キャッシュカードの安全な扱い方
|
||
盗難・偽造されたキャッシュカードを用いて行われる不正な預貯金の引き出しが、ここ数年急増しています。平成16年の被害総額は21億円にのぼり、ほとんどの場合、預金者がその損失をかぶっています。これまで金融機関側は、盗難・偽造されたカードや通帳であっても、正規の引き出し手続きにのっとっていれば金融機関側には責任がないとして、損害の補償をしてきませんでした。
しかし、本人が知らない間に、盗難あるいは偽造されたカードで、夜更けにコンビニなどのATMを利用して現金を引き出され、それを預金者の責任にされたのでは納得できません。ある日、自分の預金口座からお金が忽然と消えてしまったり、カードに借り入れ機能が付いていれば、その限度額まで借りられてしまう可能性もあり、大きな被害を被ります。
今年2月、盗難・偽造カードや通帳による不正引き出しについての金融機関による補償について定めた「預金者保護法」(※)が、ようやく施行されます。
今回は、この「預金者保護法」について解説するとともに、消費者として気を付けるべき点などを取り上げます。
※正式名称は「偽造カード等及び盗難カード等を用いて行われる不正な機械式預貯金払戻し等からの預貯金者の保護等に関する法律」
被害はどのような状況で発生しているのでしょうか。金融庁では、平成16年10月から平成17年3月までに発生した偽造キャッシュカードによる不正引き出しの被害を中心に、実態調査をとりまとめ、その結果を平成17年10月14日に発表しています。
それによると、被害発生の原因や被害状況として、次のことが報告されています。
・スキミングなどの心当たりがある場所は、ゴルフ場などが大半
・被害に気付くまでの日数は、3日以内が24%
・暗証番号を生年月日としていた人が半数
・被害者の大半が男性で、年代は幅広い
・不正引き出しされた場所は、関東地方が大半
・コンビニのATMで深夜引き出されている場合が多い
スキミングとは、偽造カードを作るために、カードの磁気情報を小型の装置で読み取る手法です。偽造カードによる不正引き出しの手口は、キャッシュカードを盗みスキミングし、本人が知らない間にカードは戻しておき、生年月日やロッカー番号などを組み合わせて暗証番号を類推し、引き出してみる、といった方法ですが、もっと簡単に、カード自体や通帳を盗んで引き出す場合も多いのです。
最近では、それに加えて、ATMなどに設置した小型カメラによる暗証番号の盗撮。金融機関などを装ったメールを送り付け、偽のウェブサイトに誘導し、暗証番号などを聞き出すフィッシング詐欺。スパイウェアと呼ばれるプログラムをパソコンに侵入させて個人情報を盗み取る方法。カードを盗んだ上で、警察を装って暗証番号を聞き出す方法など、その手口もさまざまです。
2月から施行される「預金者保護法」は、ちょうど1年前、偽造カードによる不正引き出しの補償にどう対応するかで、金融庁で検討が開始されましたが、最終的には、議員立法として、盗難カードによる不正引き出しも含めた内容の法律となりました。
主な内容は、以下のようになっています。
―法律の目的―
偽造カードまたは盗難カードや盗難通帳を用いて行われる、現金自動支払機(ATM)での不正な預貯金の払い戻しなどの被害から、預貯金者の保護を図ります。
―保護の対象―
金融機関と預貯金契約を結んでいる個人が対象です。
―偽造カードの場合―
偽造カードを使ってATMで預貯金を引き出された場合は、預貯金者に故意または重大な過失がなければ、金融機関側に全額補償してもらえます。故意または重大な過失の立証責任は、金融機関が負います。
―盗難カードや盗難通帳の場合―
盗難カードや盗難通帳を使ってATMで預貯金を引き出された場合は、金融機関による補償について、以下の限定条件が付けられています。
(1)盗難にあったことについて、次のような届出・説明が預貯金者に義務付けられています。
1.盗難について速やかに金融機関に通知すること
2.金融機関へ遅滞なく、盗難の状況について十分な説明をすること
3.捜査機関に届出をしたことを、金融機関に申し出ること
(2)原則として、金融機関に通知をした日の30日前からの補償になります。
