオ、キンメダイ、カツオといった魚類、小笠原ではメカジキ、ハマダイ、マグロに加え、体重が20kgにもなるソデイカや、昔からの食文化としてアオウミガメ(頭数制限あり)などが、とられています。

どんな方法で魚をとるの?

魚を漁獲する方法を「漁法」といい、魚の泳ぐ水深や好む餌など、その習性、生態に応じて効率よくとれるように発達してきました。ここでは東京都で行われている主な「漁法」を紹介します。

  • ①底魚一本釣り

    対象魚種によって生息する水深が異なる。キンメダイは深海に餌のついた釣針を下ろす。(キンメダイ 等)

  • ②定置網

    魚の通り道を網で遮断し、泳いでいる間に網の中に迷い込んでしまうように設計されている。

  • ③刺し網

    魚の通り道を網で遮断し、魚が網に突っ込むと体が網に引っかかる構造のため、網目の大きさの選択が重要になる。(トビウオ 等)

  • ④棒受け網

    餌をまいて魚を集め、大型の網ですくいあげる。(ムロアジ)

  • ⑤ひき縄

    擬餌針(ぎじばり)を付けた仕掛けを漁船でひきまわし、擬餌針を餌と間違えて食いついた魚を釣り上げる。(カツオ 等)

  • ⑥採貝藻

    素潜りで貝や海藻を手づかみや磯がねなどを利用して漁獲する。(テングサ・サザエ 等)

東京の水産業の課題

 東京の漁獲量はここ10数年ほぼ横ばいですが、かつては海藻や貝類、伊勢エビ、タカベ、カツオなどさまざまな種類のものを漁獲していました。近年こうした魚介類が少なくなり、変わってキンメダイに漁獲が集中しています。特定の魚種に依存する漁業の現状はキンメダイの資源にも影響を与え、好ましい状態であるとは言えません。多くの水産資源が減少する一方で、味が良く、資源はあるものの、輸送時間や輸送コストの関係から、十分活用できていないものも存在します。また、漁獲が不安定であることに加え、魚価は低迷が続いています。そのため漁業経営は厳しく、結果的に漁業をする人が減り、高齢化も進んでいます。
 一方、多摩川ではアユの天然遡上が近年増大していますが、多くの堰等の存在により、水のきれいな上流部まで遡上できるものは多くありません。また、こうした魚を食べるカワウによる被害も甚大となっています。

水産業振興に向けた取り組み

 東京都は地元の町村や漁業者と連携して、水産資源を増やすために、石やコンクリートブロックを海の中に入れて海藻や貝、エビの生息場所を作り、併せて人工的に貝類の子供や海藻の胞子を定着させるなど、水産資源の増殖に努めています。
 また、漁業対象種の資源状態や、生態調査を進め、効率的な漁業の推進、とり過ぎないようにするための情報収集、情報提供を行うとともに、違法操業を防止するためのパトロールや違反者への指導も行っています。
 一方、漁業活動を行うために必要な燃油の供給施設や冷蔵庫など、漁業者が共同で利用する施設を建設する際には支援を行っています。
 このほか、漁業後継者を増やす取り組みや、東京の漁業を都内の子供達に伝える取り組み、水産加工の取り組み支援なども行っています。
 多摩川では、中・下流に滞留するアユの遡上を促進するための取り組みや、捕獲して上流に放流する技術開発なども行っています。

どこで食べることができるか

 東京では水産業に携わる人が少ないため、漁獲量も多くありませんが、魚屋さんで「東京産」と表示された魚を見つけたら、ぜひ購入してみてください。
 東京都では東京産食材を利用している飲食店を登録し、ガイドブックや都のホームページでPRしています。都内の飲食店は「とうきょう特産食材使用店」、島しょの飲食店は、「東京島じまん食材使用店」を検索してご確認ください。

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