(3)預貯金者に過失があれば、4分の3しか補償されません。過失がなければ、全額補償されます。
(4)次の場合には補償されません。
1.預貯金者に故意または重大な過失がある場合
2.親族などにより行われた場合
3.盗難状況の重要事項について偽りの説明を行った場合
いずれも、金融機関側が立証責任を負います。
ただし、金融機関への通知が、盗難後2年経過してから行われた場合は、補償の申し立てそのものが認められません。
つまり、偽造カードによる不正引き出しであれば、よほどのことがない限り補償されますが、盗難の場合は、預金者側がうっかりしていたのではないかといった過失を問われます。しかし、これらの立証責任はすべて金融機関側が負うことになったので、これまでに比べれば、預金者は相当有利になります。
法律施行前の被害については、法律の付帯決議で「最大限の配慮」をすることとしていますが、具体的に被害の補償がどうなるかは明確ではありません。
なお、この法律はATMなどの機械による引き出しを対象としているので、盗難通帳と印鑑による窓口での不正引き出しや、最近増えている、フィッシング詐欺などによるインターネットバンキングでの不正引き出しは、対象外です。
「預金者保護法」の制定を受けて、全国銀行協会では、平成17年10月6日に「偽造・盗難キャッシュカードに関する預金者保護の申し合わせ」を発表しました。この中で、不正引き出し防止のための銀行の取り組みや、預金者への情報提供などをうたうとともに、預金者の「重大な過失または過失となりうる場合」の事例をあげています。
これによると、金融機関から再三注意されていたにもかかわらず、生年月日など他人から類推されやすい暗証番号を使用し、かつ、カードを健康保険証や免許証などと一緒に置いていたりしたような場合、また、同程度の注意義務違反があった場合には、預金者の過失が問われる可能性があるとしています。また、暗証番号をカードに書いていたり、カードを安易に他人に渡していた場合には、重大な過失を問われる可能性があるとしています。
不正引き出し防止策として、カードのIC化、生体認証の導入(静脈などによる本人確認)を図る金融機関も出てきています。引き出し限度額の引き下げも、多くの金融機関で取り組まれています。昨年、ATMでの操作の手元をのぞき見るカメラが設置される事件があって驚きましたが、のぞき見防止策も取られるようになりました。
預貯金の不正引き出しの手口は、非常に巧妙になってきています。また、最近のキャッシュカードは、借り入れ機能やクレジットカード機能などが付いたものが多くなっています。
消費者としては、次のことに注意しましょう。
1.必要な額以上に、普通預金口座に預金を置かない。
2.ATMでの引き出し限度額を下げる。(金融機関側も引き出し限度額を下げていますが、預金者も金融機関に申し込んで限度額を任意に設定することができます。)
3.借り入れの機能は、不要であれば外す手続きを取る。あるいは借り入れ限度額を引き下げる。(「預金者保護法」は、偽造・盗難カードを用いたATMでの不正借り入れについても、不正引き出しと同様に金融機関が補償することとしています。)
4.暗証番号は、生年月日など容易に推察できるものは使わない。
5.暗証番号を控えたメモなどを、安易にカードや通帳に近い場所に置かない。
6.預金口座の推移を1カ月ごとに点検する。
7.カードを紛失したり盗難にあった場合は、金融機関と警察にすぐ届け出る。
8.インターネット上での犯罪も増えているので、怪しげなサイトには近づかない。
また、キャッシュカードには、店舗での支払いの際、その場で口座から代金を引き落とせるデビットカード機能も付いています。専用の端末にカードを通して暗証番号を入力するので、情報を盗まれることのないように注意する必要があります。盗難・偽造カードがデビットカードとして不正に使われた場合は、「ATMによる預貯金の引き出し」と範囲を定めた「預金者保護法」の対象外となるため、補償は受けられません。
「預金者保護法」では、ATMによる引き出し・借り入れ以外は補償の対象になっていません。法律を過信せず、預金口座やカード・通帳の管理には、自分自身で十分注意を払うことが大切です。
